昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

文字の大きさ
188 / 392
4[リア]

ご褒美

しおりを挟む
 アレンさんの闘病中、団長とアレンさんが抜けた穴を埋めることで大忙しだったフィデルさんとマークさんには、陛下からご褒美が出た。金一封と特別休暇だそうだ。
 脳内常夏男のフィデルさんは、暖かい南の島へマリンスポーツに。寡黙で硬派なマークさんは、会話が一切必要ないソロキャンプに行く予定を立てている。
 ヴィルさんは「また頭にヤシの木が増える」とか「どんだけ話したくないんだよ」などと言って呆れていたけれど、なんとも二人らしい行き先だった。

 わたしへのご褒美もある。
 まず、ヴィルさんのはからいで、ユミール先生の魔法講座を引き続き受けられることになった。
 わたしは魔法を教わりたいし、先生は神薙の能力の研究をしたい。魔法を教えるついでにさまざまなデータを取ることができるらしいので、お互いの利害関係はバッチリ。定期的なお茶会で雑談をするだけよりも、有意義な時間になること間違いなしだろう。

 陛下はわたしに褒賞を出そうとして「何が欲しい?」と聞いてきた。もう神薙予算として十分すぎるほど頂戴している(というか、余っている)ので、ご褒美は固辞した。
 ところが後日、王宮から荷馬車が何台もやって来て、図書室奥の部屋に大量の本が運び込まれた。
 目をぱちくりさせていると、ヴィルさんは「街の書店では売っていない本だよ」と言った。
 その部屋の管理責任者は司書さんではなく、第一騎士団長になっていた。入り口には常時警備の騎士が立つと言うから、まるで宝物庫のようだ。

「そんなに貴重な本なのですか?」と尋ねた。
「実は俺も初めて見る」と、彼は言う。
 分厚い扉は、開けたらすぐに閉めたほうがよいとのこと。
「繊細と言えば聞こえはいいが、かなり古い本だ。劣化を防ぐために温度と湿度を管理している。もともとこの部屋はそういう書物を置くために使われていたらしく、設備が整っている。光の量も控えめだろう?」
「本を読むには少し暗いですね」
「手元用の照明がある所が何か所かある。そこで読むといい」

「どうだ?」と彼が言った。
 本棚にびっしりと詰まった本は、確かにどれも年代物だ。ものすごく古くて、古本屋さんの一番奥の棚に埋もれているお宝本のような雰囲気を醸し出している。
「魔法とか魔力とかに関する本なのですね?」
「そうか?」
「あ、違いました。分類がされていないだけですね。いろんな本がごちゃまぜです。ほら、園芸の本の隣に氷魔法の入門書がありますよ」
「ふむ。……やはり、リアはこれが読めるのだな」
 彼は本棚から一冊引き抜いて開くと、赤茶けた紙をそっとめくった。
「俺にはまるで意味がわからない。お手上げだ」と肩をすくめている。
 まじまじ本を見てみると、文字がオルランディア語とは違っていた。

「これ、何語なのですか?」
「わからない。誰一人として知らない言葉だ」
「それをわたしの家に持ってきてしまったのですか?」
「リアなら読めるのではないか、という話になってね」
「な、なんてテキトーな……」
 北東にある亡国パトラの王宮だった場所で、図書室ごと出土した本らしい。
 てっきり亡国の本なのかと思いきや、それらはパトラ語でもなく、魔術語の基礎になった古代語とも違うそうだ。解読しようにも取っ掛かりになる情報がなく、すべてが謎のままだったと言う。

「この本がリアへのご褒美らしい。何か国に役立ちそうな情報があったら共有してほしい、とのことだ」
「ふふ、ありがとうございます。いろんな種類の本があるみたいなので、楽しみです」

「リアが旧パトラと関係があるのではないか、というのは我々の勝手な憶測だ。なまりがパトラの王族と同じだからね」
 ヴィルさんは何気なく聞き捨てならないことを言った。
「ちょ、ちょっと待ってください。わたし、訛っているのですか? それでヴィルさんに恥ずかしい思いをさせていませんか?」
「いやいや、変な訛りではないよ」
「でも、皆さんと同じ発音でお話ができるよう直さないと」
「無理をする必要はないぞ」
「身分がバレてはいけない場面もありますし」

 王都で暮らす公爵夫人が「平民の格好で街をふらふらしていて、訛っていて、行儀も悪い」などと言われたらよろしくない。
 オルランディア語には巻き舌が多いので、それが続いたときの巻きが甘いとか、そういう類の訛りだろうか。
「こ、こうしてはいられません。訛りの矯正と、言葉遣いも本腰を入れて直さないと……!」
「待て待て待て! ずっと大変だったのだから、しばらくはゆっくりしてくれ。アレンがいない間に何かあると、俺が彼に怒られるのだぞ?」
「そ、そうでした。アレンさんが戻るまではおとなしく……」

 訛りの矯正や、貴族として適切な言葉遣いと振る舞いは、専門の方からみっちりと教えていただくことになった。わたしもまだまだ進化しなければならない。

 王宮もそれなりに進化をするようだ。ヘルグリン病は「治る病気」として、国を挙げて対策していくことが決まった。まずは治癒師の能力詐称や、根拠のない理由で治療を拒否することを禁じる医事法を整えるようだ。

 アレンさんは無事に帰ってきた。
 彼も「以前より進化しました」と言っている。またさらに強くなったのかと思いきや、わたしを甘やかす機能が格段に上がったのだそうだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

処理中です...