昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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5[リア]

ノルドとスード

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「──先ほどは黙っていたのだが……」
 帰りの馬車の中、ヴィルさんがふいに話を切り出した。

「彼らは十年ほど前に画期的な魔道具を発明した天才二人組なのだよ」
「天才? あの二人がですか?」
「自分たちで言わないから、てっきり隠しているのかと思っていたのだが、どうもそういう感じではなさそうだったよな?」

 わたしは苦笑した。
 身なりもお茶もお菓子も、そして過去のことすらも、彼らは「どうでもいい」という雰囲気だった。
 決して投げやりなわけではなく、むしろ自分たちのやりたいことに没頭していて、それどころではなさそう。ちょっと微妙な身だしなみに清々しさすら感じてしまうほどだ。

「ヒト族でも使える魔道具を作った天才二人組ノルドとスードと言えば彼らのことだ。今、王都は彼らの発明品であふれている」
「そうだったのですねぇ」
「彼らのおかげで世の中はずいぶんと便利になった。ヒト族の暮らしは相当変わったはずだ」

 十年ほど前まで、魔道具の定義は「魔力を流すことで動作する道具」もしくは「直接道具に触れて魔力を充填じゅうてんして使う道具」だったらしい。
 その特徴から、扱えるのは必然的に天人族だけということになり、ヒト族は魔道具の恩恵を受けられずにいた。
 二人はその一部を「魔力がない人でも使える道具」に変えたそうだ。

「そう言われてみると……」
「ヒト族の侍女や料理人もいろいろと使っているだろう?」
 違和感がなかったのでスルーしてきてしまったけれども、ドライヤー、ミキサー、フードプロセッサー、照明など、屋敷の中には魔力のない人たちも使っている魔道具がたくさんあった。
 逆に、魔力ペンのような小さいものは、ヒト族の人たちが使えないままだったりもする。

「どういう仕組みなのですか?」と尋ねた。
「特殊な魔石にあらかじめ魔力を貯めておき、それを道具の中にはめ込むことで動く。少々値は張るが格段に生活の質が上がる」
「なるほどぉ」
 要は充電式バッテリーだ。
 ボタン電池のように極端な小型化はできていないため、ペンなど小さな道具は未対応らしい。
 ノルドとスードのコンビが手がける魔道具は「労働層の生活を豊かにする」というコンセプトがあり、上級国民向けの高級魔道具とは一線を画している。
 要は生活家電に特化した商品開発をしているのが彼らだ。
「ひいては世のため」と言っていたのは、見栄でも建前でもなかった。

「電池……じゃなくて魔力を使い切ってしまったら?」
「魔石だけを取り出し、店へ持っていけば安価で交換してもらえる。魔石の大きさは親指ほどのものから、大きくてもこぶしぐらいだから重くもない」
「それは便利ですねぇ」
「少し割高になっても良ければ、家まで交換しに来てくれる商人もいるよ」

 一番安上がりなのは身近な天人族にお願いして魔力を補充してもらう方法だ。わたしのお家では騎士団の皆がやってくれているらしい。
 ショップが回収した魔石は、再び魔力を蓄えさせて利用される。
 近年、天人族の学生さんには「魔力提供」のアルバイトが人気らしく、おかげで業者が魔力不足で困ることもないそうだ。学生さんは学校帰りにお小遣いをゲットできてウィン・ウィンな関係になっているとのこと。
 致命的な故障さえしなければずっと使っていける。なかなか持続的かつ理想的な魔道具業界だ。

 そんなにすごいシステムを作り上げているのに、あの二人と来たら、自慢話ひとつせずに「洗濯機、洗濯機」と大騒ぎして帰ってしまった。
 自分たちの名前を名乗ることすら忘れていた気がする(聞いてもすぐには覚えられないから問題はないのですけれどね)

「現時点では大きな機械を動かすことはできないのだが、彼らがそれを実現したら、また時代が変わるかも知れない」
 乾電池の並列つなぎみたいに、魔石をたくさん並べるのだろうか。
「これは魔導効率を専門とするユミール先生の得意分野では……?」
「おっ、そうだな。今度紹介しよう」
「そういたしましょう♪」

 こちらの上水道は硬水なので、我が家では洗浄力を上げるためにぬるま湯で洗濯をしていた。そういう家庭が多いとも聞いたので、水温まで自動化できれば理想的だろう。洗剤もあわせて研究と開発が進むことを期待したい。

「オルランディアは世界の中では技術レベルがそれほど高くない。皆、彼らの活躍には期待している」
「栄えているように見えるのに」
「西大陸に行くと驚くよ。ヴィントランツには見たこともない魔道具が山ほどあった。十代の頃、王宮にしばらく滞在させてもらったことがあったが、俺なんかほとんど原始人だったよ」
「まあ……。便利グッズの輸入はしないのですか?」
「ベルソールが少し買いつけているぐらいかな。こちらから売れるものがないから、あまり大きく買うことはできないと思う」
「貿易赤字になってしまうのですねぇ」
「向こうとしてはオルランディア通貨なんぞ要らないから、物と交換のほうがいい。輸入したものを使って外貨が稼げるのであれば、国を挙げて買いつける価値もある。しかし、収支の均衡がとれるまでの間、ひたすら買う専門に……というか、君よくこんな話がわかるな」

 馬車は王宮広場の前を通過していた。
 小さな子が芝生に寝転んでゴロンゴロンと転がっていて楽しそう。
「技術支援を受けることはできないのですか?」と尋ねた。
「技術を売ってもらうということか?」
「売買ではなく、共同計画にするのです」

 こちらの専門家で視察団を作り、西大陸へ行く。
 現地のプロからそれぞれ教わる。
 環境が異なる土地で同じことをやっても上手くいかない場合があるので、西大陸からもプロに来ていただき、こちらの状況を踏まえて一緒に挑戦をしていただければありがたい。
「しかし、来てくれる技術者にはうまみがないよな?」と、彼は言った。
「西大陸では、国の代表として原始人を助けに行くのは名誉なことではないのですか?」
「はははっ! なるほど。国の代表か」
「技術者に住まいを用意してお給料を支払うのはオルランディアの王宮です。西大陸に帰った後、ヴィントランツの国王陛下からも表彰されたり、ご褒美が頂けたり、新聞に名前が載ったり……」
「国同士の協力関係があればできるな」
「こちらにはアレンさんがいますしね?」
「アレンの父上がヴィントランツに呼びかけ、アレンが視察団に同行すれば……」
「きっと歓迎していただけますね」
「けっこう大がかりな計画になる」
「わたしたちも一緒にまいりましょうね。原始人代表として。ムフフ」
「それは名案だ」
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