パラレヌ・ワールド

羽川明

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二章 「スクール水着の半魚人」

その九

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 十数分前。
「――――お、男!?」
「はい。伊勢カズマさんという方が、扉の向こうに……」
 万美から事情を聞かされたリオは、かつてないほどに驚いた。なんならちょっと飛び上がったくらいだった。しかし、片付けを開始した残る二人の驚きは、その比ではなかった。
「なんでそこらじゅうに下着が転がってんだよ!?」
「まったくありえませんわっ! 私(わたくし)がすんでのところで押しとどめたらから良かったものの、見られていたらどうするつもりだったんですの?」
 常備されていたゴミ袋片手に、二人は部屋に転がる目の毒やゴミを片っ端から捜索し、見つけ出しては問答無用で袋の中に押し込んでいく。ゴミ袋は、早くもパンパンに膨れ上がっていた。しかもそのほとんどが男子には到底見せられないような代物だというから驚きだ。
「なんで勝手に男上げたの!?」
「――――っせえなお前も手伝え!!」
「わ、私は止めたんですよ? でも、樹里さんが入って行っちゃうから……」
「万美も手伝え!」
「は、はいぃ……」
 腰をかがめ、片付け、というよりゴミ袋への詰め込み作業に専念する三人。その中央で事態を呑みこめず一人立ち尽くす金髪の少女。
 その様は、まるで借金取りの差し押さえにあった貧乏人のようだ。
「お、とこ……?」
「いいから手伝え! さすがのお前も見られちゃ困るんだろ?」
 ハッと我に返った金髪の少女は、部屋を見回すや慌てふためく。
「――――と、とりあえずパンツだけしまって!? ブラは後でもいいからっ」
「お前ブラするほど胸ないだろ」
「うるさいっ!! 一応つけてるの!」
 一応と言ってしまうあたり、自覚があるらしい。
「……じゅ、樹里さん、それは女の子同士でもセクハラですよ」
「お前は巨乳だろ」
「ち、違います、普通サイズですっ!」
「なっ! ……そ、その胸で?」
「いいから手伝ってくださいましっ!」
 再び呆然となりかけるリオを魚々乃女が一喝(いっかつ)した。
 と、その時。
「あのー。いい加減、入っていいですか?」
 扉が軽くノックされ、死刑宣告が下る。いち早く察知した魚々乃女が塞(ふさ)ぐように扉に立ち、最小限の角度で扉を開く。手を止め、息を呑む三人。魚々乃女は、のぞきこまれる前に顔を突き出し、早口で言い放った。
「しばしお待ちを」
 バタン!! 返事を待たずに扉を閉める。『別に気にしない』とかなんとか聞こえた気がしたが、今は些細(ささい)なことだった。


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