昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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5[リア]

都落ち計画

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 翌朝、そっとドアを開けてリビングに出ると、ヴィルさんはソファーでお布団を抱え、ぽやーっと座っていた。
 猫っ毛のダークブロンドがピヨッピヨにハネている。目も半分ぐらいしか開いていなかった。まさに今起きましたという顔だ。
 外で鳴いているスズメの声でも聞いているのだろうか。
 彼は【浄化】の光の中でぽやぽやとしていてほとんど動かなかった。寝癖が朝日でキラキラしていてカワイイ。

「リア?」
「おはようございます。調子はどうですか?」
「うん……いつの間にか寝てしまった」
「今、目が覚めるハーブティーをいれますね」
「リア」
「はい?」
「昨日のオーデン、美味だった。また時間があるときに作ってほしい」

 うっぐ……
 寝起きに「昨日のごはん美味しかった」は反則だ。かわいすぎる。
「もっ、もちろんですっ」
 ニヤついてしまいそうだったので慌てて彼に背を向け、お茶の支度をした。
「体、痛くなりませんでしたか?」
「ああ、大丈夫。意外と寝心地がよかった。いいソファーだ」
「ふふっ」

 ミントを入れた朝のハーブティーを運んでいくと、彼は真剣な顔でハネた髪をぎゅむっと押さえていた。
 それで直るの……? まさか寝ぐせ直しの魔法とか?
 首をかしげて見ていると、彼は手をそっと離した。

 ――ピヨッ。

 猫っ毛は再びビヨンッとハネ上がる。
 寝癖を直す魔法ではないらしい。
「ダメだった……」
「うふふ」
 ションボリするヴィルさんの髪をなでると、彼はその手を取ってキスをした。

 婚約発表も終わり、なんの期日にも追われていない朝だった。そこに彼がいて、そばで笑っている。
 これはダンスの練習をがんばったご褒美だろう。
 彼が朝のトレーニングに出ていくまでのわずかな時間、わたしたちはとても穏やかで優しい朝を一緒に過ごした。

 しばらく経つと『ヴィルさん農園』が再び大収穫を迎えた。
 我が家の天才農家様は巨大白菜を抱えて「ワッハッハッハ」と、絵に描いたような高笑いをしている。
「もしも王都を追われたら、田舎へ移り住んで一緒に農業をやろうな!」
 底抜けに明るく、メチャクチャ縁起の悪いことを言う人だ……。

「できることなら追い出される前に、自主的に引っ越したいです」と、わたしは答えた。
 他人に出ていけと言われて出ていくなんて悲しすぎる。
 すると、彼の口から知らない地名がぽんぽんと出てきた。どうやら引っ越し先候補らしい。

「北は候補から外せ。寒いのは嫌いだ」と、フィデルさんが雑草を抜きながら抗議した。
「南で果樹園をやるともうかるのでは?」とアレンさん。
「団長、自分は海のそばがいいです」
 ほかの団員が口々に要望を言い始める。
「どうせクランツ団長も一緒でしょう? 海か湖が近いほうがいいんじゃないですか?」
「そういえば、大男ふたりでパン屋をやる話はどうなったんです?」
 団員たちはパン屋の屋号を何にするかで盛り上がっていた。
 早朝トレーニング終了後に長靴姿でウロウロする人が増えているせいで、ヴィルさん農園はにぎやかだ。
 結局、王都を追われたら暖かいほうへ向かって逃げ、皆で農家とパンの美味しいカフェをやるという話で落ち着いた。

 相変わらず『ヴィルさん農園』は収穫までの日数が不自然なほど短い。
 何をしたらそんな超スピードで収穫ができるのかが気になって仕方がなかった。
「あの土に秘密がある気がします。実験してみましょう」
 名探偵アレンさんは、度の入っていないメガネをキラリと光らせた。

 てっきり配合を聞いて土づくりを真似するのかと思いきや、彼はヴィルさんの土を指差し「これ、少し頂いてもいいですか」と声をかけて拝借。いそいそと新しいプランターに詰め込んだ。
「私の土と彼の土、同じ種をまいて成長速度を比較します」
「なるほど」

 実験の結果、やはりヴィルさんの土で育てると生育が早いことが判明した。
 わたしの土は定期的に肥料を与えてドーピングしているにも関わらず、お野菜たちはヒョロリと痩せていて『リア様の残念農園』といった感じだ。
「わたしのどこがいけないの?」
 聞いてみたところで、お野菜は答えてくれない……。
ちまたでは『豊穣の女神』として名高いのにね?」
 アレンさんはクスクス笑っている。
 しょんぼり……
 豊作チートでバンザーイな展開を期待していた。異世界に転移したら、てっきりそういうご褒美的なチート設定がいろいろあるものだと思っていたのに。

「団長は土に王家の魔法を使っているようです」と、アレンさんは言った。
 やっぱり魔法だ。うらやましい……。
「例の古書の部屋に、地属性魔法についての本はありませんでしたか?」
「どうでしょう。探したらあるかも知れませんけれど」
「ユミールから聞いたのですが、リア様はすべての魔法属性を持っている可能性が高いそうです」
「ほむ?」
「ただ、王国で地属性魔法を使える人はほとんどいないので、解説書などがありません」
「じゃあ、あの部屋にあれば……」
「そう。リア様も魔法を使って育てられますよ」
「わぁ♪ では探してみましょう」

 やせっぽちラディッシュがまるっと太る日が来るかも知れない。
 わたしは古書の整理整頓に精を出し、あちこちの棚に散らばった魔法書を少しずつ同じ棚にまとめていった。
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