パラレヌ・ワールド

羽川明

文字の大きさ
11 / 57
一章 「世界征服はホドホドに」

その十

しおりを挟む
 来たる昼放課。
 古都(こと)さんの予言通り、なのか、僕ら二人は廊下を並んで歩いていた。
「……ダイジョウブかな、冥王(みお)ちゃん」
「停学かもしれませんね、最悪」
「なんか悪いコトしちゃったな」
「自業自得かと」
 話しているうちに、廊下の端に着いた。このすりガラスがはめ込まれた銀色のドアの向こうに、プールへつながる通路がある。僕は少しさびついたドアノブに手をかけ、振りかえった。
「……一応確認ですけど、もし本当に不良だったら、全力で逃げましょうね」
「え? ヤッつけちゃおうよ」
 トモカさんは、頼りないファイティングポーズでシャドーボクシングの真似ごとをし出した。
「わかってると思いますけど、僕、〝星の力〟使えませんからね」
「そうだっけ」
 わかってなかった。
「〝黒い〟地球人だって言ったじゃないですか」
「アレそういう意味だったの? てっきりそういう星の下に生まれたんだと思ってた」
「そんなわけないじゃないですか。それに地球は……」
「チキュウは?」
 …………あれ? そう言えば、地球人は、何色だったっけ。
「……いえ、何でもないです。それより、早く行きましょうか。本当に不良だったら、遅れると余計怒りそうですし」
「うん。そん時はワタシが守ってしんぜよう」
「……お願いします」

『――――ごめんね、カズマ』
 脳裏(のうり)に、昔の記憶が蘇(よみが)える。今にも消え入りそうな、か細い声が。

 僕には、〝星の力〟がない。だから、誰かを守ることなんて、……できやしないんだ。
 胸元に隠したペンダントが、じゃらじゃらとうるさかった。

           *

 果たして。プールサイドには誰もいなかった。来る途中、不用心にも開けっぱなしの更衣室や、シャワー室も確認したものの、人影はなかった。グラウンドからサッカーやバスケで遊んでいるらしい歓声が聞こえてくる以外、昼休みのプールは静かだった。強いて言うならプールの角から流れ出す水が、ごぽごぽと音を立てているぐらいのものか。
「……おなかすいた」
「弁当、食べてきて無いんですか?」
「食べたけど、ちょっと足りないや。ナンカ持ってない? サンマとか」
 とうのトモカさんは、まったく気にしていない様子だ。
「持ってません。ていうかなんでサンマなんですか」
「マグロかブリでもいいよ」
「だからなんで魚類?」
「だって、サカナなんでしょ? ウラナイ的には」
 一応気にしていたらしい。それとも、単に食べたいだけか。
「……こういうこと、前にもあったんですか?」
「何が?」
 ぐぅと大きくおなかがなった。トモカさんは、さすがに恥ずかしそうだ。
「いや、これ、きっといたずらか何かですよ。まぁ、番長とかの呼び出しよりはマシですけど、あんまり続くようなら、先生とかに相談した方がいいんじゃ……」
 途中から、トモカさんの視線が大きく横にそれた。そして、怪訝(けげん)な顔になる。
「――――あれ、ナニ?」
 トモカさんが指さしたのは、プールの水面だった。見ると、真ん中の辺りでぶくぶくと泡立っている。手前の角のパイプから流れ出る水の音が大きいせいで、まったく気がつかなかった。
「ん? さっきより、水かさが増しているような」
 パイプから出る水も、あんな勢いではなかった気がする。
 立ち尽くす僕らをおどすように、泡立ちが激しくなる。水かさもどんどん増していき、やがて泡立っている部分だけが丸みを帯び始めた。水面が、歪(いびつ)な形に歪(ゆが)み、そこだけ風船のように膨(ふく)らみ出す。
「トモカさ――――!!」

 ――――その先をかき消して、膨らんだ水の塊(かたまり)が、大砲のように打ち出された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

処理中です...