昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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お茶会

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 イケオジ陛下からの依頼で、王宮主催のお茶会に出席することになった。
 貴族の異業種間交流と、出会うことで化学反応が起きそうな者同士を結びつけるねらいがあるらしい。試験的に始めたばかりとのことだった。
 頻度は週に一回から二回程度。参加人数はその時々で違うけれども、四人から六人くらいの小規模なお茶会だった。
「私の代理として毎回出てもらいたい」と、陛下からのムチャ振りだ。
「陛下の代理なんてムリ」と抵抗を試みたものの、すでに予定は組まれていて逃げ場がない。
 救いだったのは、ヴィルさんやアレンさんなど知り合いが必ず同席してくれること。
 護衛として同じ部屋にいるだけでなく、お茶会メンバーとして席についてくれるので安心だ。

 この国で「お茶会」と言えば、誰かの家でやるパーティーだ。
 てっきり参加者のお家で開催するのかと思いきや、場所は王宮エリアにある予約制ティーハウスや高級ホテルの中にある老舗のお茶屋さん、商人街で人気のカフェなどだった。お店はメンバーの年齢やタイプに合わせて決めているらしく、いずれも個室を予約しての開催だった。
 ある時は格式高い伝統的なお茶、またある時は若者に流行りのフレーバーティー。開催場所が変わるおかげで毎回参加するわたしも飽きることがなく、あちこちのお茶とお菓子が楽しめる。
 もともとアレンさんとお忍びでカフェ巡りをしていたので、新しい行きつけの発掘にも良かった。
 参加者にとっても、自宅開催は準備が大変。そうかと言って、王宮でのお茶は格式が高すぎてプレッシャーだそうだ。
 この企画は自分のお茶代だけを支払えばよいので、負担や煩わしさが極限まで削ぎ落されている。気楽で楽しいと好評だった。
 参加者は種族や身分、年齢層いずれも不問のようだ。
 イケメンにしか出会えないキテレツな状況に置かれていたわたしには、この普通な感じの出会いは感動的ですらある。

 初めてのお茶会は、ヒト族のオバーチャンズだった。
 最初は遠慮していたのかあまり元気がなかったのだけれども、最終的にはかなり盛り上がってしまい、時間が足りなくて改めてお食事会の約束をした。
 初めてのお茶会で化学反応を起こしたのはわたしだった。
 商人街の裏通りにある伝統陶器のお店を教えていただき、和食器に似た素朴で温かみのある陶器と出会うことができた。
 これで和定食から丼物、なんでも来いだ。

 天人族のオジーチャンとのお茶会では、アレンさんの目がキラキラしていた。
 参加者の中にオルランディア・チェスの名人がいたのだ。
 公式戦の連勝記録保持者で、五十年以上その記録が破られていない。その偉業に陛下が褒賞を与えたのだとか。
 後日、名人のお家にお邪魔して、エメラルドでできたチェスセットを見せていただいた。
 わたしたちが目をしぱしぱさせていると、名人はアレンさんを対局に誘った。
 アレンさんは学生チェス大会の王者になったことがあり、彼も連覇を成し遂げた人だ。それゆえに名人を尊敬する気持ちは強い。
 憧れの名人とエメラルドのチェスで対戦して感激しきり。
 わたしは名人の奥様とお茶を頂きながら、ピカピカの駒を目で追ってはドキドキハァハァしていた。

 お茶会から始まる新しい人間関係は多才だ。
 そこから友達の友達へとつながり、広がっていくのも楽しい。
 オバーチャンズのお茶会にはご家族やそれぞれのお友達が加わり、チェス名人や元騎士団員のオジイチャンズは、現役で活躍する人たちへとつながっていった。

 ☟

 お茶会には若い天人族男子もやって来る。
 そこにはお見合い相手としての基準に達しなかった人々も含まれていた。
 お披露目会で持たされたヘンなつえ(※国宝「神薙の杖」)のせいで、出会う前に縁が切れてしまった人が大勢いた。
 そういった人たちともお話をする機会がもらえるのはありがたいことだ。

 ある日のお茶会に現れたグルグルメガネとクルクルパーマの天人族男子は、ずいぶんと変わった人たちだった。
「グルグルメガネさん」の職業は自称「発明家」だ。
 ちょっと胡散うさん臭く感じるけれども、本人はいたって大真面目。
 スリムで小柄な彼は、背中に茶色の革製バッグを背負って現れ、パッと見た感じは学生のように見えた。頭は起きたままのようなボサボサヘアー。ジャケットとシャツにはシワが寄っていてヨレヨレ。襟元のリボンタイは縦結びになっている。
「クルクルパーマさん」はグルグルさんと同い年のお友達で「道具職人」だ。
 頭半分ほど背の高いクルクルさんは、パーマをかけた赤毛の男子。
 多少、グルグルさんより身なりは整っているものの、二人ともおおむね似たような雰囲気を醸し出している。

 二人は世の中をあっと驚かせる画期的な発明品を作ることが生きがいらしい。ただ、最近スランプで良い案が浮かばないと肩を落としていた。

 画期的な発明品と聞いて、ふと思いついたのは生活家電や携帯電話だった。
 掃除機、洗濯機、冷蔵庫にテレビなど。かつて身の回りにあった家電について話したところ、彼らは身を乗り出し、やたらと「洗濯機」について根掘り葉掘り聞いてきた。

 全自動洗濯機の説明をあらかた終えた後、母から聞いた古き良き時代の「二層式洗濯機」の話も思い出したので、それも一緒に伝えた。
 お茶やお菓子に目もくれず、グルグルさんとクルクルさんは猛然とメモを取っている。
「あのぅ、どうして洗濯機なのですか?」と尋ねた。
 テレビやスマホのほうが魅力的だし夢があって良いと思うのだけれども……。

「天人族なら【浄化】で掃除や洗濯はせずに済みますが、魔力のないヒト族が日々、最も時間を奪われているのは洗濯なのです」と、グルグルさんが言った。
「経済的に余裕があれば、メイドを雇うこともできますが、ほとんどの人にその余裕はないです」とクルクルさん。
 総人口で言えば、手洗いで洗濯をしている人が圧倒的に多いと言った。

「我々が常に気にするのは人口と面積です。なるべく広く多くの人の役に立つ物を作るほうがいい。そこが重要なのです」と、グルグルさんは言う。
「ヒト族の皆さんのために作ろうとされているのですか?」と尋ねると、熱い返事が返ってきた。
「はいっ。それがひいては世のためなのです!」

 彼らが作った魔道具は町の道具屋に販売委託をしているらしい。
 ところが、道具屋が利益を取りすぎていて、消費者に売るときの値段が跳ね上がってしまうのが悩みだそうだ。
 珍しく同席していたヴィルさんがこれに反応を示した。

「そういうことなら、ベルソール商会の元会長を紹介するよ。適性価格で外国への販売も視野に入れたほうがいいだろう?」と、彼は言った。
「よろしいのですかっ!」と、クルクルさんが目をまん丸にした。
「ただ売るだけの道具商を必要以上にもうけさせてやることはない。君らがしっかり利益を得るべきだ。結局はそれが次の開発費用になるのだろう?」
「そうなのです」
「世のためを考えるなら、そうしたほうがいい」
「ぜひお願いいたします!」

 彼らはわたしの「家電プレゼン」を一通り聞いてメモを取り終えると、カラフルなお茶菓子を次々と口に放り込み、モゴモゴしながら「ホんなにワフワフしたヒブンエをひゃをのんアのアひヒャびひゃエフ」と言った。
 ……どうやら「こんなにワクワクした気分でお茶を飲んだのは久々です」と言いたかったみたいだ。
 ヴィルさんがうっかり噴き出しそうになったのを堪えるため、せき払いをしてごまかした。
 グルグルさんはモッシャモッシャとカップケーキを咀嚼そしゃくし、ずっとほったらかしていたお茶を一気に飲み干して笑顔を見せた。
 なんだか少年のような人だ。とってもユニーク。わたしはこういう人が好きだ。

「設計の案ができた頃、またご相談させてくださいっ!」
 ブンブンと手を振りながら、グルグルさんとクルクルさんは仲良く帰っていった。
 わたしも彼らにつられて手を振った。
 一緒につられて手を振っていたヴィルさんがつぶやいた。
「これは本当に化学反応が起きてしまうかもなぁ……」

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