昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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3[リア]

仕分け仕事

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 ──手に入れるものがあれば、手放すものもある。

 おぱんつを手に入れてキャッキャしているわたしに、「そろそろ何とかしないと倉庫が危険です」と、アレンさんは言った。

 お披露目会の後、大量に届き続けた『貢物』が倉庫に詰め込まれており、そのうち収まらなくなるという。
 別件で打ち合わせをしていたヴィルさんも戻ってきたので、皆でぞろぞろと倉庫へ行ってみた。

 ギィ……と音を立てて開いた重い扉の先に、箱がうず高く積み上げられていた。
 「貢物は要らない」などと目をそむけている場合ではなさそうだ。
 早々に処理していかないと倉庫を管理する人が気の毒だし、地震でも起きたら死傷者が出る。

 「選択肢は五つあります」と、アレンさんは手を広げて言った。

 その一、使う。
 その二、売ってお金に変える。
 その三、誰かにあげる(寄付でも良い)
 その四、捨てる。
 その五、送り返す。

 『送り返す』以外は、『受け取る』の選択肢が細分化されたものだ。
 受け取って使うか、受け取ったことにするけれども手放すか、それとも受け取らないか。

「リア様が判断するのは、『使う』か『送り返す』か。この二つです」
「ほむほむ」
「失礼な贈り物は『送り返す』を選択してください。放置すると『受け取った』すなわち『喜ばれた』と勝手な解釈をされます」
「それは困りますねぇ」
「失礼ではないが必要ないもの、これは種類別に適切な処理方法を検討しましょう」
「承知いたしました。頑張りますっ」

 贈り物の大半は贈り主が管理している領地で作られたものらしい。
 「もし気に入ったら買ってください」というセールスプロモーションも兼ねているそうだ。そういう類の貢物は受け取ったほうが良いとアレンさんは言った。
 いずれは結婚して「ランドルフ公爵夫人」と呼ばれることになる。貴族の皆さまとのお付き合いは避けられないはず。
 それを踏まえると、各地で名工と呼ばれる職人が作った物などは知っておくべきだし、この世界について理解を深めていくのにも役立つはずだと言う。

 長い机が運び込まれ、最初の鑑定魔法で『生地もしくは服』に仕分けられていた箱が優先的に開けられた。
 アレンさんいわく、服や生地は流行があるので、着るにせよ売るにせよ早いほうが良いそうだ。

 わたしは目の前に運ばれてきた箱をチェックし、侍女と一緒に要否を判断する係だ。
 常識的な貴族が多いので、さすがに「失礼だ」と思うような贈り物はなかった。
 婚約者がいる今、見知らぬ男性から貰ったものを身に着ける選択肢もないので、ほとんどが「受け取るけれども不要」のジャッジになる。
 しかし、地域の伝統的な服であったり、特殊な製法で作られたものは、じっくりと見るために一旦屋敷へ運び込むことにした。また、生地は色々な用途に使えるので頂戴することに決めた。

 皆の顔に疲労の色が浮かび始めた頃、「そろそろ今日は終わりにしませんか」と声を掛けた。
 「本日はこれが最後です」と運ばれてきた箱を開けて中を見ると、最後にして最初のヤバい贈り物が出てきてしまった。

 「ひゃあぁっ」

 思わず悲鳴を上げると、チェック済みの箱を隣の団員に手渡していたヴィルさんが驚いて荷物をぶん投げた。

「どうした!」

 彼は、わたしの前にあった箱を覗き込む。

 「なんだこれは、白の生地? 絹か?」
 「ち、ちが、あの、これ、こ、これは、ヴィルさんっ」
 「落ち着け。大丈夫だ。俺がついている」
 「ちがっ……」

 違うの、ヴィルさん。
 よくよく見てください。

 わたしはその白い布を両方の人差し指と親指でつまむと、形が良く分かるように持ち上げた。
 それが何であるか察した彼は「なっ!」と短い声を上げた。

 『高級シルク製ステテコ型おぱんつ』である。

 心の底から要らないです。
 知らない人からのおぱんつの贈り物はコワイです。

 しかし、話はそれだけではない。
 なぜわたしが悲鳴を上げたかというと、肝心なところに『穴』が開いているからだ。
 穴といってもタンスの虫にやられた穴ではない。製造段階で人為的にデザインされた穴だ。
 いやいやいや、どうしてこうなった?
 これは、えっちな穴開きおぱんつのつもりなのでしょうか?
 ステテコに穴を開けて何が楽しいのでしょうか。
 いや「穴を開けたい」という感性がありながら、なぜに、どうして、今の今まで『白ステテコ』を脱せなかったのですか、この国は(笑)

 わたしは下を向いてぷるぷると笑いをこらえていた。
 淑女はゲラゲラ笑わないものらしいので頑張ってガマンしているのだけれども、腹筋がおかしくなりそうだ。

「なんて破廉恥な! どこのどいつだ! 送り返せ!」

 ヴィルさんは顔を真っ赤にして穴開き白ステテコをむしり取ると、ぺしぃーん!と、箱に叩きつけた。
 わたしはそれもおかしくて仕方がないのだけど、彼が本気で怒っているので笑うに笑えない。必死で堪えてぷるぷるしていた。

 ヴィルさん、穴は開いていないけれど、ちょっぴりエッチなおぱんつなどを企画している人がここにいます。穴開きステテコを「破廉恥」だと言われてしまうと、わたしのほうがよほど破廉恥ということになってしまって微妙です。

「おのれ、不敬罪で捕らえてやろうか!」

 激オコぷんぷん騎士になってしまったヴィルさんの背中をさすり、「あんまり怒ると体に悪いですよ」となだめた。
 彼は鼻息を荒げながら、アレンさんに返送するよう指示していた。
 そして、わたしをぎゅうぎゅう抱き締めて「大丈夫か? 具合が悪くなっていないか? ああ震えて可哀想に。もう部屋に戻ろう」と言った。

 笑うのをガマンしていたら、ショックで震えていると勘違いされてしまった。
 前もこんなことがあった気がする(笑)


 ステテコおぱんつしかない世の中は難しい。
 あれが「面白い」ではなく、「破廉恥」にカテゴライズされるのは驚きだ。

 わたしの周りの女子達は試作品を手にして「これぞ自分たちの求めていたものだ」と歓喜している。これに関しては女性のほうが前衛的なのだと思う。
 しかし、このまま女子の価値観だけで下着を作ってしまって大丈夫なのだろうか……。
 この国には「男女平等」なんて言葉もなければ発想もない。
 わたしの作ったおぱんつが原因で、世の女性が「はしたない」などと言われてしまうようなことにならないだろうか。

 わたし自身はステテコ生活に戻る気はないし、モニターになっている女子一同もそう言っている。
 しかし、商品は刺激の少ないものから徐々に段階を追って発表していくのが良いのかも知れない。もしくは販売開始前にもっと刺激的な何かを流行らせてインパクトを薄める方法もある。

 わたし個人のおぱんつも、ヴィルさんのために段階を踏むべきなのだろうか?
 でも、ここまで来て今さらダサめのおぱんつをはく意味はあるのかな?

 ……わたしは好きなようにして、ヴィルさんに適宜慣れてもらいましょうか(無策)

 そんなわけで、わたしのお散歩コースに『倉庫』が加わり、セッセと通っては仕分けをした。
 そして、その後も穴あき白ステテコが二着出てきて、アレンさんがブチ切れたのだった。
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