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3[リア]
グルメ旅
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ランドルフ公爵領 ポルト・デリング市──
飛び地であるポルト・デリングへは、王都から東へ向かう大きな国道に出て、お隣の国ルアラン王国を通り抜けていく。
途中、二箇所の宿場町で宿泊し、市内に入った。
旅慣れた人ならば中一泊で着くらしいけれども、馬車旅初心者のわたしがいるため、余裕を持った旅程にしてくれたようだ。
ポルト・デリングに着いたのはお昼頃。
先に宿泊先のチェックインを済ませることになった。
「皆で一緒に泊まれる部屋を押さえてある」と聞いていたけれども、着いてみたらセレブが利用するような超高級ラグジュアリーホテルのスイートルームだった。
広いリビングルームを中心に、いくつもの寝室と会議室、それから小さなサロンがあった。
さらにリビングにある階段を上がると、ペントハウスのようなフロアがある。
海が一望でき、かつ真上の空も見えるリビングと、わたしの部屋を含めて四つほどのゴージャスな寝室があった。
側近を大勢連れた王様が泊まるお部屋らしい。
大きなベッドでも隅っこにちまっと寝るクセがある庶民なわたしには、文字通り身に余る環境だ。
部屋に備え付けのすべてのアイテムに、お洒落なフォントで「ベストラ」と書かれたロゴが付いていた。それがホテルの名前らしい。
宿場町でのお宿も十分に豪華で感動していたのだけれども、ベストラホテルはその豪華さが群を抜いていた。
どうやら神薙様と王族様の宿泊先とはこういうもののようだ……。ただのグルメ旅で泊まって良いホテルではない。しかも税金を使っちゃダメなやつだ。
納税者の皆さま、申し訳ございません。
次回以降の食い倒れツアーは自腹にするとお約束いたします(泣)
王都に帰ったら就活しよう。
こっちもリクルートスーツ(ドレス?)があるのだろうか……。
軽く荷解きを済ませると、ホテルを出て国際貿易港へと向かった。
風が強くて船が着岸に苦労しているという問題の場所だ。
まずは聞き込みだ。
「食べる分は働くぞ」と、わたしもやる気満々だ。
しかし、聞いていた話と全然状況が違っていた。
そこにはのぺーっとした穏やかな海しかなく、水先案内人が大型船を先導してスイスイと進んでいた。風もなければ波もない。これでは着岸に苦労などしようがなかった。
いきなり肩透かしを食らってしまったわたし達は、ウミネコがニャーニャー鳴く港で、ぼーっと海を眺めていた。
「さっき宿で聞いたが、昨日までは荒れていたらしい」
ヴィルさんは気の抜けた声で言った。
通りすがりの荷馬車から「おや、若君ぃ! お疲れ様でーす!」という声がした。彼は「おー」と手を挙げて応えていたけれども、その声もひどく気が抜けていた。
「念のため、明日も様子を見にくることにしようかぁ」と、ヴィルさんが言ったときだった。
後ろから「若!」と、彼を呼ぶ声がした。
振り返ると、ロマンスグレーの髪に黒革のハンチング帽がとても良くお似合いの年配男性が、部下と思しき人達と一緒にこちらへ向かってきていた。
「おお、ベルソール。今、とんだ肩透かしを食らったところだ。戻ったばかりか?」
「昨日戻りました。こちらは、もしやお噂の……」
「ああ、紹介する」
わたしがぺこっと頭を下げると、その男性は帽子を取って胸に当て、とてもフォーマルなお辞儀をしてくれた。
ヴィルさんいわく「ヒト以外は何でも売ったことがある商人」ことベルソールさんは、貿易商を営んでいる人らしい。
息子さんに仕事を引き継いだので、今後はシニア生活を謳歌するべくオルランディア王都で新しい家を探すそうだ。
彼が昨日の海の様子を尋ねると、「上陸までえらく時間が掛かりました。あんなのは久々です」と、ベルソールさんは言った。
港に近づくにつれて風が強くなり、天気もどんよりとしていたそうだ。
ベルソールさんは別れ際も丁寧なお辞儀をしてくれた。
ヴィルさんは市長さんと会食の約束をしており、詳細な情報を仕入れに出かけていった。
その間、わたし達はホテルのレストランへ行ってランチだ。
メニューを見ながら、わたしとアレンさんが「いかに効率的に美味しいものを色んな種類食べるか」について真剣に話し合っていると、それを正面から見ていたフィデルさんが吹き出した。
そこは美味しいものを全部食べたい欲張り派を悩ませるレストランだった。
わたし達は熟考した。
牡蠣は当然食べる。アレンさんは白身魚も食べるべしと言う。しかし、シェフのおすすめの欄を見て、わたし達は頭を抱えた。
見た目はグロテスクだけど味は最高だというエビが、今年は例年に増して美味しい。是非レモンバター添えのボイルを味わってほしいと書かれているのだ。
「アレンさん、わたしは一体どうしたら……」
「ご提案があります」
「お願い致します」
議論の末、二人で別のものを頼み、シェアして食べることにした。これでほとんどの食べたいものを制覇できる。
食いしん坊コンビ結成の瞬間だった。
普段から美味しいご飯を食べさせてもらっているけれども、やはり旅先でのお食事は格別だった。新鮮なものはシンプルな調理法が一番美味しい気がする。
コワモテのエビさんは絶滅した太古の生き物のような見た目をしていたけれども、味は本当に絶品だった。
ほこほことした気分でお茶を頂いていると、アレンさんから「バーで出しているオイル煮も美味らしいです。それから…」と、美味しいもの情報が次々飛び出してくる。
食べたいものが多すぎて胃袋のほうが足りない。
「なんだか、とてもここで問題が起きているようには思えませんねぇ」と、わたしは呟いた。
本当に問題が起きていれば、船が遅れるとか、そのせいで宿が取れないとか、予定どおりにいかないことがあるはずだ。そうすると多少なりとも人はナーバスな顔をするし、そういう顔をした人が一か所に群がっていたりする。
しかし、ポルト・デリングに着いてから、そういった雰囲気を醸し出している人は見かけていなかった。
アレンさんは頷くと「窓から反対側の漁港も見えましたが、実に穏やかでした」と言った。
「もちろん、それが良いに越したことはないのですが、やはり気になりますね。聞いていた話と違いすぎます」
ヴィルさんが戻ってくれば詳しいことが分かるかも知れない。
しかし、彼は一人で視察をすることになったらしく、夕食の時間には戻れないかも知れないと連絡があった。
飛び地であるポルト・デリングへは、王都から東へ向かう大きな国道に出て、お隣の国ルアラン王国を通り抜けていく。
途中、二箇所の宿場町で宿泊し、市内に入った。
旅慣れた人ならば中一泊で着くらしいけれども、馬車旅初心者のわたしがいるため、余裕を持った旅程にしてくれたようだ。
ポルト・デリングに着いたのはお昼頃。
先に宿泊先のチェックインを済ませることになった。
「皆で一緒に泊まれる部屋を押さえてある」と聞いていたけれども、着いてみたらセレブが利用するような超高級ラグジュアリーホテルのスイートルームだった。
広いリビングルームを中心に、いくつもの寝室と会議室、それから小さなサロンがあった。
さらにリビングにある階段を上がると、ペントハウスのようなフロアがある。
海が一望でき、かつ真上の空も見えるリビングと、わたしの部屋を含めて四つほどのゴージャスな寝室があった。
側近を大勢連れた王様が泊まるお部屋らしい。
大きなベッドでも隅っこにちまっと寝るクセがある庶民なわたしには、文字通り身に余る環境だ。
部屋に備え付けのすべてのアイテムに、お洒落なフォントで「ベストラ」と書かれたロゴが付いていた。それがホテルの名前らしい。
宿場町でのお宿も十分に豪華で感動していたのだけれども、ベストラホテルはその豪華さが群を抜いていた。
どうやら神薙様と王族様の宿泊先とはこういうもののようだ……。ただのグルメ旅で泊まって良いホテルではない。しかも税金を使っちゃダメなやつだ。
納税者の皆さま、申し訳ございません。
次回以降の食い倒れツアーは自腹にするとお約束いたします(泣)
王都に帰ったら就活しよう。
こっちもリクルートスーツ(ドレス?)があるのだろうか……。
軽く荷解きを済ませると、ホテルを出て国際貿易港へと向かった。
風が強くて船が着岸に苦労しているという問題の場所だ。
まずは聞き込みだ。
「食べる分は働くぞ」と、わたしもやる気満々だ。
しかし、聞いていた話と全然状況が違っていた。
そこにはのぺーっとした穏やかな海しかなく、水先案内人が大型船を先導してスイスイと進んでいた。風もなければ波もない。これでは着岸に苦労などしようがなかった。
いきなり肩透かしを食らってしまったわたし達は、ウミネコがニャーニャー鳴く港で、ぼーっと海を眺めていた。
「さっき宿で聞いたが、昨日までは荒れていたらしい」
ヴィルさんは気の抜けた声で言った。
通りすがりの荷馬車から「おや、若君ぃ! お疲れ様でーす!」という声がした。彼は「おー」と手を挙げて応えていたけれども、その声もひどく気が抜けていた。
「念のため、明日も様子を見にくることにしようかぁ」と、ヴィルさんが言ったときだった。
後ろから「若!」と、彼を呼ぶ声がした。
振り返ると、ロマンスグレーの髪に黒革のハンチング帽がとても良くお似合いの年配男性が、部下と思しき人達と一緒にこちらへ向かってきていた。
「おお、ベルソール。今、とんだ肩透かしを食らったところだ。戻ったばかりか?」
「昨日戻りました。こちらは、もしやお噂の……」
「ああ、紹介する」
わたしがぺこっと頭を下げると、その男性は帽子を取って胸に当て、とてもフォーマルなお辞儀をしてくれた。
ヴィルさんいわく「ヒト以外は何でも売ったことがある商人」ことベルソールさんは、貿易商を営んでいる人らしい。
息子さんに仕事を引き継いだので、今後はシニア生活を謳歌するべくオルランディア王都で新しい家を探すそうだ。
彼が昨日の海の様子を尋ねると、「上陸までえらく時間が掛かりました。あんなのは久々です」と、ベルソールさんは言った。
港に近づくにつれて風が強くなり、天気もどんよりとしていたそうだ。
ベルソールさんは別れ際も丁寧なお辞儀をしてくれた。
ヴィルさんは市長さんと会食の約束をしており、詳細な情報を仕入れに出かけていった。
その間、わたし達はホテルのレストランへ行ってランチだ。
メニューを見ながら、わたしとアレンさんが「いかに効率的に美味しいものを色んな種類食べるか」について真剣に話し合っていると、それを正面から見ていたフィデルさんが吹き出した。
そこは美味しいものを全部食べたい欲張り派を悩ませるレストランだった。
わたし達は熟考した。
牡蠣は当然食べる。アレンさんは白身魚も食べるべしと言う。しかし、シェフのおすすめの欄を見て、わたし達は頭を抱えた。
見た目はグロテスクだけど味は最高だというエビが、今年は例年に増して美味しい。是非レモンバター添えのボイルを味わってほしいと書かれているのだ。
「アレンさん、わたしは一体どうしたら……」
「ご提案があります」
「お願い致します」
議論の末、二人で別のものを頼み、シェアして食べることにした。これでほとんどの食べたいものを制覇できる。
食いしん坊コンビ結成の瞬間だった。
普段から美味しいご飯を食べさせてもらっているけれども、やはり旅先でのお食事は格別だった。新鮮なものはシンプルな調理法が一番美味しい気がする。
コワモテのエビさんは絶滅した太古の生き物のような見た目をしていたけれども、味は本当に絶品だった。
ほこほことした気分でお茶を頂いていると、アレンさんから「バーで出しているオイル煮も美味らしいです。それから…」と、美味しいもの情報が次々飛び出してくる。
食べたいものが多すぎて胃袋のほうが足りない。
「なんだか、とてもここで問題が起きているようには思えませんねぇ」と、わたしは呟いた。
本当に問題が起きていれば、船が遅れるとか、そのせいで宿が取れないとか、予定どおりにいかないことがあるはずだ。そうすると多少なりとも人はナーバスな顔をするし、そういう顔をした人が一か所に群がっていたりする。
しかし、ポルト・デリングに着いてから、そういった雰囲気を醸し出している人は見かけていなかった。
アレンさんは頷くと「窓から反対側の漁港も見えましたが、実に穏やかでした」と言った。
「もちろん、それが良いに越したことはないのですが、やはり気になりますね。聞いていた話と違いすぎます」
ヴィルさんが戻ってくれば詳しいことが分かるかも知れない。
しかし、彼は一人で視察をすることになったらしく、夕食の時間には戻れないかも知れないと連絡があった。
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