32 / 62
32 *
しおりを挟む「な、何を言って──」
「あ?聞こえなかったのかよ、お前が好きだっつってんだよ」
「…っ、わ、訳が分かりません。いきなりそんな事言われたって信じられる訳──」
「なら、どうすりゃ信じる」
再び顔を近付けると、雨月が一歩後退る。
「逃げんな」
「え、わ…っ」
掴んでいた腕をぐいっと引き、バランスを崩した雨月の体を抱きとめる。そのまま背中に腕を回し、逃げられないように閉じ込めた。
「放し──」
「放す訳ねえだろ」
暴れる雨月を押さえ込むと、ふわりと香るベルガモットの香り。
「なんで、」
「あ?放したら逃げるだろ、お前」
「そうじゃなくて…っ」
「何だよ」
「…すきって」
…ああ。そういえば、まだ理由を言ってなかったか。
「んなもんオレにも分からねえよ。気付いたらそうなってた」
確信したのは、多分雨月と伯父が一緒にいるのを見たあの時だろう。
「…意味が、分かりません」
「は、だろうな」
オレにもよく分かっていないのだから。
「おれは、君を利用しようとしていたんですよ」
「じゃあ教えろよ」
「…え?」
「お前がしようとしている事、感じた事、全部教えろ」
「…知って、どうするんですか」
「んなもん聞いてから決める」
「そんなの、勝手過ぎます」
「は、今更だな」
このオレを誰だと思ってんだ。
「…そういえば、君はそんな人でしたね」
オレの服を掴んでいた雨月の手がぎゅっと握られる。
「…分かりました。お話します」
君にはその権利があるのだから、と。
雨月はオレの肩に顔を埋めて、ぽつりぽつりと話し始めた。
*****
「待って下さ…」
「待たねえ」
「んっ」
ベッドの上で抵抗する腕を掴み、雨月の口を己のそれで塞ぐ。歯列を割り、深く舌を絡ませながら、服を脱がしていく。
「み、かど、なんで」
何故急に自分を抱こうとしているのか、オレの行動が分からずにいる雨月は先程からずっと「なんで」と繰り返している。
別に何も不思議な事じゃない。理由は雨月から『全て』を聞いたから。
「怒ってるんですか…?」
雨月の言葉にぴたりとオレの動きが止まる。
「あ?何言ってんだお前」
「? 違うんですか」
当たり前だろと言いかけて、ふと思い出す。そういえば、抱く事で頭がいっぱいで何も説明していなかった。
「…あー、悪い」
「?」
「別に怒ってねえよ。ただ…」
「ただ…?」
改めて口にしようとするとこっ恥ずかしいが、誤解されたままなのは嫌なので意を決して口を開く。
「お前に好きになって貰いてえって、思ったんだよ」
「…え?」
雨月が目をぱちくりと瞬く。
「な、何で…おれの話聞いてましたか?」
「ああ」
「おれと君は……その、」
被害者と加害者の遺族という関係だと言いたいのだろう。だが、
「それがどうした」
「!」
「確かにオレとお前は世間的に見ればそういう関係だ。だがなぁ、だからってお前に惚れちゃいけねえ理由にはならねえだろ」
「…っ、でも、」
「お前、オレの事いまはどう思ってんだよ」
「どうって…」
「前までならオレの事を復讐のための道具としてしか思ってなかっただろうが、今は違うって分かってんだろ?」
復讐のためなら内心嫌だと思っていてもオレに抱かれるのも苦じゃないと思っていたのかもしれないが…その復讐にオレを関係ないと位置付けた今なら、雨月の性格上オレへの評価が何かしら変化していてもおかしくないはず。
「…君の事は、その、今は」
「ああ、罪悪感とかは抜きにして考えろよ」
「えっ」
念のため注意しておくと、図星だったのか雨月が珍しく目を泳がせる。
そして、考えに考えぬいた様子で雨月は口を開いた。
「…よく、分かりません」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる