30 / 62
30
しおりを挟む「まあ、座れよ」
所在無さげに立ち尽くしている雨月に、己の横に座るよう促す。
雨月は少し逡巡した後、ゆっくりとソファーに腰掛けた。
「………」
「………」
暫し二人の間に沈黙が落ちる。
病院を出た後、そそくさと帰ろうとした雨月を引き止め、近かった自分の家で今日は休むように説得したはいいが…
「…コーヒー、飲むか?」
「いえ、お構いなく」
今はもう落ち着きを取り戻したのか、完全にいつもの何を考えているのか分からない澄ました面の雨月で。
正直、どう話を切り出したらいいのか分からない。
「…怒って、ないんですか」
「あ?」
そんな風に内心ぐるぐると考えを巡らせている時だった。雨月が沈黙を破ったのは。
一瞬何の事を指しているのか分からなかったが、直ぐにあの時の喧嘩別れの時の事を言っているのだと察した。
「…怒ってるっつったらどうすんだよ」
「……もし、謝罪を受け入れて貰えるのなら、少し言い訳をさせて下さい」
言い訳?
無言を承諾と受け取ったのか、雨月はこちらを見ないまま話し始めた。
「ええっと、どこから話せばいいのか………そうですね、おれは君に話していなかった事があります」
「………」
「いきなり何の事だと思うかもしれませんが…おれの母は18年前に亡くなっています。…交通事故でした」
雨月の手元に視線を落とす。
「母は加害者として報じられました。けれど当時のおれはそんな事信じられなくて、何かの間違いだと嘘だと思いました」
その手は少し震えていた。
「…だから、あの時少しムキになってしまいました。…すみません、気を悪くされましたよね」
「………」
「君が許せないと言うなら……いえ、それは関係ありませんね」
「? どういう意味だよ?」
「君とはもう金輪際関わりません」
「───は?」
雨月の言葉に心臓が凍り付くような感覚がした。
金輪際関わらないって…
「な、何でだよ」
「…今日、見たでしょう?あの車はおれを…おれたちを狙ったものです。これ以上おれと関われば君にも迷惑がかかる」
それは本意ではない、と。
「それに…」
「それに、何だよ」
「…いえ、何でもありません」
「おい、待てよ!」
立ち上がり、部屋を出て行こうとする雨月の腕を咄嗟に掴んで引き止める。
「…放して下さい」
こちらを見ようともしないで腕を振り解こうとする雨月に、オレは更に掴む手に力を入れれた。
「っ、放して──」
「18年前、オレも母親を事故で亡くした」
「…そう、ですか」
オレのその言葉に、抵抗しようとしていた雨月の力が緩んだのが分かった。けれど、その顔がこちらを向く気配はない。
腹が立った。あくまでもこれ以上話す気はないとでも言いたげな態度に。
ならば、雨月が片鱗とは言え事故の事を話してくれた今、こちらももう隠す必要はないだろう。
「…まだるっこしい事はこの際無しだ。単刀直入に言う。『名雪雨月』、オレはお前の過去を知ってる」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる