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3[リア]
ラスボス戦
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◆
しずしずと会議室へ向かっていた。
すぐ隣を歩くアレンさんから、とても優しい口調で苦言がビュンビュンと飛んでくる。
出会った当初、彼のエスコートは遠慮がちに指先を持つスタイルだった。それがお披露目会を境に腕を組んで歩くスタイルに変わった。
距離が近くて話がしやすいし歩きやすい。しかし、叱られているときには少々近すぎるのが難点だ。
最初からこうなることは分かっていた。
だから執事長に協力してもらい、マダムと会うことはギリギリまで彼らに伏せてあった。
当日、突然予定を知らされたアレンさんは、会議室が男子禁制と聞かされて二重にショックを受けていた。
「また問題が起きるのでは?」
「ちょっと相談したいことがあって」
おぱんつのことを、少々。
「なぜ護衛を同席させないのですか?」
「女性だけで相談をしたくて」
「部屋を閉め切って?」
「そうですねぇ。ドアを開けていると丸聞こえなので」
おぱんつの話なものですから。
「しかし、また何かあったら」
「お知らせする魔道具を持っていこうかと」
「リア様、私はそんなに信用できない人間ですか?」
わたしは立ち止まった。
彼の言ったことがショックで悲しくなってきたからだ。
信用できる人ランキングを作ったら、彼が一位になる。むしろ彼を信用しないで、他の誰を信じるのかとすら思う。
「わたしがアレンさんを信用しないなんて、絶対に有り得ないことです」
「ではなぜですか? なぜ私を排除するのですか? 一度問題を起こした者がいる場所なのですよ?」
「それは、あの……」
うう、どうしましょう。
わたしは単にプライバシーが欲しいだけだ。
内容を話さずに理解してもらうには一体どうしたら良いのだろう。感情の部分だけを素直に話してみるとか??
「その、ただ恥ずかしいだけ、というか」
「恥ずかしい?」
顔を覗き込まれ、先日の壁ドン事件を思い出したら、ぶわーっと上半身が沸騰してしまった。
「そ、そういう内容の話だと思って頂ければ」
アレンさんにおぱんつの話なんてできないですっ(泣)
ぷすぷすと頭から湯気を出しながら、わたし達は再び歩き始めた。幸い彼の優しい苦言はそこで止まった。
ところが、会議室の前に恐怖の大魔王がいた。
仁王立ちしたヴィルさんである。
ラスボスだ。
おっきい……。
普段から大きいけれども、今日は肉食の恐竜に見える。
心が折れて泣きそうになった。
このダンジョン(※ただの廊下です)は、彼を倒さないと目的地に辿り着けないのだ。
くそう、負けるものか。
わたしは白ステテコから王国を救う勇者リアだ。武器も防具もないけれど、いかなる敵にも戦わずしては屈しないっ。
「リア、どういうことなのかな。説明してくれないか」
ヴィルさんは「おいで」と言わんばかりに両腕を広げて言った。
直感的に「罠だ」と分かった。わたしの心に警戒ランプが点灯する。
ところが……
てててっと走り、パフッと彼の胸に収まってしまった。
嗚呼、習慣は恐ろしい。
勇者リアはパブロフの犬だった。
「……ハアアッ! しまったぁぁ!」
後ろで、ブフッ!と、アレンさんが吹き出して笑っている声が聞こえた。
「たまに凄く面白くなってしまうリアも最高に可愛い」と、ヴィルさんが肩を震わせながら言った。
めっちゃ笑われている。
無理もないけど。
慌てて離れようとしたものの時すでに遅し。ガッチリとホールドされて動けなくなっていた。
最も警戒していた大魔王との超接近戦だ。
「リア、どうして密室会議なんて危ないことをする?」
わたしを抱く腕にぎゅうっと力が入った。
「女性だけで話したいこともあります」
「教えてくれるまで離さないと言ったら?」
「そんなことをしても答えません」
言い負かされないよう、お腹に力を入れて足を踏ん張った。
おぱんつだけは絶対に譲れない。絶対に。
「女性だけでは危険だ」
「相手は六十歳を過ぎたデザイナーです。皆さんがよく使う言葉で言うなら『非戦闘員』ですよ?」
「しかし……」
「仮に何かあっても、四人で取り押さえられます。念のためお二人にお知らせする魔道具も持っていきます」
「それは分かった。では、質問を変える。なぜ俺に秘密を作る?」
「い、言えないことくらいあります。それに、すべてをお話ししなくてはならない間柄ではありません」
この時点で婚約者がいたなら、詳しく話していたかも知れない。初夜が絡む以上、二人の問題という気もする。
「前に問題を起こした人物なのだろう?」
「調査はして頂きました。問題がないことを確認済みです。周りの同意も得て会うことにしています」
「リア、分かってくれ。心配なのだ」
「わたしばかりに理解を求めないでください。この国は相手が心配していれば何でも喋るのですか? ヴィルさんにも個人的な秘密くらいありますよね?」
「リア! どうしてそんな分からないことを言う」
「分かっていないのはヴィルさんですっ。わたしには秘密を持つ自由もないのですか? わたしは囚人ではありませんっ」
はぁ、はぁ、はぁ……。
しんどいです。
こういう言い合いは、大の苦手です。
でも、今日のリア様は大健闘。
も、もう、このままお休みしたいです。
己の許容量はとうに超えている。
頑張り過ぎて、色んなところがぷるぷる震えていた。
「団長、もうそのくらいで。それ以上はリア様が窒息します」
アレンさんが間に入って止めてくれた。
ヴィルさんが「ダメかぁ」と肩を落としている。
「リア様、深呼吸をしてください。また無理をして」
「ご、ごめんなさ……」
「ゆっくり深呼吸しましょう」
彼はふらつくわたしを支えながら、いつもより長めのヨシヨシをしてくれた。
そして、落ち着いた頃を見計らって、素早く通報用魔道具の動作確認をした。
「受信機は私が持っています。おかしいと思ったら早めに知らせてください」
「はい」
「これを押した後は、侍女を盾にして身を守ってください」
「え?」
「あなたがしなくても侍女が自発的に盾になります。くれぐれも彼女たちを守ろうとしないように」
「でも……」
「お願いです。これだけは言うとおりにして下さい」
「は、はい。わかりました」
マダムと再会するにあたり、また衝立の後ろに隠れるのかは、侍女の間でも意見が割れていた。
しかし、また一人でヤキモキするのは寂しいので、衝立は置かずに「遅れて部屋に入る」という流れにした。
先に侍女だけで対応し、様子がおかしければそのままお帰り頂く。問題がなければ、途中でわたしが入っていくという作戦だ。
マダムが会議室に入って約十五分が経過していた。侍女からのNGは出ていない。
「約束の時間です。ヴィルさん、行かせてください。どうかお願いします」
「いつか話してくれるのか?」
「もちろんです。いずれすべてご説明します」
「……分かった」
ヴィルさんは「ここで待っている」と言って、わたしのおでこにキスをした。
「行ってまいります」
二人に頭を下げてから会議室に入った。
アレンさんが何か思い詰めたような顔をしていて心が痛んだ。
しずしずと会議室へ向かっていた。
すぐ隣を歩くアレンさんから、とても優しい口調で苦言がビュンビュンと飛んでくる。
出会った当初、彼のエスコートは遠慮がちに指先を持つスタイルだった。それがお披露目会を境に腕を組んで歩くスタイルに変わった。
距離が近くて話がしやすいし歩きやすい。しかし、叱られているときには少々近すぎるのが難点だ。
最初からこうなることは分かっていた。
だから執事長に協力してもらい、マダムと会うことはギリギリまで彼らに伏せてあった。
当日、突然予定を知らされたアレンさんは、会議室が男子禁制と聞かされて二重にショックを受けていた。
「また問題が起きるのでは?」
「ちょっと相談したいことがあって」
おぱんつのことを、少々。
「なぜ護衛を同席させないのですか?」
「女性だけで相談をしたくて」
「部屋を閉め切って?」
「そうですねぇ。ドアを開けていると丸聞こえなので」
おぱんつの話なものですから。
「しかし、また何かあったら」
「お知らせする魔道具を持っていこうかと」
「リア様、私はそんなに信用できない人間ですか?」
わたしは立ち止まった。
彼の言ったことがショックで悲しくなってきたからだ。
信用できる人ランキングを作ったら、彼が一位になる。むしろ彼を信用しないで、他の誰を信じるのかとすら思う。
「わたしがアレンさんを信用しないなんて、絶対に有り得ないことです」
「ではなぜですか? なぜ私を排除するのですか? 一度問題を起こした者がいる場所なのですよ?」
「それは、あの……」
うう、どうしましょう。
わたしは単にプライバシーが欲しいだけだ。
内容を話さずに理解してもらうには一体どうしたら良いのだろう。感情の部分だけを素直に話してみるとか??
「その、ただ恥ずかしいだけ、というか」
「恥ずかしい?」
顔を覗き込まれ、先日の壁ドン事件を思い出したら、ぶわーっと上半身が沸騰してしまった。
「そ、そういう内容の話だと思って頂ければ」
アレンさんにおぱんつの話なんてできないですっ(泣)
ぷすぷすと頭から湯気を出しながら、わたし達は再び歩き始めた。幸い彼の優しい苦言はそこで止まった。
ところが、会議室の前に恐怖の大魔王がいた。
仁王立ちしたヴィルさんである。
ラスボスだ。
おっきい……。
普段から大きいけれども、今日は肉食の恐竜に見える。
心が折れて泣きそうになった。
このダンジョン(※ただの廊下です)は、彼を倒さないと目的地に辿り着けないのだ。
くそう、負けるものか。
わたしは白ステテコから王国を救う勇者リアだ。武器も防具もないけれど、いかなる敵にも戦わずしては屈しないっ。
「リア、どういうことなのかな。説明してくれないか」
ヴィルさんは「おいで」と言わんばかりに両腕を広げて言った。
直感的に「罠だ」と分かった。わたしの心に警戒ランプが点灯する。
ところが……
てててっと走り、パフッと彼の胸に収まってしまった。
嗚呼、習慣は恐ろしい。
勇者リアはパブロフの犬だった。
「……ハアアッ! しまったぁぁ!」
後ろで、ブフッ!と、アレンさんが吹き出して笑っている声が聞こえた。
「たまに凄く面白くなってしまうリアも最高に可愛い」と、ヴィルさんが肩を震わせながら言った。
めっちゃ笑われている。
無理もないけど。
慌てて離れようとしたものの時すでに遅し。ガッチリとホールドされて動けなくなっていた。
最も警戒していた大魔王との超接近戦だ。
「リア、どうして密室会議なんて危ないことをする?」
わたしを抱く腕にぎゅうっと力が入った。
「女性だけで話したいこともあります」
「教えてくれるまで離さないと言ったら?」
「そんなことをしても答えません」
言い負かされないよう、お腹に力を入れて足を踏ん張った。
おぱんつだけは絶対に譲れない。絶対に。
「女性だけでは危険だ」
「相手は六十歳を過ぎたデザイナーです。皆さんがよく使う言葉で言うなら『非戦闘員』ですよ?」
「しかし……」
「仮に何かあっても、四人で取り押さえられます。念のためお二人にお知らせする魔道具も持っていきます」
「それは分かった。では、質問を変える。なぜ俺に秘密を作る?」
「い、言えないことくらいあります。それに、すべてをお話ししなくてはならない間柄ではありません」
この時点で婚約者がいたなら、詳しく話していたかも知れない。初夜が絡む以上、二人の問題という気もする。
「前に問題を起こした人物なのだろう?」
「調査はして頂きました。問題がないことを確認済みです。周りの同意も得て会うことにしています」
「リア、分かってくれ。心配なのだ」
「わたしばかりに理解を求めないでください。この国は相手が心配していれば何でも喋るのですか? ヴィルさんにも個人的な秘密くらいありますよね?」
「リア! どうしてそんな分からないことを言う」
「分かっていないのはヴィルさんですっ。わたしには秘密を持つ自由もないのですか? わたしは囚人ではありませんっ」
はぁ、はぁ、はぁ……。
しんどいです。
こういう言い合いは、大の苦手です。
でも、今日のリア様は大健闘。
も、もう、このままお休みしたいです。
己の許容量はとうに超えている。
頑張り過ぎて、色んなところがぷるぷる震えていた。
「団長、もうそのくらいで。それ以上はリア様が窒息します」
アレンさんが間に入って止めてくれた。
ヴィルさんが「ダメかぁ」と肩を落としている。
「リア様、深呼吸をしてください。また無理をして」
「ご、ごめんなさ……」
「ゆっくり深呼吸しましょう」
彼はふらつくわたしを支えながら、いつもより長めのヨシヨシをしてくれた。
そして、落ち着いた頃を見計らって、素早く通報用魔道具の動作確認をした。
「受信機は私が持っています。おかしいと思ったら早めに知らせてください」
「はい」
「これを押した後は、侍女を盾にして身を守ってください」
「え?」
「あなたがしなくても侍女が自発的に盾になります。くれぐれも彼女たちを守ろうとしないように」
「でも……」
「お願いです。これだけは言うとおりにして下さい」
「は、はい。わかりました」
マダムと再会するにあたり、また衝立の後ろに隠れるのかは、侍女の間でも意見が割れていた。
しかし、また一人でヤキモキするのは寂しいので、衝立は置かずに「遅れて部屋に入る」という流れにした。
先に侍女だけで対応し、様子がおかしければそのままお帰り頂く。問題がなければ、途中でわたしが入っていくという作戦だ。
マダムが会議室に入って約十五分が経過していた。侍女からのNGは出ていない。
「約束の時間です。ヴィルさん、行かせてください。どうかお願いします」
「いつか話してくれるのか?」
「もちろんです。いずれすべてご説明します」
「……分かった」
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