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[リア]
気楽なお茶会 §1
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わたしが保護した六人の子どものうち、テオ以外の五人が公立の初等学校に通い始めた。
残ったテオは、王立学院の騎士科を狙って勉学に打ち込んでいる。小中高一貫校で、シビアな入学試験があるらしい。皆と一緒に公立校に入っておいて、後から編入試験を受けるという道もあったけれど、彼はあえて粛々と勉強する道を選んだ。
「楽しいことは後でいい」と、彼の意思は固い。
週に一度か二度、聖女宮に来てアレンさんから個別指導も受けている。机で勉強を習っている日もあれば、庭で実技を習っている日もあった。
何を教えているのか聞いても「淑女に話すようなことではない」と言って、絶対に教えてはくれない。
はぁ……テオきゅん、わたしはさみしいです。
どんどん共通の話題が減って、彼が男の子の世界に行ってしまう気がした。がんばる姿を物陰からコッソリと見てはイジイジする聖女様である。
「リア、今日の茶会のことだが……」
ヴィルさんが話しかけてきているのに、わたしは窓にへばりついていた。お庭でアレンさんから剣を教わっているテオきゅんに夢中だ。
「リアぁ~?」
「あ、はい?」
振り返ると、彼がカフスを留めながら鏡越しにこちらを見ている。陛下から頼まれた臨時のお茶会があるため、急いで戻ってきて着替えているところだった。
くまんつ様とヴィルさん、そしてもう一人参加者が来る予定になっている。
「今日のお茶会がどうかしました?」
放り投げられた彼のタイをふたつほど拾い(なぜ投げるのかしら。笑)キースさんに渡しながら尋ねた。
「知り合いだ」と、彼は鏡越しに言う。
「くまんつ様ですよね?」
「いや、クリスではないほうの男も、同学年の騎士科出身だ」
「えーっと……ナントカ辺境伯様の?」
「オリヴァーだ。エルディル辺境伯家の嫡男オリヴァー。で、ちょっと君に頼みがある」
彼はわたしに妙なお願いごとをした。
☟
エルディル辺境伯領は北の国境に位置し、北方で最も力を持つ領主様だ。
お行儀の悪い隣国と長いこと戦争状態にあるせいで、王都での催しにはほとんど来られない。神薙お披露目の会と王宮大舞踏会(婚約発表)も不参加だった。
そんなエルディル領から「用がたまっているので王都に行きたい」と連絡が入ったそうだ。
「嫡男と部下数人で王都へ行くから代わりの人員を寄越してくれ」との要請で、陛下が騎士や文官などを派遣した。その人たちが一時的に仕事を引き継ぎ、ようやく嫡男の訪都が実現できたとのこと。
王都滞在中は人気アイドル並みに分刻みのスケジュールが組まれており、お茶会も「時間厳守で」とクギを刺されていた。
わたしは同窓会のおまけで参加する感じだろう。気楽でありがたい。
予定よりもだいぶ早く会場に入った。
有名ホテル『スタインブリッツ』にあるお茶屋さんの一番良い個室だ。
わたしたちが着いてすぐに、くまんつ様もやって来た。
控えめな柄の入った濃紺のスーツに、そろいの濃紺のシャツ。光沢のある黒のタイ。
ヴィルさんは「ディス・イズ・お貴族様」なキラキラのジャラジャラが似合うけれど、くまんつ様は控えめシンプルでアクセサリー使いも上手。世界で最もセクシーなクマだ。
陛下の前で変に自爆した記憶がまだ新しい。ステキだと思うに留めて、口には出さないことにした。
「エルディル様が到着しました」
知らせが入った途端、二人はなぜかわたしの前でピッタリとくっついて並んで立った。なぜかわたしを隠してオリヴァーさんを出迎えている。
これはなんなのかしらと思いつつも、事前に「紹介されるまで声を出さないで」と頼まれていたため、言われたとおり二つの大きな背中を見守った。
「久しぶりだな、オリヴァー」と、ヴィルさんが言った。
「おおー、二人とも変わらないなぁ!」と、オリヴァーさんらしき声。
「どうして急に聖女に会うことにしたんだ?」とヴィルさん。
「いやぁ、俺は会わなくてもよかったのだが、ちょっと領内でゴタゴタして」
「ほう?」
「二番目の夫になれないか、という話になってな」
「お前、ヒト族の商家の娘と婚約したのではなかったか?」
「その婚約者に言われたんだよ」
な、なぬ!? 婚約しているのに聖女の夫になりたい? しかも、それを婚約者に言われたぁ? どっどっどっどういうこと?(大混乱)
「なんだそれ」と、くまんつ様が言った。
わたしもそれを言いたかったところです、くまんつ様。
「戦が長引いているせいで、もう金がないんだよ」と、オリヴァーさんは言う。
「関係ないだろ。聖女は金づるか?」
少しピリッとしたくまんつ様の声。わたしは後ろで「そーだそーだ!」と口パク中だ。
「聖女の夫になれば経済的に楽になると言い出したのは彼女だ。今すぐ王都に行って聖女に会い、慈悲を請えと。何がなんでも二人目の夫に食い込まなければ、俺は彼女に婚約破棄をされるらしい。預金残高を見て以来、そんな話で大騒ぎだ。もう参っていてさ……」
「お前の言っていることは、意味がわからん」
くまんつ様がガツンと突っ込んだので、わたしも後ろで首を激しく縦に振った。
オリヴァーさんも変な話をしていることはわかっているようだ。
「俺だって変だと思うし困っているよ」と言う。「あいつがあまりにも泣いて騒ぐから、いったん離れて落ち着かせようと思って。ほかの用もたんまりとあったし、王都に来れば多少は金策もできるだろう?」
――素朴な疑問なのだけど、どうして辺境伯家がそんなにお金に困っているのかしら……国内で王族に次いで位の高い貴族なのに?
「聖女の夫になりたいというのは本気なのか?」と、ヴィルさんが尋ねた。
「ついこの間まで神薙だった人だろう? 金目当てで神薙の夫になるのは、よくある話だよな。領地を立て直したら離縁して、今の婚約者と再婚する手もあると部下は言っている」
「ほ~う」
「一応、やれるだけのことはやりたい。妻に金のことで苦労をかけたくないからな。聖女が到着するまでの間に、攻略法とか必勝法があれば教えてもらえまいか。っていうか、お前どういう経緯で婚約したんだ? あの親父さん、神薙が大っ嫌いなのに」
わたしとお義父様が仲良しなことも知らないなんて、王都に来られなかったせいで、情報がかなり遅れているようだ。
それに、攻略法に必勝法なんて、まるでゲームのような言われ方だ。失礼しちゃう。わたしにそんなのないですわーっ。
「ド田舎で売るものがないからって、自分自身を売りに来たのか? 悲しいなぁ」と、ヴィルさんは言った。
「面倒くせぇ」と、くまんつ様は本当に面倒くさそうに言った。
「なあ、さっきからなんでそんなに二人でくっついているんだ?」
オリヴァーさんは訝しげに言った。
ピッタリと肩を寄せ合って立っている二人をおかしいと思ったのだろう。
「別に。ただ仲良しなだけだぞ?」
ヴィルさんがふざけると、オリヴァーさんが笑った。
「再会早々、気持ち悪いこと言うなよ」と突っ込まれている。
「オリヴァー、その話は聖女のいないところでするべきだったな。な? クリス」
「まったくだ。次期辺境伯が女の尻に敷かれやがって。攻略法だと? させるかよ、このボケナスがっ!」
くっついていた二人の肩が離れ、ようやくわたしからボケナス……ではなく、オリヴァーさんが見えた。
辺境伯領は戦が多いため、パワー系の人が多いと聞いているけれども、くまんつ二号かと思うくらい大きな人だった。固そうな銀灰色の短髪が、まるで歯ブラシのように真上に向かって立ち上がっている。
その二号機が、わたしを見てオロオロと狼狽えていた。
「お、お前ら、謀ったな!」
「見えているだろうと思っていた。なあ、クリス?」
「ああ。俺がデカすぎて小柄なリア様が隠れてしまっただけだろう。悪かったな」
くまんつ様がすごい棒読みで言った。
聖女を呼びつけておきながら「時間厳守」と言ったことに、ヴィルさんはカチンと来ていたらしい。
ちょっとお仕置きのつもりでドッキリを仕掛けたものの、予想以上に失礼な発言が飛び出してしまったというわけだ。
「あ……はじめまして。攻略対象です」と、わたしは頭を下げた。
お茶会は波乱の幕開けだった。
残ったテオは、王立学院の騎士科を狙って勉学に打ち込んでいる。小中高一貫校で、シビアな入学試験があるらしい。皆と一緒に公立校に入っておいて、後から編入試験を受けるという道もあったけれど、彼はあえて粛々と勉強する道を選んだ。
「楽しいことは後でいい」と、彼の意思は固い。
週に一度か二度、聖女宮に来てアレンさんから個別指導も受けている。机で勉強を習っている日もあれば、庭で実技を習っている日もあった。
何を教えているのか聞いても「淑女に話すようなことではない」と言って、絶対に教えてはくれない。
はぁ……テオきゅん、わたしはさみしいです。
どんどん共通の話題が減って、彼が男の子の世界に行ってしまう気がした。がんばる姿を物陰からコッソリと見てはイジイジする聖女様である。
「リア、今日の茶会のことだが……」
ヴィルさんが話しかけてきているのに、わたしは窓にへばりついていた。お庭でアレンさんから剣を教わっているテオきゅんに夢中だ。
「リアぁ~?」
「あ、はい?」
振り返ると、彼がカフスを留めながら鏡越しにこちらを見ている。陛下から頼まれた臨時のお茶会があるため、急いで戻ってきて着替えているところだった。
くまんつ様とヴィルさん、そしてもう一人参加者が来る予定になっている。
「今日のお茶会がどうかしました?」
放り投げられた彼のタイをふたつほど拾い(なぜ投げるのかしら。笑)キースさんに渡しながら尋ねた。
「知り合いだ」と、彼は鏡越しに言う。
「くまんつ様ですよね?」
「いや、クリスではないほうの男も、同学年の騎士科出身だ」
「えーっと……ナントカ辺境伯様の?」
「オリヴァーだ。エルディル辺境伯家の嫡男オリヴァー。で、ちょっと君に頼みがある」
彼はわたしに妙なお願いごとをした。
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エルディル辺境伯領は北の国境に位置し、北方で最も力を持つ領主様だ。
お行儀の悪い隣国と長いこと戦争状態にあるせいで、王都での催しにはほとんど来られない。神薙お披露目の会と王宮大舞踏会(婚約発表)も不参加だった。
そんなエルディル領から「用がたまっているので王都に行きたい」と連絡が入ったそうだ。
「嫡男と部下数人で王都へ行くから代わりの人員を寄越してくれ」との要請で、陛下が騎士や文官などを派遣した。その人たちが一時的に仕事を引き継ぎ、ようやく嫡男の訪都が実現できたとのこと。
王都滞在中は人気アイドル並みに分刻みのスケジュールが組まれており、お茶会も「時間厳守で」とクギを刺されていた。
わたしは同窓会のおまけで参加する感じだろう。気楽でありがたい。
予定よりもだいぶ早く会場に入った。
有名ホテル『スタインブリッツ』にあるお茶屋さんの一番良い個室だ。
わたしたちが着いてすぐに、くまんつ様もやって来た。
控えめな柄の入った濃紺のスーツに、そろいの濃紺のシャツ。光沢のある黒のタイ。
ヴィルさんは「ディス・イズ・お貴族様」なキラキラのジャラジャラが似合うけれど、くまんつ様は控えめシンプルでアクセサリー使いも上手。世界で最もセクシーなクマだ。
陛下の前で変に自爆した記憶がまだ新しい。ステキだと思うに留めて、口には出さないことにした。
「エルディル様が到着しました」
知らせが入った途端、二人はなぜかわたしの前でピッタリとくっついて並んで立った。なぜかわたしを隠してオリヴァーさんを出迎えている。
これはなんなのかしらと思いつつも、事前に「紹介されるまで声を出さないで」と頼まれていたため、言われたとおり二つの大きな背中を見守った。
「久しぶりだな、オリヴァー」と、ヴィルさんが言った。
「おおー、二人とも変わらないなぁ!」と、オリヴァーさんらしき声。
「どうして急に聖女に会うことにしたんだ?」とヴィルさん。
「いやぁ、俺は会わなくてもよかったのだが、ちょっと領内でゴタゴタして」
「ほう?」
「二番目の夫になれないか、という話になってな」
「お前、ヒト族の商家の娘と婚約したのではなかったか?」
「その婚約者に言われたんだよ」
な、なぬ!? 婚約しているのに聖女の夫になりたい? しかも、それを婚約者に言われたぁ? どっどっどっどういうこと?(大混乱)
「なんだそれ」と、くまんつ様が言った。
わたしもそれを言いたかったところです、くまんつ様。
「戦が長引いているせいで、もう金がないんだよ」と、オリヴァーさんは言う。
「関係ないだろ。聖女は金づるか?」
少しピリッとしたくまんつ様の声。わたしは後ろで「そーだそーだ!」と口パク中だ。
「聖女の夫になれば経済的に楽になると言い出したのは彼女だ。今すぐ王都に行って聖女に会い、慈悲を請えと。何がなんでも二人目の夫に食い込まなければ、俺は彼女に婚約破棄をされるらしい。預金残高を見て以来、そんな話で大騒ぎだ。もう参っていてさ……」
「お前の言っていることは、意味がわからん」
くまんつ様がガツンと突っ込んだので、わたしも後ろで首を激しく縦に振った。
オリヴァーさんも変な話をしていることはわかっているようだ。
「俺だって変だと思うし困っているよ」と言う。「あいつがあまりにも泣いて騒ぐから、いったん離れて落ち着かせようと思って。ほかの用もたんまりとあったし、王都に来れば多少は金策もできるだろう?」
――素朴な疑問なのだけど、どうして辺境伯家がそんなにお金に困っているのかしら……国内で王族に次いで位の高い貴族なのに?
「聖女の夫になりたいというのは本気なのか?」と、ヴィルさんが尋ねた。
「ついこの間まで神薙だった人だろう? 金目当てで神薙の夫になるのは、よくある話だよな。領地を立て直したら離縁して、今の婚約者と再婚する手もあると部下は言っている」
「ほ~う」
「一応、やれるだけのことはやりたい。妻に金のことで苦労をかけたくないからな。聖女が到着するまでの間に、攻略法とか必勝法があれば教えてもらえまいか。っていうか、お前どういう経緯で婚約したんだ? あの親父さん、神薙が大っ嫌いなのに」
わたしとお義父様が仲良しなことも知らないなんて、王都に来られなかったせいで、情報がかなり遅れているようだ。
それに、攻略法に必勝法なんて、まるでゲームのような言われ方だ。失礼しちゃう。わたしにそんなのないですわーっ。
「ド田舎で売るものがないからって、自分自身を売りに来たのか? 悲しいなぁ」と、ヴィルさんは言った。
「面倒くせぇ」と、くまんつ様は本当に面倒くさそうに言った。
「なあ、さっきからなんでそんなに二人でくっついているんだ?」
オリヴァーさんは訝しげに言った。
ピッタリと肩を寄せ合って立っている二人をおかしいと思ったのだろう。
「別に。ただ仲良しなだけだぞ?」
ヴィルさんがふざけると、オリヴァーさんが笑った。
「再会早々、気持ち悪いこと言うなよ」と突っ込まれている。
「オリヴァー、その話は聖女のいないところでするべきだったな。な? クリス」
「まったくだ。次期辺境伯が女の尻に敷かれやがって。攻略法だと? させるかよ、このボケナスがっ!」
くっついていた二人の肩が離れ、ようやくわたしからボケナス……ではなく、オリヴァーさんが見えた。
辺境伯領は戦が多いため、パワー系の人が多いと聞いているけれども、くまんつ二号かと思うくらい大きな人だった。固そうな銀灰色の短髪が、まるで歯ブラシのように真上に向かって立ち上がっている。
その二号機が、わたしを見てオロオロと狼狽えていた。
「お、お前ら、謀ったな!」
「見えているだろうと思っていた。なあ、クリス?」
「ああ。俺がデカすぎて小柄なリア様が隠れてしまっただけだろう。悪かったな」
くまんつ様がすごい棒読みで言った。
聖女を呼びつけておきながら「時間厳守」と言ったことに、ヴィルさんはカチンと来ていたらしい。
ちょっとお仕置きのつもりでドッキリを仕掛けたものの、予想以上に失礼な発言が飛び出してしまったというわけだ。
「あ……はじめまして。攻略対象です」と、わたしは頭を下げた。
お茶会は波乱の幕開けだった。
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