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しおりを挟む「驚かないんですね」
少しかすれた声。それにすら愛おしさを感じてしまうのだから、恋とは恐ろしいものだ。
「あ?驚いたに決まってんだろ」
「え?」
「何だよ」
「いえ…あまり驚いていたようには見えなかったので」
まあ、聞いて直ぐ雨月を抱いたからな。寧ろ、そういう意味で驚いていたのは雨月の方だろう。
「ああ、そうだ」
「? 何ですか」
腰が痛いのか未だ起き上がれずにいる雨月の背中の鬱血痕をなぞりながら、告げる。
「手伝ってやるよ、お前の復讐」
「………え?」
雨月がこちらを仰ぎ見る。その眼は信じられないものを見るようで。
「んだよ、不服か?このオレが手伝ってやるっつってんだぞ」
「いえそんな事は…ない、ですけど…」
「けど、何だよ」
「……おれが君の、義理とはいえご家族に危害を加えるつもりだと言ってもですか」
「馬鹿かお前」
あまりのくだらない質問に思わず溜め息が出る。
「本当にそう思ってる奴はな、そんな事言わねえんだよ」
「っ、でも」
「それにな、お前にそんな真似は絶対に出来ねえ」
「…何で、そう言い切れるんですか」
「んなもん、見てりゃ分かる。お前に切った張ったは似合わねえよ」
「………」
そう断言すると、雨月はどこか落ち込んだように肩を落とした。
「…そう、ですね。君の言う通り、おれにはそんな覚悟はなかった。頭に血が昇ってその勢いだけで動いていただけ。だから君が無関係だと知った時、自分の行いが怖くなった。…君を利用しようとしていたくせに何を言ってるんだと思うかもしれませんが」
おかしいですよね、と。
「…知りたい事がある」
「?」
「それがお前に協力するっつった理由だ」
「…何を、知りたいんですか」
「お前言ったよな。あの車はお前らを狙ったものだって」
「…はい」
あの時、救急車を呼んでいる間にあの車はどこかへと走り去っていった。だが、
「あの運転手に見覚えがある」
「!」
あの顔は確か…
「ゆりえさんについてるのを何度か見た」
「………」
それを聞いた雨月が考え込むように視線を落とす。
オレも、雨月から伯父が最後に会っていたのはゆりえさんだったという話を思い出す。
そして、雨月の母親も最後に会っていたのは…
偶然かもしれない。けれど、あまりにも状況証拠が揃い過ぎている。
「オレはゆりえさんには身内にして貰った恩がある。けどな、身内だからこそ見て見ぬふりはできねえ」
間違いがあるのならば、正さなければならない。それに、
「お前はどう復讐したかったんだ?」
「それは…」
オレの質問に、雨月は何かを言いかけては口を閉じるを繰り返す。
「じゃあ言い方を変える。どういう結果になればお前は満足するんだ?」
そう聞き直すと、漸く雨月は答えた。
「…全てを明るみにしたい」
「………」
「もし、母さんの死に関わっているのなら、その罪を償わせたい」
でも、と雨月は続ける。
「…そうなった時、君にも迷惑がかかってしまう。それは本当に本意ではないんです」
その言葉にオレは、こいつは本当に心根が優しい奴なんだなと思った。
復讐なんていう物騒な事をしようとしていたくせに、目的のためなら手段は選ばないと思っていたくせに。
もう少しで真実に辿り着けるかもしれないのに、オレに迷惑がかかると躊躇してしまう。
中途半端で、危うい。けれど、人の事を思いやれる優しい奴だ。
本来なら復讐なんていうものとは関係ない世界で、周りの優しさに囲まれて穏やかに生きていたんだろう。
「お前は気にしすぎなんだよ」
…だが、そうではなかったから雨月と出会えたのも事実で。
「言っただろ。オレがお前に協力するのは自分のためだ。だから、お前は存分にオレを利用すれば良いんだよ」
「三門…」
雨月の頬に手を添え、視線を合わせる。こそばゆそうに目を細める雨月に、オレは笑ってみせた。
「このオレがタダで尽くしてやるって言ってんだ。今から惚れる準備でもしとくんだな」
「………ふ」
ふ?
「ふふっ。何ですか、それ」
「!!」
くすくすと、鈴を転がすような声で雨月が小さく肩を震わす。
オレは、その姿を
「…きれいだ」
「え?」
「! な、何も言ってねえよ!」
「? そうですか」
くそ、オレとした事が…!
無意識に口をついて出てしまった言葉だった。何かに見惚れたのなんて、パリに行った時以来だ。
赤くなっているであろう顔を背けたまま、視線だけでちらりと雨月を見ると
「?」
もうその顔はいつもの表情に戻っていた。
…別に残念とか思ってねえからな
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