昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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5[リア]

公序良俗

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「洗濯機は多少お金を援助しても実現させたほうが良いと思います」と、わたしは言った。
「どうしてそう思う?」
「時間を生む道具だからです」
「メイドが大量に失業するぞ」
「彼女たちは針仕事も得意です。仕立屋さんはどこも人手が足りていませんし、専門職ですから、今よりも高いお金で雇ってもらえます。それでも失業者が出るのなら職業訓練の補助をすれば大丈夫です」
「職業訓練か」
「彼女たちも座り仕事のほうが楽なのです。それに、洗濯は女性の仕事ではありませんよ?」
「いや、しかし……」
「洗濯屋を営む商人はムキムキの男性ばかりですもの」

 マッチョな洗濯商人は、パワーと特別な洗剤を使って家庭では落としきれない汚れをきれいにしてくれる。
 洗濯は非力な人にはつらい仕事だ。なのに、オルランディアでは妻やメイド(女性)の仕事だった。面倒なことを弱者に押しつけているだけではないのか、と思ってしまう。
 繊維に入り込んだ汚れを落とすには、洗剤の力だけでは足りないので、足で踏んだり、凹凸のある場所にこすりつけたり、広い場所で叩きつけたりして物理的な力を加えて押し出す必要がある。日本の洗濯機が逆回転を繰り返していたのは、洗剤を繊維に含ませながら洗い流す工程と、力を加えて汚れを押し出す工程を自動化しているためだ。

「けっこう大変でしたもの。長時間しゃがんでいると足腰に来ますしねぇ」
「……リア」
「はい?」
「まさかとは思うが、メイドと一緒に洗濯をしたことがあるのか?」
「あ……」

 神薙をクビになっても生きていけるように、一通り家事を教えてもらっているのは内緒だ。
「こら、アレンの目を盗んでコソコソとやっているな?」

 夕陽を浴びながらコトコトと走る馬車。
 わたしは婚約者からジロリとにらまれていた。
 ただし、彼の口角は上がっている。なにせ初対面から「お転婆てんば」がバレているので、メイドさんと一緒に洗濯をしたくらいでは驚かない。むしろ面白がっているくらいだろう。

「ヴィルさんが『王都を追われたら農家になろう』なんて言うからですよ?」
「ほほう、俺のせいか」
「平民になったら、なんでも自分でやらなくてはですしね?」
「まあな。きっと忙しいだろうな?」
「そう。だから経験しておいて損はないですよね。あっ、そのおかげで今、良いことを思いつきました」
「ふむ、良いこととは?」
「洗濯機が完成してからのお楽しみ♪」
「また俺に秘密を作るつもりか。例の赤たまねぎのときも苦労させられたが、あの時と今ではだいぶ状況が違うぞ?」
「ん?」

 ゴゴゴゴゴ…… と、彫りの深い顔に影が落ちた。
 なぜか彼はワキワキと両手の指を動かしている。
「そ、その指はなんでしょうか……」
「リアにしゃべってもらうための準備運動だ」
 馬車の中でのお触りはお控えくださいとお願いしてあるのに、彼はまた悪さをする気だ。いつも恥ずかしい思いをするのはわたしなのに。

「こっ、コインランドリーですっ!」
 わたしが思いついたのは、庶民の味方「コインランドリー」だ。
 洗濯機が発売されたとしても、すぐには買えない人が大勢いる。疲れている日の洗濯や、急いでいるときの乾燥だけでも、街角にあれば便利なはず。
「フフフ、良い案でしょう?」
 情報共有してしまえば安全だろうと思ったのに甘かった。
 彼の腕が腰に巻きついたかと思ったら、次の瞬間には押し倒されていた。
「もう話したでしょうッ?」
「コインランドとはなんだ? 意味がわからないからお仕置きだな」
「いいえ、コインランドではなく……ええとぉ……硬貨式洗濯・乾燥機?」

 彼の肩を押し返してみたけれどビクともしない。それどころか手を取られて座面に押しつけられ、身動きが取れなくなってしまった。
 まずい、まずい……この流れ。
 アレンさんに𠮟られる(泣)

 最近、車内でイチャイチャしてヘロヘロになると、馬車から降りた瞬間、アレンさんに外套がいとうをかぶせられる。そして、抱っこで部屋へ連れていかれるのだ。
 表向きは「車に酔った」ということにしてくれているけれど、さすがに毎度すっぽりと顔を隠しているのは不自然だ。

「わたしがアレンさんに𠮟られるのですよ?」
「あれは𠮟っているのではなくて、リアを独り占めしているだけだぞ?」
「だって『公序良俗に反する』と言われるのです」
「それは口実だ。彼はああ見えて独占欲が強い」
「でも……」
「なぜさっきから左耳を下にして隠している?」
「うっ……。そ、それはですね……」
「そこが弱いからだろう?」

 バレている。
 いやー、待って! 洗濯機の話から急展開すぎて心の準備がっ。

「お待ちください。『先代と変わらない』などと言われたら困るのですっ」
「リアは声が小さいから、聞こえないなぁ」

 あ~~っっっ!!
 アレンさん、怒らないでください、わたしを𠮟らないでください。
 わたしは無実ですーーっ。

 数十分後、どうにかがんばって馬車から降りると、予想どおり外套がいとうを頭からかぶせられた。
 そして「公序良俗に反するので顔を出さないように」と言われ、有無を言わさず抱っこで運ばれた。
 アレンさんはフンフンと鼻歌を歌っていた……。

 その後もお茶会は定期的に開催された。
 しかし、グルグルメガネさんたちと会って以降、どういうわけか妙にアクの強い人々が参加してくるようになった。
 誰が人選をしたのか王宮を問い詰めたくなる日もある。
 お茶を味わう余裕もなかったときは、後日改めて訪れ、アレンさんと二人だけでお茶会をやり直すこともあった。

 わたしの肩に「陛下の代理」という重荷はズッシリとのしかかるのだった。

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