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1[ヴィル]
魔力漏れ
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俺の手には、美しい字で「ヴィルヘルムさんへ」と書かれた封筒があった。
「これ……神薙の手紙か?」
剣を引っ込めたクリスが、またもやヌゥーっと首を伸ばしてきた。
「ナッツのような魔力の匂いがするな。しかし香油のような香りも」と鼻を膨らませている。
「神薙が使っているペンはなんだ?」
アレンに尋ねると、侍女長から借りたものを使っていると答えた。
「ヒト族のペンで書いたのか?」と、クリスが先に反応した。
俺も同じことを思った。おかしい……ヒト族のペンは、ただのペンだ。こんなふうに手紙に魔力の痕跡を残すようなことはないはずだが。
「紙のほうが魔道具なのか?」と、クリスはゴリラ顔でスンスンと鼻を鳴らしている。
「いいえ。便箋と封筒もごく普通のものです」と、アレンは言った。
ヒト族のペンとヒト族の紙に、なぜこれほどまでに魔力の気配が付着しているのだろうか。
「どのくらいの時間をかけて書いたかわかるか?」と尋ねた。
「二十分から三十分程度だと思います」
「そんなわずかな時間で、魔道具でもないのに……?」
そう言いかけて俺はハッとした。
「クリス! パイを食べてから妙に調子が良くないか? 抜剣も異様に速かった」
「まあ、いつも絶好調だが……あっ……」
「菓子の香りで気づかなかったが、あのパイにも魔力残りがあったのだろう」
俺は少し考えてから噴き出した。
なんて面白い神薙だろう。
「アレンの魔力漏れなんて、神薙に比べたらたいしたことないかもな?」
「手から漏れているのか?」
「手だけではないかも知れない」
「魔力操作ができないのだろうか」
「神薙は剣の国から来た。世界全体に魔力がなかったとも言っているらしい。そうなると、魔力操作などという言葉すら知らないだろう」
俺は封筒を鼻に当て、深く息を吸い込んだ。
花のような香りがする。俺はこの香りを知っていた。
「ユミール・ヨンセンを覚えているか?」
「魔導師団にいた、女みたいに美しい男だろう?」
「そう。彼は失踪する前にこう言っていた。神薙の力は一つではない、と」
魔導師団で唯一まともだった男は研究者だった。古い文献を幅広く読んでいて、暇さえあれば王宮図書館や王宮内の図書室にいた。
彼は神薙も魔力を持っていると言った。学ぶ気概さえあれば魔法を使いこなせると。そして、男を果てさせる下品な力とは別の力が何かあるはずだと仮説を立てていた。
「彼が着目していたのは『天候』だ。神薙の感情と『何の力でつながっているのか』をずっと調べていた。今こそ彼が必要だったのに!」
俺は拳を握りしめた。
「この手紙に残された力の正体を確かめたい。何か良い方法はないだろうか」
「魔力ではないのか?」と、クリスが目を丸くした。
「俺の予想だが、この花のような香りは物理的な花の匂いではない気がする」
「香油ではなく?」
「俺も最初は髪から香っているのかと思ったがそうではなかった。耳の少し下あたりが一番強く――」
話しながら二人を見ると、なぜかこちらをにらんでいた。
「お前がリア様に何をしたのか、徐々にわかってきたぞ」
「本当に最悪で最低な上司ですね。それでも神薙警護の最高責任者ですか?」
二人の視線が突き刺さる。
「ち、違うぞ。俺がしたのは人助けだ。俺は神薙を助けた英雄だぞ?」と、真顔で言ってみたが、彼らが信じてくれたかは微妙だ。
「魔導師団は神薙について研究する機関だった。しかし、奴らは何もしないまま解体され、生涯明るい場所には出てこられない。今、何かできるのは我々、第一騎士団だけだ。そうだろう?」
「確かに、彼女のことがわからないので、私は毎日大変です。彼女はもっと大変かも知れませんが……」と、アレンは軽蔑を含んだまなざしのままで言った。
「そうだろう? 相互理解を深めることは重要だ!」
俺はフンと鼻を鳴らした。
「学者にでもなる気か?」クリスが眉をひそめている。
「まさか!」と、俺は答えた。
学者になりたいわけではない。
俺はただ、あの型破りな神薙のことが知りたいだけだ。
「これ……神薙の手紙か?」
剣を引っ込めたクリスが、またもやヌゥーっと首を伸ばしてきた。
「ナッツのような魔力の匂いがするな。しかし香油のような香りも」と鼻を膨らませている。
「神薙が使っているペンはなんだ?」
アレンに尋ねると、侍女長から借りたものを使っていると答えた。
「ヒト族のペンで書いたのか?」と、クリスが先に反応した。
俺も同じことを思った。おかしい……ヒト族のペンは、ただのペンだ。こんなふうに手紙に魔力の痕跡を残すようなことはないはずだが。
「紙のほうが魔道具なのか?」と、クリスはゴリラ顔でスンスンと鼻を鳴らしている。
「いいえ。便箋と封筒もごく普通のものです」と、アレンは言った。
ヒト族のペンとヒト族の紙に、なぜこれほどまでに魔力の気配が付着しているのだろうか。
「どのくらいの時間をかけて書いたかわかるか?」と尋ねた。
「二十分から三十分程度だと思います」
「そんなわずかな時間で、魔道具でもないのに……?」
そう言いかけて俺はハッとした。
「クリス! パイを食べてから妙に調子が良くないか? 抜剣も異様に速かった」
「まあ、いつも絶好調だが……あっ……」
「菓子の香りで気づかなかったが、あのパイにも魔力残りがあったのだろう」
俺は少し考えてから噴き出した。
なんて面白い神薙だろう。
「アレンの魔力漏れなんて、神薙に比べたらたいしたことないかもな?」
「手から漏れているのか?」
「手だけではないかも知れない」
「魔力操作ができないのだろうか」
「神薙は剣の国から来た。世界全体に魔力がなかったとも言っているらしい。そうなると、魔力操作などという言葉すら知らないだろう」
俺は封筒を鼻に当て、深く息を吸い込んだ。
花のような香りがする。俺はこの香りを知っていた。
「ユミール・ヨンセンを覚えているか?」
「魔導師団にいた、女みたいに美しい男だろう?」
「そう。彼は失踪する前にこう言っていた。神薙の力は一つではない、と」
魔導師団で唯一まともだった男は研究者だった。古い文献を幅広く読んでいて、暇さえあれば王宮図書館や王宮内の図書室にいた。
彼は神薙も魔力を持っていると言った。学ぶ気概さえあれば魔法を使いこなせると。そして、男を果てさせる下品な力とは別の力が何かあるはずだと仮説を立てていた。
「彼が着目していたのは『天候』だ。神薙の感情と『何の力でつながっているのか』をずっと調べていた。今こそ彼が必要だったのに!」
俺は拳を握りしめた。
「この手紙に残された力の正体を確かめたい。何か良い方法はないだろうか」
「魔力ではないのか?」と、クリスが目を丸くした。
「俺の予想だが、この花のような香りは物理的な花の匂いではない気がする」
「香油ではなく?」
「俺も最初は髪から香っているのかと思ったがそうではなかった。耳の少し下あたりが一番強く――」
話しながら二人を見ると、なぜかこちらをにらんでいた。
「お前がリア様に何をしたのか、徐々にわかってきたぞ」
「本当に最悪で最低な上司ですね。それでも神薙警護の最高責任者ですか?」
二人の視線が突き刺さる。
「ち、違うぞ。俺がしたのは人助けだ。俺は神薙を助けた英雄だぞ?」と、真顔で言ってみたが、彼らが信じてくれたかは微妙だ。
「魔導師団は神薙について研究する機関だった。しかし、奴らは何もしないまま解体され、生涯明るい場所には出てこられない。今、何かできるのは我々、第一騎士団だけだ。そうだろう?」
「確かに、彼女のことがわからないので、私は毎日大変です。彼女はもっと大変かも知れませんが……」と、アレンは軽蔑を含んだまなざしのままで言った。
「そうだろう? 相互理解を深めることは重要だ!」
俺はフンと鼻を鳴らした。
「学者にでもなる気か?」クリスが眉をひそめている。
「まさか!」と、俺は答えた。
学者になりたいわけではない。
俺はただ、あの型破りな神薙のことが知りたいだけだ。
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