昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

聖女の像

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「ささ、座りなさい」と、陛下はお隣の席を指した。
 今まで借り物だった聖女様の椅子が、正式にわたしの席になってしまった。しかし、落ち着かないのは相変わらずだ。

「さて、まずは聖人の日を決めたい。いつがいい?」
 陛下が手の平をこすり合わせながらうれしそうに言った。
 黒の騎士服に身を包んだ近衛の人たちも、姿勢こそビシッとしているけれどニコニコしている。

 聖人の日は、国民にとって最も重要な祝日だ。
 家族や親戚で集まって過ごすものなので、仕事の都合で王都にいる人々は帰省をする。
 田舎では親御さんがごちそうを用意して、帰ってくるのを今か今かと待っている。離れて暮らす親を心配させたくないし、幼馴染おさななじみとも久しぶりに会う。
 お土産を買い、きれいな服を着て実家に帰ろうとする。数日滞在するから、その分の服も買う。美容室にも行く。子どもが退屈しないようにオモチャなどを買い与える。親戚の子にはお菓子やおこづかいをあげる。
 オルランディア王都に「書き入れ時」フラグが立つ。
 王都では商人街をあげて大安売りセールだ。帰省しない人もこの時期にまとめて買い物をする。
 社長さんたちも帰省をしたいので、会社も休みになるところが多い。

 クリスマスと年末年始の合体バージョンだと言っても過言ではない。
 それが現在は四番目の月の半ば。最後の聖女様のお誕生日らしいけれども、日本人にはなんとも調子のくるうタイミングだ。
 わたしに所縁ゆかりのある日に変えるのだと陛下は張り切っている。しかし、何か案があるのだろうと思っていたのに「いつがいい?」と丸投げだった。

 誕生日は九月後半なのだけど、このイベントの雰囲気的に夏という選択はないだろう。
「一年の最初の日でいかがでしょうか」
 これしかない。というか、むしろこれがいい。
「母国では国民の休日でしたので、わたしもお休みしたいと思うのですが……」
 長年の習慣で、元日は仕事をしたくないのだ。
 ぐうたら聖女様と言うなかれ。一年の計は元旦にあり。のんびりとおせちを食べて、おミカンを食べてダラダラしないとわたしの一年は始まらない。

「わかった!」と、陛下はあっさり了承してくれた。
 そんな簡単に決めてしまっていいのかと、逆に心配になってくる。一人ぐらい反対してもよさそうなのに……。
「いっそ元日が誕生日だということにしてしまおうかしら?」なんて考えていると、陛下が人を呼び込んでしまった。
 この国は、こういうところが雑だ。



「リア、例の者たちを呼んである。思い切り問い詰めてやってくれ」と、陛下は片方の口角を上げた。
「例の者?」わたしは首をかしげた。
 今日は貴族の皆さまの『お祝い行列』に応えるお仕事だと聞いていた。聖女様復活の祝辞に微笑を浮かべつつお礼を言うのがお役目のはず。
 フェンリルもわたしのお膝の上でスタンバイおりこうさんしていた。聖女と神獣の会話が聞けると縁起が良いと言われているらしいので、積極的におしゃべりをするつもりでいる。
 この状況で「例の者」とは誰だろう。しかも、わたしが問い詰めなくてはいけないような相手って……?

 入り口に目をやると、呼ばれた人々がぞろぞろと入ってきていた。
 この国に来て以来、最も縁遠かった『東方聖教会』の皆さんだ。
 いくつもの宗派に分裂して信者お客さんの取り合いに精を出し、高額な寄付を無心するなど本業以外・・・・のことに明け暮れている人々だ。
 全員が制服と思しき青いローブを着ていた。金の刺繍ししゅうが施された豪華なものを着ている人が、大司教と呼ばれている人だろう。陛下よりも少し年上に見える。

「面倒なことは最初に済ませたい」と、イケオジの顔に書いてあった。
 なるほど、そういうことですか。

 わたしが孤児を保護し、テオとサナが「カメリアの咲く教会」で起きたことを証言した。それをきっかけに多くの人が動いている。
 大聖堂を始めとする王都内の教会は、長い時間をかけて入念に調べ上げられていた。

 大司教は仰々しく頭を下げ、皆を代表して聖女降臨のお祝いを述べている。
「この度は一番に私どもをお呼びいただき恐悦至極にございます。今後はオルランディア国内すべての聖堂と教会にて、東の聖女様の像をおまつりいたします」
 いくつもの宗派に分裂してしまっているものを、聖女リアの名のもとに再び一つに集めるそうだ。
 わたしは感情がわからないよう『聖女の微笑』を浮かべてそれに応えた。

「つきましては、石像の作成に是非ともご協力を賜りたく、お願い申し上げます」
 職人が作る間、モデルになってほしいと言う。
 最初の一体が完成してしまえば、あとはそれを真似して作るだけなので、一回だけでよいそうだ。

「お断りいたします」
「はっ?」

 わたしの答えがよほど予想外だったのだろう。彼らは急にエサを取り上げられたニワトリのような顔をしていた。

 この件はすでに打ち合わせ済みだった。
 わたしが生きている間、石像の類は一切作らないでいただく方針が決まっている。
 自分が信仰の対象になるなんておこがましい。まだ聖都の宣言もなされておらず、わたしが死んだ後、次の聖女が降りる保証もない。今、新たな分裂の火種を作るのは違う。
 何よりも、わたしは普通に街中でお買い物がしたい。「あの人、聖女の像に似ているね」なんて指を差されるのは迷惑だ。個人情報保護バンザイ。

「い、今、なんと?」
「お断りいたします、と申し上げました」
「それは、その……どういう……」
「そのままの意味ですわ」
「それでは、聖女様の像が祀れないのですが」
「はい。祀って頂かなくて結構です」
「いや、しかしですね……」

 食い下がろうとする大司教を、ヴィルさんが制止した。
「貴公の要望は拒否する。話は以上だ。聖女への口答えはお控えいただこう」
 わたしもそれにうなずいた。

――――――――――
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