昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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3[リア]

尋問

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 きゃーっ、きゃーーっ!
 アレンさんがっ、アレンさんがおかしくなってしまいましたぁぁぁ。

「だ、だ、あああっ!」

 落ちてくる彼の唇に向かって両手を出し、すんでのところでガードした。

 はぁ、はぁ、はぁ……
 に、逃げないと、イケメンのお色気攻撃で、おぱんつのことを吐かされる。
 人生でそれ以上に恥ずかしいことなんてあります?(泣)

「避難? どこに避難する気ですか? あなたの避難場所は俺ではないのですか?」

 彼はわたしの手を外しながら言った。

「そ、そうとも言えますが、できることなら、こっ、こういうセクハラのない世界に行きたいと常々思っておりまして……」
「あの彼のところはもっと危険ですよ? たまに想定外の行動をする。私のほうが親切でしょう?」
「そ、それはそう……ですけれど……」

 彼はフーッと長く息を吐いた。

「いいですか、リア様? 拷問というものは、相手にお話しをして頂くことを目的として行われます。すこーしずつ相手が嫌がることをするのがお作法です」
「た、ためになる拷問講座を、ありがとう存じます」
「自発的に何もかも話すのと、俺に色々されながら無理やり喋らされるのと、どちらが良いですか?」
「ど、どっちも良くないですっ」
「痛くはしませんが、とても恥ずかしいことをされるかも知れませんよ?」
「……いやですっ」

 負けるものかと、彼を睨みつけた。
 ところが、彼はクスクス笑っていた。

「な、なんで笑っているのですか?」
「いや、完全に自由を奪われた状態でも戦意が落ちないのだな、と」
「え?」
「気づいていないだけですか? あなたらしいと言えば、らしいですけれどね」

 そ、そういえば、先程に増して動けませんね……。

 チラリと頭上を見ると、彼の左手がわたしの両手首をつかんで本棚に優しく押しつけていた。
 クッと力を入れて逃げようとしてみた。

「……っ」
「んー。無駄ですよ? 私はこういうことに関しては専門家なので」
「は、はぅ」
「怖いですか?」

 逃げられない。動けない。
 仰るとおり完全に自由を奪われていた。見たまんま、そのまんま「お手上げ状態」だ。
 怖いのは怖いけれど、普通の恐怖とは種類の違う怖さだった。

「ち、ち、近……」

 彼は手袋の先を軽く口にくわえて引っこ抜くと、右手をわたしに見せた。

「あなたは動けないのに、こちらは利き手が自由ですね? ほら」

 そう言うと、彼はわたしの頬を軽くつまんだ。

 きゃーっ、きゃーっ、きゃーっ!
 アレンさんに素手でプニプニされたァァッ!
 死んじゃうっ、もう死んじゃうゥゥ(泣)

 ば、万事休す……。

 埋蔵金の場所とか、政治的な秘密とか、重要なことを自白するのならまだしも、こんな体勢でおぱんつの話をしなくてはならないのは地獄だ。

「アレンさん、卑怯ですっ」
「普通に聞いても教えてもらえないので非常手段です。私も上司の命令で、あなたに嫌われるかも知れない大きな危険を冒しています」
「そ、そのわりには楽しそうに見えるのですけれども?」
「それが正しい拷問のお作法だからです。相手が苦手なことをしつつ楽しそうに振る舞うことで、より効果的になりますからね?」
「意地悪ですっ」
「私の右手はもっと意地悪なことをしたがっていますよ」
「アレンさんはそんなことしないと思います」
「そうでしょうか。私も男なので、あなたには人並み以上に興味を持っていますが?」
「そういう人なら、もっと前に何かしているはずですっ」
「誰かさんのように?」
「え?」

 彼は眉尻を下げてじっとわたしを見ていた。
 何か考えているようだった。
 そして、小さなため息をつくと「あなたは正しい」と言った。

「私には、本気であなたが嫌がることはできません」

 「ただ」と、彼は人差し指でわたしの鼻の頭にちょんと触れた。

「我々の知らないところで行われている活動が原因で、またあなたに危険が及ぶのは耐えられない。あの事件で一番辛い思いをしたのはあなたですが、傷ついたのはあなただけではありません」
「え……」
「私もあの日の夢を見て、後悔で震えることがあります。だから切羽詰まってこんな手段に出ているのですよ?」
「ご、ごめんなさい。でも、男性に言えないことはあって、それは、どうしても……」
「どうしても話したくない?」

 ふるふると首を振ると、彼は「仕方ありませんね」と苦笑しながら手を離してくれた。

 解放されてホッとしたせいか、ふらりと体が揺れて足がもつれる。彼がすかさず支えてくれた。
 ゼラニウムと柑橘が混ざったようないい香りがした。いつも彼がつけている香水だ。

「リア様、すみません。命令とは言え無茶なことをしました」
「ん……」
「リア様?」

 ふにゃりと力が抜けたのは覚えているけれども、ホッとした勢いでそのまま眠ってしまったらしい。
 気がつくと図書室の長椅子で寝ていて、アレンさんがわたしの手を握り、真っ青な顔で何度も何度も謝っていた。

 その後も大魔王ヴィル太郎さんはあの手この手で自白を迫ってきた。
 しかし、彼が無茶なことをすればするほど女子の結束は固くなり、おぱんつ革命の下地は着々とでき上がっていったのだった。
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