パラレヌ・ワールド

羽川明

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一章 「世界征服はホドホドに」

その十

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 来たる昼放課。
 古都(こと)さんの予言通り、なのか、僕ら二人は廊下を並んで歩いていた。
「……ダイジョウブかな、冥王(みお)ちゃん」
「停学かもしれませんね、最悪」
「なんか悪いコトしちゃったな」
「自業自得かと」
 話しているうちに、廊下の端に着いた。このすりガラスがはめ込まれた銀色のドアの向こうに、プールへつながる通路がある。僕は少しさびついたドアノブに手をかけ、振りかえった。
「……一応確認ですけど、もし本当に不良だったら、全力で逃げましょうね」
「え? ヤッつけちゃおうよ」
 トモカさんは、頼りないファイティングポーズでシャドーボクシングの真似ごとをし出した。
「わかってると思いますけど、僕、〝星の力〟使えませんからね」
「そうだっけ」
 わかってなかった。
「〝黒い〟地球人だって言ったじゃないですか」
「アレそういう意味だったの? てっきりそういう星の下に生まれたんだと思ってた」
「そんなわけないじゃないですか。それに地球は……」
「チキュウは?」
 …………あれ? そう言えば、地球人は、何色だったっけ。
「……いえ、何でもないです。それより、早く行きましょうか。本当に不良だったら、遅れると余計怒りそうですし」
「うん。そん時はワタシが守ってしんぜよう」
「……お願いします」

『――――ごめんね、カズマ』
 脳裏(のうり)に、昔の記憶が蘇(よみが)える。今にも消え入りそうな、か細い声が。

 僕には、〝星の力〟がない。だから、誰かを守ることなんて、……できやしないんだ。
 胸元に隠したペンダントが、じゃらじゃらとうるさかった。

           *

 果たして。プールサイドには誰もいなかった。来る途中、不用心にも開けっぱなしの更衣室や、シャワー室も確認したものの、人影はなかった。グラウンドからサッカーやバスケで遊んでいるらしい歓声が聞こえてくる以外、昼休みのプールは静かだった。強いて言うならプールの角から流れ出す水が、ごぽごぽと音を立てているぐらいのものか。
「……おなかすいた」
「弁当、食べてきて無いんですか?」
「食べたけど、ちょっと足りないや。ナンカ持ってない? サンマとか」
 とうのトモカさんは、まったく気にしていない様子だ。
「持ってません。ていうかなんでサンマなんですか」
「マグロかブリでもいいよ」
「だからなんで魚類?」
「だって、サカナなんでしょ? ウラナイ的には」
 一応気にしていたらしい。それとも、単に食べたいだけか。
「……こういうこと、前にもあったんですか?」
「何が?」
 ぐぅと大きくおなかがなった。トモカさんは、さすがに恥ずかしそうだ。
「いや、これ、きっといたずらか何かですよ。まぁ、番長とかの呼び出しよりはマシですけど、あんまり続くようなら、先生とかに相談した方がいいんじゃ……」
 途中から、トモカさんの視線が大きく横にそれた。そして、怪訝(けげん)な顔になる。
「――――あれ、ナニ?」
 トモカさんが指さしたのは、プールの水面だった。見ると、真ん中の辺りでぶくぶくと泡立っている。手前の角のパイプから流れ出る水の音が大きいせいで、まったく気がつかなかった。
「ん? さっきより、水かさが増しているような」
 パイプから出る水も、あんな勢いではなかった気がする。
 立ち尽くす僕らをおどすように、泡立ちが激しくなる。水かさもどんどん増していき、やがて泡立っている部分だけが丸みを帯び始めた。水面が、歪(いびつ)な形に歪(ゆが)み、そこだけ風船のように膨(ふく)らみ出す。
「トモカさ――――!!」

 ――――その先をかき消して、膨らんだ水の塊(かたまり)が、大砲のように打ち出された。
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