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[リア]
うっすら
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わたしの残念な脳みそには、エルデン伯の手下である三人組の名前がまるで記憶されない。
致し方なく特徴で覚えて呼ぶことにした。本人の前では言えない失礼な呼び方になるのだけれども、周りの皆も半ばあきらめているというか、一応許してくれている。
『うっすら』『しちさん』『つるぴか』のトリオである。
「何が?」とか「どこが?」とかは聞かないで頂きたい。わたしだって、こんなことを言わずに済めば苦労しないのだ(泣)
『うっすらトリオ』は行く先々について来た。
やましいことや、見られたくないものがたくさんあるのだろう。いちいちヴィルさんの行動を制限しようとチョロチョロする。特に目立つのはリーダー格の『うっすら』さんだった。
彼らはヴィルさんから「邪魔だ。どけ!」と叱られてばかり。
わたしにもみ手をしながらヘラヘラと近づいてきたり、しおれかけた花を渡してきたり、ヴィルさんを意識してすり寄ってきているのが丸わかりだった。
何事も薄味を好むタイプのわたしには、しつこさ・えげつなさを極めた彼らの行動は胃もたれ必至。もう頭がどうにかなってしまいそう。最初は上っ面だけでもがんばろうと思ったものの、やはり交流するのは無理だと周りに伝えた。あまり我慢をしすぎると、わたしまで『うっすらアレルギー』で蕁麻疹が出そうだ。
以来、うっすらトリオが現れると、わたしの前に騎士団員の壁ができる。毎日、アレンさんの背中に隠れてプルプル震えながら、どうにか彼らをやり過ごしていた。
「領主様、領主様ぁ!」
先ほどからドアをドンドン叩いて大声を出しているのは、リーダーの『うっすら』さんだ。
「なぜこのような狭い場所で会議をなさるのですか? 領地管理に関わることでしたら私も入れて頂きたいのですが!」
裏声のような『うっすらヴォイス』に、背すじがゾクリとする。この声で何度も媚びを売られ、妙に赤味がかった厚い唇から「うふふふふ」と裏声で笑いかけられたせいで、すっかり恐怖になってしまった。申し訳ないと思いつつも、反射的に震えてしまうのだ。
「大丈夫ですか?」と、アレンさんが背中をさすってくれた。
「す、すみません」
「あの声に怯えるのがクセになってしまいましたね。私もあれは好きではありませんが」
「うううぅ……」
ヴィルさんは小さくため息をつくと、申し訳なさそうに「ごめんな」と言った。
「もう少しだけ我慢できるか? 奴らを中に入れて、ここで決着をつけてしまおうと思うのだが」
「だ、大丈夫ですわっ」
コクコクとうなずいた。
だって、彼らの悪事を暴くために帳簿をチェックしたのだもの。
経理の人達にお休みを取ってもらったのも、ベッカー様が副団長に変装しているのも、すべてはうっすらトリオが川の向こうへ逃げないようにするため。ここで捕らえておくべきだ。
皆で各々見つけた証拠を持ち、出入り口付近へと移動した。
わたしはアレンさんの背中に半分だけ隠れた。
ヴィルさんが団員にドアを開けさせ、三人を入れる。団員は素早く彼らの後ろに回り込み、部屋から逃げ出せないようにした。
「ここに悪事の証拠がある」
ヴィルさんは少し投げやりな口調で言った。
「普通、悪事を暴くときに突きつける証拠というものは、苦労して苦労して苦労して、ようやく見つけ出した『一つ』であることが世の常だ」
皆が「うんうん」とうなずいた。うっすらトリオはキョトンとしている。
「しかし、見ろ! この馬鹿げた数を!」
わたしたちは各々見つけた不正の証拠を開いてババーンと見せつける。
ベッカー様は例のブツをつかみ、彼らに向かって突き出した。
「覚えがないとは言わせん!」
「はああぁぁッ! そ、それはぁぁっ!!」
狼狽えたうっすらトリオは、ズザアッと後ずさりをした。しかし、後ろには屈強な騎士団員が並び、彼らをにらみつけている。
「ひいぃっ! い、いつの間にっ!」
絵に描いたように怯えるわかりやすい悪役うっすらトリオ。
『うっすら』は口をパクパク。『しちさん』は足がガクガク。小太りな『つるぴか』はマナーモードで着信したスマホのように小刻みにブルブル震えている。
「こんなものを集めることを、貴様らは領地管理と呼んでいるのか? 笑わせるな!」
ベッカー様は、さらにずずいと前に出た。
控えい、控えい。
この金塊が目に入らぬか。
こちらにおわすお方をどなたと心得る。
恐れ多くも国王陛下の甥ヴィルヘルム殿下にあらせられるぞ。
ええい、一同、頭が高いっ、ひかえおろぉー。
はっ……いけない。
ベッカー様が金塊を縦に持っておいでだったので、わたしったら、つい脊髄反射でアテレコをっ。
大勢で旅をして悪事を暴くわたしたち。まるで水戸の御一行様のようだった。
うっすらトリオはあっさり逮捕され『真実の宝珠』を用いた尋問で仲間の悪行をベラベラとしゃべ った。
すでにエルデン伯領へ逃げてしまったお仲間は、王宮を介して懸賞金付きの指名手配がかけられるようだ。
ヴィルさんは三人の資産を取り上げ、現金化できるものはすべて売り払う手続きを進めている。それを財源に領内の全世帯に還付金として配ることを発表した。
搾り取られた分すべてが戻るわけではないにせよ、かなりの金額が行き渡る見込みだ。
☟
ヴィルさんとナルヴィルの民は相性が良いと思う。
彼はナルヴィルでも「殿下と呼ばないでキャンペーン」をやっているので、広まってくれれば王都と同じように「ランドルフ様」「ヴィルヘルム様」と呼んでもらえるようになるはずだ。
ベッカー様は、市長とナルヴィル騎士団の団長を兼任することになっていた。
第一騎士団の隊長だったご嫡男は、王都騎士団を退団してナルヴィル騎士団の副団長に着任した。実質、彼が地元の騎士団を率いていくことになる。
避難訓練のときに悪役軍団側で迫真の演技をしていた面白い隊長さんだ。近くにいることが多かっただけにお別れは少し寂しい。でも、これで縁が切れるわけではないし、何よりも本人が希望していたので、わたしも応援することにした。
ベッカー様親子をはじめ、ランドルフ家配下の貴族が本物の領主補佐として領地管理をしてくれる。
あとをお任せし、わたしたちはナルヴィルを後にした。
隣接する領地にも足を延ばしていたせいか、家を出てから一か月近くが経っていた。
致し方なく特徴で覚えて呼ぶことにした。本人の前では言えない失礼な呼び方になるのだけれども、周りの皆も半ばあきらめているというか、一応許してくれている。
『うっすら』『しちさん』『つるぴか』のトリオである。
「何が?」とか「どこが?」とかは聞かないで頂きたい。わたしだって、こんなことを言わずに済めば苦労しないのだ(泣)
『うっすらトリオ』は行く先々について来た。
やましいことや、見られたくないものがたくさんあるのだろう。いちいちヴィルさんの行動を制限しようとチョロチョロする。特に目立つのはリーダー格の『うっすら』さんだった。
彼らはヴィルさんから「邪魔だ。どけ!」と叱られてばかり。
わたしにもみ手をしながらヘラヘラと近づいてきたり、しおれかけた花を渡してきたり、ヴィルさんを意識してすり寄ってきているのが丸わかりだった。
何事も薄味を好むタイプのわたしには、しつこさ・えげつなさを極めた彼らの行動は胃もたれ必至。もう頭がどうにかなってしまいそう。最初は上っ面だけでもがんばろうと思ったものの、やはり交流するのは無理だと周りに伝えた。あまり我慢をしすぎると、わたしまで『うっすらアレルギー』で蕁麻疹が出そうだ。
以来、うっすらトリオが現れると、わたしの前に騎士団員の壁ができる。毎日、アレンさんの背中に隠れてプルプル震えながら、どうにか彼らをやり過ごしていた。
「領主様、領主様ぁ!」
先ほどからドアをドンドン叩いて大声を出しているのは、リーダーの『うっすら』さんだ。
「なぜこのような狭い場所で会議をなさるのですか? 領地管理に関わることでしたら私も入れて頂きたいのですが!」
裏声のような『うっすらヴォイス』に、背すじがゾクリとする。この声で何度も媚びを売られ、妙に赤味がかった厚い唇から「うふふふふ」と裏声で笑いかけられたせいで、すっかり恐怖になってしまった。申し訳ないと思いつつも、反射的に震えてしまうのだ。
「大丈夫ですか?」と、アレンさんが背中をさすってくれた。
「す、すみません」
「あの声に怯えるのがクセになってしまいましたね。私もあれは好きではありませんが」
「うううぅ……」
ヴィルさんは小さくため息をつくと、申し訳なさそうに「ごめんな」と言った。
「もう少しだけ我慢できるか? 奴らを中に入れて、ここで決着をつけてしまおうと思うのだが」
「だ、大丈夫ですわっ」
コクコクとうなずいた。
だって、彼らの悪事を暴くために帳簿をチェックしたのだもの。
経理の人達にお休みを取ってもらったのも、ベッカー様が副団長に変装しているのも、すべてはうっすらトリオが川の向こうへ逃げないようにするため。ここで捕らえておくべきだ。
皆で各々見つけた証拠を持ち、出入り口付近へと移動した。
わたしはアレンさんの背中に半分だけ隠れた。
ヴィルさんが団員にドアを開けさせ、三人を入れる。団員は素早く彼らの後ろに回り込み、部屋から逃げ出せないようにした。
「ここに悪事の証拠がある」
ヴィルさんは少し投げやりな口調で言った。
「普通、悪事を暴くときに突きつける証拠というものは、苦労して苦労して苦労して、ようやく見つけ出した『一つ』であることが世の常だ」
皆が「うんうん」とうなずいた。うっすらトリオはキョトンとしている。
「しかし、見ろ! この馬鹿げた数を!」
わたしたちは各々見つけた不正の証拠を開いてババーンと見せつける。
ベッカー様は例のブツをつかみ、彼らに向かって突き出した。
「覚えがないとは言わせん!」
「はああぁぁッ! そ、それはぁぁっ!!」
狼狽えたうっすらトリオは、ズザアッと後ずさりをした。しかし、後ろには屈強な騎士団員が並び、彼らをにらみつけている。
「ひいぃっ! い、いつの間にっ!」
絵に描いたように怯えるわかりやすい悪役うっすらトリオ。
『うっすら』は口をパクパク。『しちさん』は足がガクガク。小太りな『つるぴか』はマナーモードで着信したスマホのように小刻みにブルブル震えている。
「こんなものを集めることを、貴様らは領地管理と呼んでいるのか? 笑わせるな!」
ベッカー様は、さらにずずいと前に出た。
控えい、控えい。
この金塊が目に入らぬか。
こちらにおわすお方をどなたと心得る。
恐れ多くも国王陛下の甥ヴィルヘルム殿下にあらせられるぞ。
ええい、一同、頭が高いっ、ひかえおろぉー。
はっ……いけない。
ベッカー様が金塊を縦に持っておいでだったので、わたしったら、つい脊髄反射でアテレコをっ。
大勢で旅をして悪事を暴くわたしたち。まるで水戸の御一行様のようだった。
うっすらトリオはあっさり逮捕され『真実の宝珠』を用いた尋問で仲間の悪行をベラベラとしゃべ った。
すでにエルデン伯領へ逃げてしまったお仲間は、王宮を介して懸賞金付きの指名手配がかけられるようだ。
ヴィルさんは三人の資産を取り上げ、現金化できるものはすべて売り払う手続きを進めている。それを財源に領内の全世帯に還付金として配ることを発表した。
搾り取られた分すべてが戻るわけではないにせよ、かなりの金額が行き渡る見込みだ。
☟
ヴィルさんとナルヴィルの民は相性が良いと思う。
彼はナルヴィルでも「殿下と呼ばないでキャンペーン」をやっているので、広まってくれれば王都と同じように「ランドルフ様」「ヴィルヘルム様」と呼んでもらえるようになるはずだ。
ベッカー様は、市長とナルヴィル騎士団の団長を兼任することになっていた。
第一騎士団の隊長だったご嫡男は、王都騎士団を退団してナルヴィル騎士団の副団長に着任した。実質、彼が地元の騎士団を率いていくことになる。
避難訓練のときに悪役軍団側で迫真の演技をしていた面白い隊長さんだ。近くにいることが多かっただけにお別れは少し寂しい。でも、これで縁が切れるわけではないし、何よりも本人が希望していたので、わたしも応援することにした。
ベッカー様親子をはじめ、ランドルフ家配下の貴族が本物の領主補佐として領地管理をしてくれる。
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