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[リア]
気楽なお茶会 §3
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どうやらエルディルは、北海道っぽいのに北海道のようになっておらず、貧乏まっしぐらな領地らしい。
「領主のやる気がないせいで。エールは美味いのに、ろくな食べ物がない。もったいないよな」と、くまんつ様も嘆いている。
牛がたくさんいるのに、ソフトクリームがないのも残念だし、バターを捨てているのも悲しい。
北海道だって、大昔に何もないところを開拓して今があるのだ。魔法が使える人たちなのだから、がんばれば北海道になれるはず。
オリヴァーさんは固まっていた。
ちょっと話しすぎちゃったかなと反省しつつ、お店の人がいれてくれた新しいお茶の香りをスンスンと楽しんだ(いい香り♪)
「ヴィル、ちょっと聞いてもいいか?」 と、オリヴァーさんが言った。
「なんだ?」
「聖女様の国というのは、どこのことだ?」
「リアがこちらに来る前にいた世界だぞ」
「今の話は、そこで実際にやっていることか?」
「当たり前だろう」
「……ちょっと、この後の予定を変更してきてもいいか?」
オリヴァーさんが腰を浮かせた。
「いいよ」
「あっ」
また座った。
「なんだ?」
「部下を同席させてもいいか?」
「ヘンな奴でなければな」
「あのさ……」
「なんだよ?」
「うち、観光地化できると思う?」
ヴィルさんは「んはーーっ」と、長いため息をついた。
「だからリアとクリスを連れてきているのだろうが! 二番目の夫になるより価値のある知恵を持って帰れ! 何年かけてでも実現させろ。このオタンコナス!」
「すまん、すぐ戻る!」
少し離れた場所でオタンコナス……もといオリヴァーさんは次々と連絡係を走らせていた。
わたしはこの時点でようやく気がついた。
これは、参加者のアクが強くないというだけで、実はいつもと同じ『異世界のステキな実例を紹介する公務』だということに。
今さらだけど……本当にいまさらなのだけれども、わたし、ケーキを食べまくっている場合じゃなかったぁぁぁーー!
「あ、あのぅ、ヴィルさんっ?」
「うん? どうした?」
「もしかして、わたし、もっときちんとお話をしなくてはいけなかったのではありませんか? すごくすごーく適当かつ無責任に話してしまいましたっ」
「何の問題もないぞ?」
「でも、でも、ケーキばっかり食べていて」
「果物のタルトは嫌いか?」
「……ううん。大好きですわ」
「これ美味いよ。今、食べて感動した」
「あっ、ありがとうございます。レモンケーキもぜひ味わっていただきたいですわっ。アレンさんの一押しですの」
また新たなスウィーツを受け取ってしまった。反省しているようで食い気に負けているし、謝っているわりに、フルーツタルトをガン見してしまっている。
「もうエルディルが大金持ちになれるだけの案を出してくれたよ」と、ヴィルさんはタルトにフォークを入れた。しかし、彼は急に真顔になって「そういえば」と言った。
「以前、パイを王都で売ろうとすると貴族しか買えない値段になると言っていたよな?」
「あー、そうですねぇ」
「理由は?」
「納得のいく品質で作ろうと思うと、お高いバターをたくさん使うのですが」
「ほう?」
「王都のバターのお値段がちょっと意味不明というか……」
「なるほど。わかったぞ」と、彼はフォークを置いて腕を組んだ。
「入手経路とか時期とか、あと量によってお値段がめちゃくちゃで、仕入れの予測が立たないのです」
「やはりそれか」
王都周辺は小、中規模の牧場が点在していて、ミルクやクリーム系が豊富に出回っている。保存性の高いチーズは離れた領地からも入ってくるので、やはり流通量や価格に問題はない。
不安定なのはバターだけだ。
品質にこだわらなければ入手はできる。だから日常生活には支障がない。
我が家の料理人は、炒め物用、製菓用、パン用といった具合に、バターは用途別に使い分けている。
貴族街の高級ケーキの値段が安定しているところを見ると、そのくらいの規模までなら問題なく手に入るのだろう。しかし、聖女様ブランドで行列ができるくらい大量に売る前提だと予測が難しい。
王都郊外に牧場地帯を作る計画はあるらしいけれども、牛は年に一頭しか産まないので、そんなに急には増やせない生き物だ。
「相談なのだが、彼の領地でパイを売る店を出せないか?」
「パイの店、ですか?」
「エルディル領には良いバターが山ほどある。廃棄しているくらいだから、こちらでは考えられないくらい安価だ」
「それでしたらピッタリですねぇ。なんだったらミルフィーユとか、ポットパイとかミートパイなんかも美味しいですし、ペイストリーのお店が開けるかも」
ヴィルさんとくまんつ様が低い声で「ミートパイ……」と言った。
「この間、昼食の時間に我々の思考を止めたミートパイのことを言っているのか。あれをオリヴァーの領地にくれてやることになるとは……むぅぅん、しかし王都でバター問題が解決できない以上は致し方ない。くっそぉ、オリヴァーのくせに生意気な……」
どこかのガキ大将のようなことを言っている。
「あいつにはもったいないぞ」と、くまんつ様も悔しげだ。
「ミートパイなら、またうちで作りますから……」
「うむ、ぜひ頼む!」
「お店の件は、ベルソールさんと相談しておきますわ」
後から聞いた話によれば、隣国との戦が絶えないエルディルの経済は、国王からもらう褒賞・報償・報奨……と、少しずつ意味の違うホウショウ金が頼りらしい。
戦えば生きていけるという特殊な環境が、それ以外のことで領地を良くしようとする人を減少させてしまっているのだとか。
「武力に振りすぎて、平和になったら真っ先に潰れる領地」と、ヴィルさんは心配していた。
パイの店を出したくらいで急に町おこしができるとは思えないのだけれども、彼は現地の皆さまを刺激して、奮起するきっかけを与えて欲しいと思っているようだ。
くまんつ様からも「あいつを救ってやってほしい」と頭を下げられてしまったので、微力ながら協力することになった。
「領主のやる気がないせいで。エールは美味いのに、ろくな食べ物がない。もったいないよな」と、くまんつ様も嘆いている。
牛がたくさんいるのに、ソフトクリームがないのも残念だし、バターを捨てているのも悲しい。
北海道だって、大昔に何もないところを開拓して今があるのだ。魔法が使える人たちなのだから、がんばれば北海道になれるはず。
オリヴァーさんは固まっていた。
ちょっと話しすぎちゃったかなと反省しつつ、お店の人がいれてくれた新しいお茶の香りをスンスンと楽しんだ(いい香り♪)
「ヴィル、ちょっと聞いてもいいか?」 と、オリヴァーさんが言った。
「なんだ?」
「聖女様の国というのは、どこのことだ?」
「リアがこちらに来る前にいた世界だぞ」
「今の話は、そこで実際にやっていることか?」
「当たり前だろう」
「……ちょっと、この後の予定を変更してきてもいいか?」
オリヴァーさんが腰を浮かせた。
「いいよ」
「あっ」
また座った。
「なんだ?」
「部下を同席させてもいいか?」
「ヘンな奴でなければな」
「あのさ……」
「なんだよ?」
「うち、観光地化できると思う?」
ヴィルさんは「んはーーっ」と、長いため息をついた。
「だからリアとクリスを連れてきているのだろうが! 二番目の夫になるより価値のある知恵を持って帰れ! 何年かけてでも実現させろ。このオタンコナス!」
「すまん、すぐ戻る!」
少し離れた場所でオタンコナス……もといオリヴァーさんは次々と連絡係を走らせていた。
わたしはこの時点でようやく気がついた。
これは、参加者のアクが強くないというだけで、実はいつもと同じ『異世界のステキな実例を紹介する公務』だということに。
今さらだけど……本当にいまさらなのだけれども、わたし、ケーキを食べまくっている場合じゃなかったぁぁぁーー!
「あ、あのぅ、ヴィルさんっ?」
「うん? どうした?」
「もしかして、わたし、もっときちんとお話をしなくてはいけなかったのではありませんか? すごくすごーく適当かつ無責任に話してしまいましたっ」
「何の問題もないぞ?」
「でも、でも、ケーキばっかり食べていて」
「果物のタルトは嫌いか?」
「……ううん。大好きですわ」
「これ美味いよ。今、食べて感動した」
「あっ、ありがとうございます。レモンケーキもぜひ味わっていただきたいですわっ。アレンさんの一押しですの」
また新たなスウィーツを受け取ってしまった。反省しているようで食い気に負けているし、謝っているわりに、フルーツタルトをガン見してしまっている。
「もうエルディルが大金持ちになれるだけの案を出してくれたよ」と、ヴィルさんはタルトにフォークを入れた。しかし、彼は急に真顔になって「そういえば」と言った。
「以前、パイを王都で売ろうとすると貴族しか買えない値段になると言っていたよな?」
「あー、そうですねぇ」
「理由は?」
「納得のいく品質で作ろうと思うと、お高いバターをたくさん使うのですが」
「ほう?」
「王都のバターのお値段がちょっと意味不明というか……」
「なるほど。わかったぞ」と、彼はフォークを置いて腕を組んだ。
「入手経路とか時期とか、あと量によってお値段がめちゃくちゃで、仕入れの予測が立たないのです」
「やはりそれか」
王都周辺は小、中規模の牧場が点在していて、ミルクやクリーム系が豊富に出回っている。保存性の高いチーズは離れた領地からも入ってくるので、やはり流通量や価格に問題はない。
不安定なのはバターだけだ。
品質にこだわらなければ入手はできる。だから日常生活には支障がない。
我が家の料理人は、炒め物用、製菓用、パン用といった具合に、バターは用途別に使い分けている。
貴族街の高級ケーキの値段が安定しているところを見ると、そのくらいの規模までなら問題なく手に入るのだろう。しかし、聖女様ブランドで行列ができるくらい大量に売る前提だと予測が難しい。
王都郊外に牧場地帯を作る計画はあるらしいけれども、牛は年に一頭しか産まないので、そんなに急には増やせない生き物だ。
「相談なのだが、彼の領地でパイを売る店を出せないか?」
「パイの店、ですか?」
「エルディル領には良いバターが山ほどある。廃棄しているくらいだから、こちらでは考えられないくらい安価だ」
「それでしたらピッタリですねぇ。なんだったらミルフィーユとか、ポットパイとかミートパイなんかも美味しいですし、ペイストリーのお店が開けるかも」
ヴィルさんとくまんつ様が低い声で「ミートパイ……」と言った。
「この間、昼食の時間に我々の思考を止めたミートパイのことを言っているのか。あれをオリヴァーの領地にくれてやることになるとは……むぅぅん、しかし王都でバター問題が解決できない以上は致し方ない。くっそぉ、オリヴァーのくせに生意気な……」
どこかのガキ大将のようなことを言っている。
「あいつにはもったいないぞ」と、くまんつ様も悔しげだ。
「ミートパイなら、またうちで作りますから……」
「うむ、ぜひ頼む!」
「お店の件は、ベルソールさんと相談しておきますわ」
後から聞いた話によれば、隣国との戦が絶えないエルディルの経済は、国王からもらう褒賞・報償・報奨……と、少しずつ意味の違うホウショウ金が頼りらしい。
戦えば生きていけるという特殊な環境が、それ以外のことで領地を良くしようとする人を減少させてしまっているのだとか。
「武力に振りすぎて、平和になったら真っ先に潰れる領地」と、ヴィルさんは心配していた。
パイの店を出したくらいで急に町おこしができるとは思えないのだけれども、彼は現地の皆さまを刺激して、奮起するきっかけを与えて欲しいと思っているようだ。
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