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一章 「世界征服はホドホドに」
その五
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「あ、見えてきたよ。ホラ、お花畑」
さされた指を目線でたどると、じわじわと数の減ってきた木々の向こうに、ちらほらと花が植えられているのが見える。それは頂上の少し手前まで広がっており、登って行くうちにその数を増していった。
「アレ?」
進んで行くうちに、トモカさんが首を傾げた。尋ねる前に、僕もそのわけに気づいた。
見えてきた頂上。そこに敷き詰められた一面の花々に混じって、掘り返されたような跡がある。
「枯れた花を抜いたのかな?」
僕は、すぐにその認識の甘さに気付いた。初めの方は丁寧に埋められていた跡が、しだいに大きく、乱暴なものになっていく。根っこがむき出しになったり、ほとんど土に埋まってしまっている花も少なくなかった。
「ひどい!!」
「誰が、こんなことを……?」
頂上に着いた時、花畑は、すっかりなくなってしまっていた。ところどころ、綺麗に直された土の上に、真新しい花が咲いているだけだ。気づいた花屋さんが一生懸命直したんだろう。掘り返した跡を埋めたのも、多分花屋さんだろう。そう思うと、胸がしめつけられる。
僕らは、木々のない、開けた頂上で足を止め、顔を見合わせた。
「――――ワタシじゃないよ!」
「いやわかってますよ」
ぐるりと見渡すと、ふと、まったく荒らされていない場所があることに気づいた。
「あれ、どうして、あそこだけ?」
僕が指さしたのは、中央付近の一点だった。そこだけ、掘り返された跡も新しく埋められた跡もなく、咲いているいくつかの花も、他と比べて古いもののようだ。遠目にもわかる、金魚鉢(きんぎょはち)をさかさまに垂らしたような、独特のシルエット。
「これ、スズラン、ですよね?」
詳しくない僕にもわかった。ここに植えられた花の中では、もっとも親しみがある。
「うん、チキュウの花だね」
改めて見返してみれば、無事に残っているのは地球の花だけだった。木犀(もくせい)花(か)で扱っている花は、木星の花が中心だったはずだ、偶然ではないだろう。
「もしかして、これをやったのは、――――地球人?」
「まさか」
トモカさんは取り合いもせずにケラケラと笑った。まぁ、そりゃそうか。今の地球にそんな人はいない。いたとしても、孤立するだけだ。
「おい! そこで何してんだ」
踵(きびす)を返した僕らの先に、茶髪の人影が佇(たたず)んでいた。バケツをかついで、何やらものすごい剣幕で迫ってくる。
「お前らか、うちの畑を荒らしたの!」
「い、いや、違いますよっ」
有無を言わさず胸倉を掴まれ、髪が触れるほどの距離で睨(にら)み上げられる。かけたエプロンに『木犀花(もくせいか)』とプリントされていた。茶髪の人影の正体は、木犀花(もくせいか)の店員だったらしい。イメージとは違い、不良のように目つきの悪い女の人だった。
伸ばしっぱなしのボサボサな茶髪に、花をかたどった白いピアスが耳元で光っている。エプロンの胸のあたりが膨らんでいるのが、唯一女性らしかった。
「ちょ、ちょい、ジュリちゃん! カズマはそんなんじゃないよ」
珍しく慌てふためくトモカさん。不良花屋の矛先がそちらに向く。
「あぁん? ……あぁ、トモカ。お前、いたのか」
「いたよ」
どうも知り合いらしい。途端に鋭い眼光が引っ込み、胸倉をつかむ手も緩んだ。
……放してはくれないらしい。
「先にこいつシバくから待ってろ」
「だから違いますって!」
「お前は黙ってろ!」
「ジュリちゃん、ホントに違うんだってばぁ!」
「だから黙ってろ! ……って、トモカか。なんだよ、お前こいつをかばうのか? いくらお前でも絶交すんぞ」
ジュリさんは、想像以上に腹を立てているようだ。それこそ家族の仇(かたき)のように。
さされた指を目線でたどると、じわじわと数の減ってきた木々の向こうに、ちらほらと花が植えられているのが見える。それは頂上の少し手前まで広がっており、登って行くうちにその数を増していった。
「アレ?」
進んで行くうちに、トモカさんが首を傾げた。尋ねる前に、僕もそのわけに気づいた。
見えてきた頂上。そこに敷き詰められた一面の花々に混じって、掘り返されたような跡がある。
「枯れた花を抜いたのかな?」
僕は、すぐにその認識の甘さに気付いた。初めの方は丁寧に埋められていた跡が、しだいに大きく、乱暴なものになっていく。根っこがむき出しになったり、ほとんど土に埋まってしまっている花も少なくなかった。
「ひどい!!」
「誰が、こんなことを……?」
頂上に着いた時、花畑は、すっかりなくなってしまっていた。ところどころ、綺麗に直された土の上に、真新しい花が咲いているだけだ。気づいた花屋さんが一生懸命直したんだろう。掘り返した跡を埋めたのも、多分花屋さんだろう。そう思うと、胸がしめつけられる。
僕らは、木々のない、開けた頂上で足を止め、顔を見合わせた。
「――――ワタシじゃないよ!」
「いやわかってますよ」
ぐるりと見渡すと、ふと、まったく荒らされていない場所があることに気づいた。
「あれ、どうして、あそこだけ?」
僕が指さしたのは、中央付近の一点だった。そこだけ、掘り返された跡も新しく埋められた跡もなく、咲いているいくつかの花も、他と比べて古いもののようだ。遠目にもわかる、金魚鉢(きんぎょはち)をさかさまに垂らしたような、独特のシルエット。
「これ、スズラン、ですよね?」
詳しくない僕にもわかった。ここに植えられた花の中では、もっとも親しみがある。
「うん、チキュウの花だね」
改めて見返してみれば、無事に残っているのは地球の花だけだった。木犀(もくせい)花(か)で扱っている花は、木星の花が中心だったはずだ、偶然ではないだろう。
「もしかして、これをやったのは、――――地球人?」
「まさか」
トモカさんは取り合いもせずにケラケラと笑った。まぁ、そりゃそうか。今の地球にそんな人はいない。いたとしても、孤立するだけだ。
「おい! そこで何してんだ」
踵(きびす)を返した僕らの先に、茶髪の人影が佇(たたず)んでいた。バケツをかついで、何やらものすごい剣幕で迫ってくる。
「お前らか、うちの畑を荒らしたの!」
「い、いや、違いますよっ」
有無を言わさず胸倉を掴まれ、髪が触れるほどの距離で睨(にら)み上げられる。かけたエプロンに『木犀花(もくせいか)』とプリントされていた。茶髪の人影の正体は、木犀花(もくせいか)の店員だったらしい。イメージとは違い、不良のように目つきの悪い女の人だった。
伸ばしっぱなしのボサボサな茶髪に、花をかたどった白いピアスが耳元で光っている。エプロンの胸のあたりが膨らんでいるのが、唯一女性らしかった。
「ちょ、ちょい、ジュリちゃん! カズマはそんなんじゃないよ」
珍しく慌てふためくトモカさん。不良花屋の矛先がそちらに向く。
「あぁん? ……あぁ、トモカ。お前、いたのか」
「いたよ」
どうも知り合いらしい。途端に鋭い眼光が引っ込み、胸倉をつかむ手も緩んだ。
……放してはくれないらしい。
「先にこいつシバくから待ってろ」
「だから違いますって!」
「お前は黙ってろ!」
「ジュリちゃん、ホントに違うんだってばぁ!」
「だから黙ってろ! ……って、トモカか。なんだよ、お前こいつをかばうのか? いくらお前でも絶交すんぞ」
ジュリさんは、想像以上に腹を立てているようだ。それこそ家族の仇(かたき)のように。
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