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4[リア]
戦火の足音
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お茶会に来ていたユミールさんと入れ違いに、急な訃報が飛び込んできた。
「第五騎士団員で三名、遠征先のエルディル辺境伯領で戦死者が出た」とのことだった。
——第五騎士団に知り合いはいない。なぜそれがここに届けられたのかわからないまま、わたしはその詳細を聞いていた。
要約するとこうだ。
場所はエルディル辺境伯領の国境付近。敵の計略に嵌められたオルランディア軍は、態勢を立て直すために一時撤退を余儀なくされた。王都からの援軍として戦いに加わっていた第五騎士団が殿を務め、大勢のヒト族の兵士を逃がした。
そこで三名が命を落とした。
「立派な最期を遂げられた」と、使者は声を震わせながら言った。
突然聞かされた戦の話は衝撃的で、強い不安と恐怖から手が震えた。
ヴィルさんの袖をつまんで軽く引っ張ると、彼はハッとしたように「大丈夫か」と言って、わたしを抱き締めてくれた。
「その三名とは?」と、彼が亡くなった三名の名前を聞くと、そばに立っていた侍女のマリンが急に倒れた。
三名の中に、ソレント子爵の嫡男フィスカスという人物がおり、それがマリンのお兄様だった。わたしはようやく使者がエムブラ宮殿へ来た理由を理解した。
☟
「オルランディア王国は侵略することを良しとしません」と、アレンさんは言った。
自ら他国を攻撃することはなく、侵略者から国を防衛するためだけに戦うらしい。わたしとしては馴染みのある考え方だったことから、特に違和感は抱かなかった。
「かつて東の聖都だった矜持がある」と、イケオジ陛下は語っていた。
聖都とは、各大陸には一つずつ存在する『聖女の降りる都』のことだ。聖都を有する国は各大陸でリーダーシップを取り、秩序と平和を維持する役割を担う。大昔だが、オルランディアの王都は聖都だった。
「隣国はこちらの都合など知ったことではありません。半ばこじつけのような、よくわからない理由で侵略してきます」
中でもエルディル辺境伯領が接している北の隣国は、支離滅裂で有名らしい。
「王都の北東に『旧パトラ』と呼ばれる場所があります」と、アレンさんは地図を開いて指さした。かつて「パトラ王国」という国だったらしい。
「ここがまさに侵略戦争を仕掛けられる口実になっているのです」
「どうして??」わたしは首をかしげた。
「パトラが滅んだ後、神の遣いに復興を頼まれて今の状態になった」というのが、オルランディアの主張らしい。
神の遣いとはなんなのか、この主張は本当なのか——それはさておき、だ。オルランディア側ではそういうことになっている。
「西大陸の歴史研究家が『よそ者視点』で書いた歴史書があります。実はそこにも『焦土と化して一切の生物がいない旧パトラを、人の住める地へと復興させたのがオルランディア王国だ』と書かれているのです」
「では……本当のことなのですね」
「ここで重要なのは、真実かどうかより、パトラという国が滅ぶ際、焦土になり、人もいなかった——というところです」
そう言いながら、アレンさんは地図帳を閉じた。
血気盛んな隣国は、こう主張しているそうだ。
「オルランディアがパトラを侵略したに決まっている。そんなことをするから聖女が降りなくなったのだ。だからこちらが侵略しても文句を言うな。善良な我が国に聖都(今の王都)をよこせ」
もはや意味不明である……。
「もし本当にオルランディアがパトラ王国を侵略したのなら、わざわざ復興に手間のかかる『焦土』にはしません」とアレンさんは言う。
「そうですよね。侵略した後も働き手は必要ですし……」
「そのとおりです。少なくとも人は残します」
わたしも「よそ者視点」でこの世界を見ているけれど「オルランディアがパトラを侵略した」という主張には相当無理があると思えた。
そもそも、正当な理由があろうとなかろうと、侵略は正当化できない。それでも平気で侵略をして、人を殺す国がある。
「わたし、ずっと対岸の火事のように思っていて……」
遠い場所の戦火が、突如目の前にやって来て悲劇を起こす。それが怖くて仕方がなかった。
☟
悲しみに暮れるマリンと一緒に、亡くなった三名の国葬に参列した。
第一騎士団員も大勢参列した。
後継ぎを失ったソレント子爵家は、残ったマリンが政略結婚をして跡を継ぐことになった。
子爵というのは決して爵位の高い家ではないけれど、ソレント家は大昔からの伝統を守り、代々神薙の侍女を輩出している御三家の一つだ。ここで絶やすわけにはいかないと、彼女は泣く泣くその運命を受け入れた。
唯一の救いは、その相手であるサムエル・トールマンが、彼女と幼なじみで仲が良いことだ。
「妙な相手じゃなくてよかった」と、皆で胸をなでおろした。
彼女が侍女を辞めてソレント領へ戻る日に合わせ、お婿さんになるサムエルさんが王都まで迎えにきた。一目でマリンを大事にしてくれるのがわかる、穏やかで優しい好青年だった。
わたしは再会を約束して、マリンを見送った。
身を削られるようなつらい別れだった。明るい彼女はエムブラ宮殿のムードメーカーで、皆にかわいがられ「第一騎士団の妹」とまで言われていた。彼女のことを好いていた団員もいた。
わたしは王都に何度も雨を降らせた。でも、つらいと言葉に出すことはできなかった。一番つらいのはマリンだったからだ。
戦争が、彼女の人生を変えてしまった。
わたしが泣くたび、アレンさんがそばで手を握って慰めてくれた。
イケオジ陛下から新たに侍女を雇って補充するかと聞かれたけれど、誰一人そんな気にならなかった。マリンの代わりなんていないのだ。侍女長も二人で仕事をすると言うので、補充は丁重に断った。
マリンが抜けたせいで、女子チームは急に落ち着いた雰囲気になってしまった。
「第五騎士団員で三名、遠征先のエルディル辺境伯領で戦死者が出た」とのことだった。
——第五騎士団に知り合いはいない。なぜそれがここに届けられたのかわからないまま、わたしはその詳細を聞いていた。
要約するとこうだ。
場所はエルディル辺境伯領の国境付近。敵の計略に嵌められたオルランディア軍は、態勢を立て直すために一時撤退を余儀なくされた。王都からの援軍として戦いに加わっていた第五騎士団が殿を務め、大勢のヒト族の兵士を逃がした。
そこで三名が命を落とした。
「立派な最期を遂げられた」と、使者は声を震わせながら言った。
突然聞かされた戦の話は衝撃的で、強い不安と恐怖から手が震えた。
ヴィルさんの袖をつまんで軽く引っ張ると、彼はハッとしたように「大丈夫か」と言って、わたしを抱き締めてくれた。
「その三名とは?」と、彼が亡くなった三名の名前を聞くと、そばに立っていた侍女のマリンが急に倒れた。
三名の中に、ソレント子爵の嫡男フィスカスという人物がおり、それがマリンのお兄様だった。わたしはようやく使者がエムブラ宮殿へ来た理由を理解した。
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「オルランディア王国は侵略することを良しとしません」と、アレンさんは言った。
自ら他国を攻撃することはなく、侵略者から国を防衛するためだけに戦うらしい。わたしとしては馴染みのある考え方だったことから、特に違和感は抱かなかった。
「かつて東の聖都だった矜持がある」と、イケオジ陛下は語っていた。
聖都とは、各大陸には一つずつ存在する『聖女の降りる都』のことだ。聖都を有する国は各大陸でリーダーシップを取り、秩序と平和を維持する役割を担う。大昔だが、オルランディアの王都は聖都だった。
「隣国はこちらの都合など知ったことではありません。半ばこじつけのような、よくわからない理由で侵略してきます」
中でもエルディル辺境伯領が接している北の隣国は、支離滅裂で有名らしい。
「王都の北東に『旧パトラ』と呼ばれる場所があります」と、アレンさんは地図を開いて指さした。かつて「パトラ王国」という国だったらしい。
「ここがまさに侵略戦争を仕掛けられる口実になっているのです」
「どうして??」わたしは首をかしげた。
「パトラが滅んだ後、神の遣いに復興を頼まれて今の状態になった」というのが、オルランディアの主張らしい。
神の遣いとはなんなのか、この主張は本当なのか——それはさておき、だ。オルランディア側ではそういうことになっている。
「西大陸の歴史研究家が『よそ者視点』で書いた歴史書があります。実はそこにも『焦土と化して一切の生物がいない旧パトラを、人の住める地へと復興させたのがオルランディア王国だ』と書かれているのです」
「では……本当のことなのですね」
「ここで重要なのは、真実かどうかより、パトラという国が滅ぶ際、焦土になり、人もいなかった——というところです」
そう言いながら、アレンさんは地図帳を閉じた。
血気盛んな隣国は、こう主張しているそうだ。
「オルランディアがパトラを侵略したに決まっている。そんなことをするから聖女が降りなくなったのだ。だからこちらが侵略しても文句を言うな。善良な我が国に聖都(今の王都)をよこせ」
もはや意味不明である……。
「もし本当にオルランディアがパトラ王国を侵略したのなら、わざわざ復興に手間のかかる『焦土』にはしません」とアレンさんは言う。
「そうですよね。侵略した後も働き手は必要ですし……」
「そのとおりです。少なくとも人は残します」
わたしも「よそ者視点」でこの世界を見ているけれど「オルランディアがパトラを侵略した」という主張には相当無理があると思えた。
そもそも、正当な理由があろうとなかろうと、侵略は正当化できない。それでも平気で侵略をして、人を殺す国がある。
「わたし、ずっと対岸の火事のように思っていて……」
遠い場所の戦火が、突如目の前にやって来て悲劇を起こす。それが怖くて仕方がなかった。
☟
悲しみに暮れるマリンと一緒に、亡くなった三名の国葬に参列した。
第一騎士団員も大勢参列した。
後継ぎを失ったソレント子爵家は、残ったマリンが政略結婚をして跡を継ぐことになった。
子爵というのは決して爵位の高い家ではないけれど、ソレント家は大昔からの伝統を守り、代々神薙の侍女を輩出している御三家の一つだ。ここで絶やすわけにはいかないと、彼女は泣く泣くその運命を受け入れた。
唯一の救いは、その相手であるサムエル・トールマンが、彼女と幼なじみで仲が良いことだ。
「妙な相手じゃなくてよかった」と、皆で胸をなでおろした。
彼女が侍女を辞めてソレント領へ戻る日に合わせ、お婿さんになるサムエルさんが王都まで迎えにきた。一目でマリンを大事にしてくれるのがわかる、穏やかで優しい好青年だった。
わたしは再会を約束して、マリンを見送った。
身を削られるようなつらい別れだった。明るい彼女はエムブラ宮殿のムードメーカーで、皆にかわいがられ「第一騎士団の妹」とまで言われていた。彼女のことを好いていた団員もいた。
わたしは王都に何度も雨を降らせた。でも、つらいと言葉に出すことはできなかった。一番つらいのはマリンだったからだ。
戦争が、彼女の人生を変えてしまった。
わたしが泣くたび、アレンさんがそばで手を握って慰めてくれた。
イケオジ陛下から新たに侍女を雇って補充するかと聞かれたけれど、誰一人そんな気にならなかった。マリンの代わりなんていないのだ。侍女長も二人で仕事をすると言うので、補充は丁重に断った。
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