昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

文字の大きさ
121 / 392
3[リア]

ポルト・デリング

しおりを挟む
 ◇◆◇

 「リアは美味い牡蠣に興味あるか?」
 陛下の言葉に、わたしの食いしん坊アンテナが立った。

 「十三条」の影響で表向き疎遠になっている王宮に、コッソリと遊びに来ていた。
 ヴィルさんと二人で陛下のプライベート用の入り口からコソコソと入り、王宮で働いている人達と一切顔を会わせず、抜き足差し足でイケオジ陛下のもとへやって来たのだ。

 陛下とは毎週お食事を共にしていたけれども、お互いに色々あって、かれこれ一か月以上会っていなかった。
 わたしがお見合いでバタバタしている間、陛下は陛下で大陸会議なる大イベントがあったのだ。
 それは同じ大陸にある数か国の首脳が集まる、いわゆるサミットだ。最も国土の広いオルランディアは議長国なので責任重大だった。
 ただ、それが少なからず神薙人質事件を引き起こす要因になっていたため、陛下のハグはいつもよりキツめだった。
 「辛い思いをさせてすまなかった」と陛下は言った。
 ヴィルさんが不機嫌そうに「はい、そこまで。それ以上は延長料金を頂きます」と言って間に割って入る(お約束)

「おのれ若造。叔父の唯一の楽しみを毎度邪魔しおって」
「この若造に不満があるなら、とっとと神薙法を改正してください。私が作った案そのままでも大丈夫なはずですよ? なにせアレンと私が考え、フィデルが確認をしたのですから」
「やっとるわ。毎日毎日!」
「頑張ってくださいねぇ、陛下♪」
「リアの口真似をするな!」
「彼女の真似はアレンのほうが上手いのですよ。やはり器用さでは彼に敵いませんね」
「何をやっとるのだ、お前たちは……」

 十三条のせいで険悪なムードになっていたらと心配していたけれども、叔父と甥の関係が相変わらずでホッとする。
 ヴィルさんいわく「父親が二人いるようなもの」だそうだ。彼は父親のように陛下を慕っていた。

 メインディッシュの美味しいお肉に舌鼓を打ち、デザートが運ばれてきたところで飛び出したのが冒頭の牡蠣の話だった。

 牡蠣と聞くと目の色が変わる。
 日本にいた頃は、行きつけのオイスターバーがあった。

「はい、大す……」
「大嫌いです。食べたこともない」

 ヴィル太郎さんがワンワンしたせいで、わたしの「大好き」がかき消されてしまった。
 このアツい牡蠣愛を語らせてほしいのに(泣)

「ヴィルさん、どうして食べたことがないのに大嫌いなのですか?」
「この子は昔からこうだ。知りもしないで嫌いだ嫌いだと騒ぐ」

 てっきり「牡蠣を取り寄せて一緒に食べよう」という話なのかと思ったらそうではないようだ。
 ヴィルさんは「相変わらず下心しか感じられませんね」と言った。

「今度はリアに何をさせようというのですか。つい先日まで毒のような薬を飲んでいたのですよ? どこぞの国王のせいで、この可憐で小さな口に緑色の美味しくないものが何度も入ったのです。しかも芝生みたいな匂いがしていた。冗談じゃない」

 プンスカする彼に向かって呆れ顔の陛下が言った。

「バカモン。お前だ、お前。お前に用があるのだ」
「はい?」

 陛下はお茶を一口飲むと、「国際港の様子が少し妙だと聞いた」と言った。
 そして、ヴィルさんをジロリと見たので、わたしもつられて彼を見てしまった。

「国際港? どこのですか?」
「ポルト・デリング」
「うちの領地じゃないですか!」
「だからお前に言っておるのだ」
「いや父上に言ってくださいよ。あの人が領主なのですから」
「兄は辺境の件で手が離せん。お前もそろそろ父の仕事を手伝え」
「それなら私一人に行ってこいと言えば良いことでしょう。なぜリアに聞くのですか」

 陛下は、ぴっ、ぴっ、と二か所を指差した。
 動く陛下の指を目で追っていくと、最初はヴィルさんのタイ、そして次はわたしの襟元にあるリボンを指差していた。
 ヴィルさんが「何か一つお揃いにしたい」と言うので、同じブルーだった。

「たいそう、仲が、良いようだから、だが? 文句あるか若造!」

 ウーン。
 確かに仲は良いかも知れませんが……婚約しているわけではないですしね(汗)

「お前をリアから無理やり引き離して、また王宮に火でも点けられたら困るのだ」
「子どもの頃ならいざ知らず、さすがに大人になってからは、火など点けたことはありませんよ」
「普通は子どもの頃でもやらん!」
「ははっ、優秀すぎてすみません」
「リアが嫌でなければ、一緒に行って美味いものでも食べてくると良い。気分転換にも良いだろう」

 「リア、どうする?」と、ヴィルさんが言った。

 さあ、困った。
 ポルポルナントカと言われても、一体どこのことだか分からない。しかし、そこには海があり、牡蠣が採れるのだろう。
 牡蠣は食べたい。とても食べたい。物凄く食べたい。
 よし。
 ポルポルについて聞くのは後回しだ。

「もし機会を頂けるのなら行ってみたいです」
「無理をしていないか? 叔父上の言うことなんて断っても大丈夫だぞ?」
「もともと旅好きですし、なにせ島国育ちなので牡蠣には目がなくて」
「うげ。そ、そうなのか……」

 うげって言わないで。泣きますよ?

「それより、港の様子がおかしいというのは? 先日の週刊誌に港は穏やかだと書いてありましたよねぇ?」
「それもそうだ。リアがこうして微笑んでいるのに荒れるはずがない」

 「現地から入った情報は二つだ」と、陛下は言った。
 一つ目は、風が強くて着岸に苦労している船が多いこと。
 二つ目は、病人が増えていて病院が混雑していること。

 「領主に連絡してくるほどですか」とヴィルさんが確認すると、陛下は頷いた。

「これから最盛期を迎える牡蠣漁に大きな影響が出るのは避けたいと兄は言っている」
「それはそうでしょう。牡蠣目当てに来る観光客も多い。飲食店、加工業者、それに宿泊施設も。周辺の商店なども含め大打撃です」
「大事になる前に視察してこい。しっかり聞き取りをしろ。その間、リアはオーディンスとのんびりと観光でもして、美味いものを食べてくると良い。名物の揚げた白身魚も良いし、エビも美味い。ホタテも大きいのが採れるぞ?」

 わぁ♪ よろしいのでしょうか。
 旅行なんて久々です。
 二度と帰れない壮大な旅行をしているような気もしますけれども、それでもやっぱり楽しみですねぇ♪

 口をへの字にするヴィルさんに、陛下は「頼むぞ、未来の領主殿」と言って口角を上げた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

処理中です...