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3[リア]
初めての対価
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仕分け作業が進む中、ヴィルさんが急に「前からお金を稼ぎたいと言っていただろう?」と聞いてきた。
「ええ。お仕事をしたいです」
「その件で、相談相手を呼んである。あとで会ってみないか?」
「はい、ぜひ!」
就職相談のために来てもらえるとはありがたい。
おぱんつ会議は週に一度だし、今のところそれ以外のノルマはこの世界の勉強のみ。働ける余地は十分ある。
午後、来客だというのでサロンへ行くと、見覚えのある顔がそこにあった。
革のハンチング帽が新品に変わっているけれど、間違いなくあの人だ。
「彼を覚えているか?」とヴィルさんが言った。
「ポルト・デリングの港でお会いした、ヒト以外はなんでも売ったことがある、と」
「そう、ベルソールだ」
名前は忘れてしまっていたけれど、柔和なお顔と強烈なキャッチフレーズは覚えていた。
「ベルソールがリアと一緒に仕事をしたいと言っている」
「わたし、事務と翻訳なら得意です」
「リアの作ったあの白いソースを王都の飲食店に売るのはどうかな。それから、前に作ってくれた白い泡のような菓子とか、先日の野営で使った混合香辛料なども検討の余地があると思う」
「えっ、マヨとタルタルソースを、売る?」
確かに冷蔵技術が微妙なこの国で、安全にマヨネーズを売るなら、冷蔵設備が整ったレストランを相手にしたほうがいい。庶民が行く飲食店まで含めたら、相当な数の得意先を抱えることになりそうだ。
そうなると、わたしは一日にどのくらい生産するのだろう……?
「そんなにたくさん作れるでしょうか」
「いやいや、リアは経営者だから、自分では作らないよ」
「あら? では、わたしは何をするのでしょう?」
「ベルソールと一緒に、販売戦略を立てるのが仕事だな」
「なるほど、営業部門ですね?」
営業なら前職の経験も活かせそうだ。
しかし、予算策定に売上分析……パソコンなしでどうやるのだろう? 何か魔道具でもあるのかしら。表計算ソフトはおぱんつ屋のほうでも欲しいのだけれど……。
「リア? リア、大丈夫か? 考えていることがすべて口から漏れ出しているぞ?」
「はっ! ご、ごめんなさいっ」
「ベルソール商会がそういうのは得意だから、すべて任せればいい」
「それでは営業として、お店との商談はお任せください」
「あーいや、それも専門の人がいるから……」
「え? 必ずや王都をマヨラーとタルタリストで埋め尽くして見せますが?」
カアー……
どこかでカラスが馬鹿にしたように鳴いた。
これは「営業部で一緒に働きましょう」という話ではないのかしら。わたし、何か勘違いしている?
「若が急にあれこれ言うからですよ」と、ベルソールさんはヴィルさんを責めるように言った。
「ごめん! 俺がすべて悪い」
「わたし、ベルソールさんのお役に立てるよう、一生懸命お仕事に励みます」
「う……。あ、そうだ、散歩に行こうか。今日のドレスもすごくかわいいよ」
彼はごまかすようにわたしを散歩に誘った。
☟
庭園を散歩しながら詳しい説明を聞くと、思っていたような話ではなかった。
まず、わたしが異世界から持ち込んだ美味しいものを『神薙の厨房』というブランドで売り出す計画が持ち上がっている。
ベルソールさんと相談して、ざっくりとした販売方針を決めたら、あとは彼の会社が何もかもやってくれるそうだ。
新商品の開発や品質チェック、その時々の状況に合わせてリニューアルを検討していくのがわたしのお仕事。一つ売れるごとにいくら、というインセンティブを頂ける。要はライセンス契約の話だった。
ベルソールさんは有名な商社『ベルソール商会』の元会長で、現在は引退したご隠居さんだ。ベルソール商会のグループ企業のような形で、国内向けの商売を始めようとしているらしい。事務員として使ってくれても全然構わないのに、なんとわたしは非常勤の役員としてお手伝いさせてもらうことになった。
「ほかに何か要望はあるか?」と、ヴィルさんが聞いてきた。
「わたしの取り分ですが、半分は料理長の名義でお願いします」
「はッッ? な、何を言っている。彼はリアの使用人だぞ?」
使用人の感覚が相変わらずピンとこない(だからわたしは皆を従業員と呼んでいる)
料理長はほかでもない「共同開発者」だ。これだけは譲れない。
「確かにレシピを持ち込んだのはわたしですが、オルランディア人の口に合うよう美味しくしてくれたのは料理長です。何か頂くのなら、二人で折半でなければおかしいかと」
「——リアの無欲さを忘れていた」と、ヴィルさんは両手で顔を覆った。
「欲がないわけではなく、公正にお願いをしたくて」
「わ、わかった。割合については、ベルソールと再検討させてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
「ただ、さすがに主と料理人で半々はおかしなことになるから……」
「才能と技術は個人のものですから、主も何も関係ないですよぅ」
「うぐ……。ひとまず俺に任せてもらえるか?」
「料理長と認識をすり合わせて下さるのなら。食べ物やお金のことで喧嘩をするのは切ないですから」
「うむ……確かにそうだな。よし、わかった」
ベルソールさんはカカカッと笑って「さすがの若も形無しですな」と言った。
☟
契約を済ませると、ベルソールさんは待ってましたとばかりに動き出し、あっという間に自社工場ができていた。
あまりに何もかもがスムーズだったせいか実感がないけれど、わたしはATMすらない国で銀行口座を作り、初めて自分のお金を手に入れた。
いずれ街の反応を自分の目で確かめに行くつもりだ。
「ほかにも何か売りたいものがあったら言ってください」とベルソールさんは言う。
「ヒト以外なら?」
「ええ。ヒト以外なら、なんでも売りますよ」と彼は笑っている。
なんとなく、わたしのおぱんつ計画に気づいているような雰囲気なのは気のせいだろうか。
「もう少し形になったら、ご相談したいものがあります。あまり大きな声では言えないものですが」
わたしが小声で言うと、彼はうなずいて親指を立てた。
ベルソールさんとの出会いは、人生の大きな転換点になった。
わたしはこれを足掛かりに、経済的な自立を目指していく。目指すは、バリバリ働く公爵夫人だ——
「ええ。お仕事をしたいです」
「その件で、相談相手を呼んである。あとで会ってみないか?」
「はい、ぜひ!」
就職相談のために来てもらえるとはありがたい。
おぱんつ会議は週に一度だし、今のところそれ以外のノルマはこの世界の勉強のみ。働ける余地は十分ある。
午後、来客だというのでサロンへ行くと、見覚えのある顔がそこにあった。
革のハンチング帽が新品に変わっているけれど、間違いなくあの人だ。
「彼を覚えているか?」とヴィルさんが言った。
「ポルト・デリングの港でお会いした、ヒト以外はなんでも売ったことがある、と」
「そう、ベルソールだ」
名前は忘れてしまっていたけれど、柔和なお顔と強烈なキャッチフレーズは覚えていた。
「ベルソールがリアと一緒に仕事をしたいと言っている」
「わたし、事務と翻訳なら得意です」
「リアの作ったあの白いソースを王都の飲食店に売るのはどうかな。それから、前に作ってくれた白い泡のような菓子とか、先日の野営で使った混合香辛料なども検討の余地があると思う」
「えっ、マヨとタルタルソースを、売る?」
確かに冷蔵技術が微妙なこの国で、安全にマヨネーズを売るなら、冷蔵設備が整ったレストランを相手にしたほうがいい。庶民が行く飲食店まで含めたら、相当な数の得意先を抱えることになりそうだ。
そうなると、わたしは一日にどのくらい生産するのだろう……?
「そんなにたくさん作れるでしょうか」
「いやいや、リアは経営者だから、自分では作らないよ」
「あら? では、わたしは何をするのでしょう?」
「ベルソールと一緒に、販売戦略を立てるのが仕事だな」
「なるほど、営業部門ですね?」
営業なら前職の経験も活かせそうだ。
しかし、予算策定に売上分析……パソコンなしでどうやるのだろう? 何か魔道具でもあるのかしら。表計算ソフトはおぱんつ屋のほうでも欲しいのだけれど……。
「リア? リア、大丈夫か? 考えていることがすべて口から漏れ出しているぞ?」
「はっ! ご、ごめんなさいっ」
「ベルソール商会がそういうのは得意だから、すべて任せればいい」
「それでは営業として、お店との商談はお任せください」
「あーいや、それも専門の人がいるから……」
「え? 必ずや王都をマヨラーとタルタリストで埋め尽くして見せますが?」
カアー……
どこかでカラスが馬鹿にしたように鳴いた。
これは「営業部で一緒に働きましょう」という話ではないのかしら。わたし、何か勘違いしている?
「若が急にあれこれ言うからですよ」と、ベルソールさんはヴィルさんを責めるように言った。
「ごめん! 俺がすべて悪い」
「わたし、ベルソールさんのお役に立てるよう、一生懸命お仕事に励みます」
「う……。あ、そうだ、散歩に行こうか。今日のドレスもすごくかわいいよ」
彼はごまかすようにわたしを散歩に誘った。
☟
庭園を散歩しながら詳しい説明を聞くと、思っていたような話ではなかった。
まず、わたしが異世界から持ち込んだ美味しいものを『神薙の厨房』というブランドで売り出す計画が持ち上がっている。
ベルソールさんと相談して、ざっくりとした販売方針を決めたら、あとは彼の会社が何もかもやってくれるそうだ。
新商品の開発や品質チェック、その時々の状況に合わせてリニューアルを検討していくのがわたしのお仕事。一つ売れるごとにいくら、というインセンティブを頂ける。要はライセンス契約の話だった。
ベルソールさんは有名な商社『ベルソール商会』の元会長で、現在は引退したご隠居さんだ。ベルソール商会のグループ企業のような形で、国内向けの商売を始めようとしているらしい。事務員として使ってくれても全然構わないのに、なんとわたしは非常勤の役員としてお手伝いさせてもらうことになった。
「ほかに何か要望はあるか?」と、ヴィルさんが聞いてきた。
「わたしの取り分ですが、半分は料理長の名義でお願いします」
「はッッ? な、何を言っている。彼はリアの使用人だぞ?」
使用人の感覚が相変わらずピンとこない(だからわたしは皆を従業員と呼んでいる)
料理長はほかでもない「共同開発者」だ。これだけは譲れない。
「確かにレシピを持ち込んだのはわたしですが、オルランディア人の口に合うよう美味しくしてくれたのは料理長です。何か頂くのなら、二人で折半でなければおかしいかと」
「——リアの無欲さを忘れていた」と、ヴィルさんは両手で顔を覆った。
「欲がないわけではなく、公正にお願いをしたくて」
「わ、わかった。割合については、ベルソールと再検討させてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
「ただ、さすがに主と料理人で半々はおかしなことになるから……」
「才能と技術は個人のものですから、主も何も関係ないですよぅ」
「うぐ……。ひとまず俺に任せてもらえるか?」
「料理長と認識をすり合わせて下さるのなら。食べ物やお金のことで喧嘩をするのは切ないですから」
「うむ……確かにそうだな。よし、わかった」
ベルソールさんはカカカッと笑って「さすがの若も形無しですな」と言った。
☟
契約を済ませると、ベルソールさんは待ってましたとばかりに動き出し、あっという間に自社工場ができていた。
あまりに何もかもがスムーズだったせいか実感がないけれど、わたしはATMすらない国で銀行口座を作り、初めて自分のお金を手に入れた。
いずれ街の反応を自分の目で確かめに行くつもりだ。
「ほかにも何か売りたいものがあったら言ってください」とベルソールさんは言う。
「ヒト以外なら?」
「ええ。ヒト以外なら、なんでも売りますよ」と彼は笑っている。
なんとなく、わたしのおぱんつ計画に気づいているような雰囲気なのは気のせいだろうか。
「もう少し形になったら、ご相談したいものがあります。あまり大きな声では言えないものですが」
わたしが小声で言うと、彼はうなずいて親指を立てた。
ベルソールさんとの出会いは、人生の大きな転換点になった。
わたしはこれを足掛かりに、経済的な自立を目指していく。目指すは、バリバリ働く公爵夫人だ——
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