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[リア]
相談事 §1
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ヴィルさんはポルト・デリングで別行動をしている間に複数の呪符を見つけていた。それは護符に見せかけた悪質なものだったという。
わたしたちが訪れる前日まで海が荒れていたり、医療崩壊気味だったりしたのは、それらのせいだと言われていた。彼は郵便を追跡するなど調査を続けていたものの、依然として犯人はわからないままだ。
「新しい呪符が届いたとしても、もうポルト・デリングは神薙の加護で守られている」
彼はゆったりとした口調で言った。
お義父様の護符を作り終えた後、ポルト・デリング用の護符も作った。
市内全域に防呪結界を張ることは不可能なので、晴天祈願と健康祈願、それから航海安全の護符を用意した。言ってみれば「てるてる坊主作戦」だ。
護符は地元の有力天人族の見守る中で市長さんが発動させ、そのまま市長室の金庫に保管されている。
対症療法的ではあるけれども、犯人が捕まるまでの間はこのやり方で対処するしかない。
急に頼まれるかも知れないので、同じ護符を何枚か予備として書いておいた。
「ところでリア様、何か……雑用など、人手が欲しい作業はありませんか?」
くまんつ様が唐突に聞いてきた。
わたしが戸惑っていると、代わりにヴィルさんが「どうした?」と聞いてくれた。
「いや、実はな……」
「なんだよ? 深刻な話か?」
「最近、部下からの突き上げが強くなって幹部連中が参っている」
「第三騎士団で? 珍しいな。何を突き上げられている?」
「……神薙様に関わる仕事はないのかと騒いでいるらしい」
「は? そもそも神薙の仕事は第一騎士団にしかないはずだが?」
「仰るとおり。あいつらの言っていることがおかしい」
「団長だけ会っていてズルイとか、そういうやつか? この間、にっこりゴリラもブツブツ言っていたが」
「それに近いことは思っているだろうな」
――にっこりゴリラ?
前にお会いした筋肉バッキバキの副団長さんかしら?
一瞬、頭が混乱したけれども、話の腰を折らないようスルーした。
「俺も合同訓練の時、宿舎にリアを運んでいてヤバいとは思った。あの群がり方がさ……」
ヴィルさんは口をへの字に曲げた。
「騒ぎが大きくなってきて、さすがに何かしないとまずい」
「除名したら?」
「騒いでいる奴の人数が多すぎて除名では対処ができない」
「それなら、何かやらせるのが一番早いか」
「なんでもいい。どんなにくだらないことでもいい」
ヴィルさんは腕組みをして唸った。
「当初、外の警備を第三に任せる案もあったけどなぁ……」
「物理的な襲撃なら守れるが、いかんせんウチは魔力が足りない」
「そこなんだよなぁ」
「中に第一騎士団がいるとわかっていて肉弾戦を仕掛ける物好きはいない。外の警備も魔法の撃ち合いで制圧できることが大前提だ。団長の俺が言うのも情けない話だが、今の第三騎士団に神薙の周辺警備は無理だ」
「部下にもクリスと同じくらい知恵があると良いのだがな」
「俺の教育が足りなかったのだと思う」
「そうかな?」
「団員を筋肉バカにしないよう気をつけていたつもりだったが……」
くまんつ様はため息をついて肩を落とした。
「クリスは最善を尽くしている。こちらが入団選考の方法を変えたせいで起きている問題だろう?」
ヴィルさんがこちらを見て「まだリアには話していなかった」と言うので、わたしは首をかしげた。
「前に、ソレント子爵令嬢の兄の国葬に出ただろう?」
「マリンの? ええ、出ました」
「あれ以来、第一騎士団への転属希望者と入団希望者が激増して、諸々規則を変更した」
いまいち要領を得なくて「はあ……」と中途半端な返事をすると、わたしの髪を触っていたアレンさんが口を開いた。
「第一騎士団の狭き門がさらに狭くなり、入団しにくくなったのですよ」
「まあ……そうなのですねぇ」
アレンさんは相変わらず密着してわたしの髪を触っている。まるで毛糸玉で遊ぶ猫のように、彼の指先が髪の間を縫うようじゃれついていた。
「それで? わたしが国葬に参列したことと、入団希望者が増えたことに、どう関係があるのですか?」
素朴な質問に答えてくれたのはくまんつ様だった。
「回りくどくなってしまいますが、初めから話すと、こういうことです。まず、騎士というのは、戦死者の葬儀に出ると『この棺の中は自分だったかも知れない』と考える傾向が強い……」
「ほむ?」
国葬の参列者たちは、遺族や婚約者だったご令嬢の心痛を目の当たりにして心を痛めた。騎士でなくとも考えさせられたと思う。
なぜ戦があるのか、なぜ犠牲になったのが彼らだったのか、なぜ防衛のみで反撃をしないのか……そこにいた人の数だけ「なぜ」があったはず。
「葬儀に神薙が現れ、涙を流して雨が降った。虹も出ました」
「そう、でしたね。あの時は我慢ができなくて」
「実は、その様子が『聖女』にまつわる伝承、お伽話と同じなのです」
――はい?
わたしの口角が再びヒクついた。
「聖女が涙を流した後に虹が出る。死者がその虹を渡って新しい世界へ旅立つという伝承があり、そういった場面を含む絵本や小説などが多くあります」
「そ、そうなのですか」
「ご存知のとおり、ここは聖女のいない大陸です。そこにいたのが神薙だったとはいえ、現実に目の前でそれが起きました」
「いや、それはですね……」
「あれ以来、貴女に心酔して救いを求めている騎士がうじゃうじゃいます」
「救いッ!?」
「大変申し訳ないことに、それよりも前から第三騎士団には神薙を尊崇している者が多く、火に油を注ぐような形になりました」
なはぁッ……ッ?! な、なんてリアクションに困る話だろう。
神薙は聖女の廉価版みたいなものだ。泣いたら雨が降るのは聖女様も同じなのだろう。
でも、あの状況で泣くなというほうが無理だし、泣いたら雨が降ってしまうのは仕方のないことだった。
「騎士は名誉にのみ価値を見い出す職業。そのせいか、信心深い者が多いのです」
くまんつ様は頭を抱えている。本当に困っているのだろう。
ど……どうしましょう。なんてお返事をするべき? できることがあるなら、お助けしたいけれど……というか「救い」って何?
わたしたちが訪れる前日まで海が荒れていたり、医療崩壊気味だったりしたのは、それらのせいだと言われていた。彼は郵便を追跡するなど調査を続けていたものの、依然として犯人はわからないままだ。
「新しい呪符が届いたとしても、もうポルト・デリングは神薙の加護で守られている」
彼はゆったりとした口調で言った。
お義父様の護符を作り終えた後、ポルト・デリング用の護符も作った。
市内全域に防呪結界を張ることは不可能なので、晴天祈願と健康祈願、それから航海安全の護符を用意した。言ってみれば「てるてる坊主作戦」だ。
護符は地元の有力天人族の見守る中で市長さんが発動させ、そのまま市長室の金庫に保管されている。
対症療法的ではあるけれども、犯人が捕まるまでの間はこのやり方で対処するしかない。
急に頼まれるかも知れないので、同じ護符を何枚か予備として書いておいた。
「ところでリア様、何か……雑用など、人手が欲しい作業はありませんか?」
くまんつ様が唐突に聞いてきた。
わたしが戸惑っていると、代わりにヴィルさんが「どうした?」と聞いてくれた。
「いや、実はな……」
「なんだよ? 深刻な話か?」
「最近、部下からの突き上げが強くなって幹部連中が参っている」
「第三騎士団で? 珍しいな。何を突き上げられている?」
「……神薙様に関わる仕事はないのかと騒いでいるらしい」
「は? そもそも神薙の仕事は第一騎士団にしかないはずだが?」
「仰るとおり。あいつらの言っていることがおかしい」
「団長だけ会っていてズルイとか、そういうやつか? この間、にっこりゴリラもブツブツ言っていたが」
「それに近いことは思っているだろうな」
――にっこりゴリラ?
前にお会いした筋肉バッキバキの副団長さんかしら?
一瞬、頭が混乱したけれども、話の腰を折らないようスルーした。
「俺も合同訓練の時、宿舎にリアを運んでいてヤバいとは思った。あの群がり方がさ……」
ヴィルさんは口をへの字に曲げた。
「騒ぎが大きくなってきて、さすがに何かしないとまずい」
「除名したら?」
「騒いでいる奴の人数が多すぎて除名では対処ができない」
「それなら、何かやらせるのが一番早いか」
「なんでもいい。どんなにくだらないことでもいい」
ヴィルさんは腕組みをして唸った。
「当初、外の警備を第三に任せる案もあったけどなぁ……」
「物理的な襲撃なら守れるが、いかんせんウチは魔力が足りない」
「そこなんだよなぁ」
「中に第一騎士団がいるとわかっていて肉弾戦を仕掛ける物好きはいない。外の警備も魔法の撃ち合いで制圧できることが大前提だ。団長の俺が言うのも情けない話だが、今の第三騎士団に神薙の周辺警備は無理だ」
「部下にもクリスと同じくらい知恵があると良いのだがな」
「俺の教育が足りなかったのだと思う」
「そうかな?」
「団員を筋肉バカにしないよう気をつけていたつもりだったが……」
くまんつ様はため息をついて肩を落とした。
「クリスは最善を尽くしている。こちらが入団選考の方法を変えたせいで起きている問題だろう?」
ヴィルさんがこちらを見て「まだリアには話していなかった」と言うので、わたしは首をかしげた。
「前に、ソレント子爵令嬢の兄の国葬に出ただろう?」
「マリンの? ええ、出ました」
「あれ以来、第一騎士団への転属希望者と入団希望者が激増して、諸々規則を変更した」
いまいち要領を得なくて「はあ……」と中途半端な返事をすると、わたしの髪を触っていたアレンさんが口を開いた。
「第一騎士団の狭き門がさらに狭くなり、入団しにくくなったのですよ」
「まあ……そうなのですねぇ」
アレンさんは相変わらず密着してわたしの髪を触っている。まるで毛糸玉で遊ぶ猫のように、彼の指先が髪の間を縫うようじゃれついていた。
「それで? わたしが国葬に参列したことと、入団希望者が増えたことに、どう関係があるのですか?」
素朴な質問に答えてくれたのはくまんつ様だった。
「回りくどくなってしまいますが、初めから話すと、こういうことです。まず、騎士というのは、戦死者の葬儀に出ると『この棺の中は自分だったかも知れない』と考える傾向が強い……」
「ほむ?」
国葬の参列者たちは、遺族や婚約者だったご令嬢の心痛を目の当たりにして心を痛めた。騎士でなくとも考えさせられたと思う。
なぜ戦があるのか、なぜ犠牲になったのが彼らだったのか、なぜ防衛のみで反撃をしないのか……そこにいた人の数だけ「なぜ」があったはず。
「葬儀に神薙が現れ、涙を流して雨が降った。虹も出ました」
「そう、でしたね。あの時は我慢ができなくて」
「実は、その様子が『聖女』にまつわる伝承、お伽話と同じなのです」
――はい?
わたしの口角が再びヒクついた。
「聖女が涙を流した後に虹が出る。死者がその虹を渡って新しい世界へ旅立つという伝承があり、そういった場面を含む絵本や小説などが多くあります」
「そ、そうなのですか」
「ご存知のとおり、ここは聖女のいない大陸です。そこにいたのが神薙だったとはいえ、現実に目の前でそれが起きました」
「いや、それはですね……」
「あれ以来、貴女に心酔して救いを求めている騎士がうじゃうじゃいます」
「救いッ!?」
「大変申し訳ないことに、それよりも前から第三騎士団には神薙を尊崇している者が多く、火に油を注ぐような形になりました」
なはぁッ……ッ?! な、なんてリアクションに困る話だろう。
神薙は聖女の廉価版みたいなものだ。泣いたら雨が降るのは聖女様も同じなのだろう。
でも、あの状況で泣くなというほうが無理だし、泣いたら雨が降ってしまうのは仕方のないことだった。
「騎士は名誉にのみ価値を見い出す職業。そのせいか、信心深い者が多いのです」
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