シスルの花束を

碧月 晶

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ざわざわとパーティーの招待客たちが見ている中、通は気絶したまま連行されていった。

そして…

「それじゃあ、私ももう行くわね」
「ゆりえさん…」
「何て顔してるのよ。言ったでしょう。私も罪を償うわ」
「………」

警官が待つパトカーへと向かおうとしているゆりえさんを、雨月はただ静かに見ていた。

そんな雨月に、ゆりえさんが振り返る。

「雨月さん」
「………」
「これまで、本当にごめんなさい」

深々とゆりえさんが頭を下げる。

「彩子の事も、裕太郎さんの事も。謝って簡単に許される罪ではないけれど、それでもどうか…」

謝らせてほしい、と。

「…あなたがした事は正直、許せません。直接的ではなかったとしても、母を殺そうとしたのは事実ですから」
「…そうね。その通りだわ」
「だから…母の名誉を回復させると誓って下さい」
「! ええ、誓うわ」

それは、一生罪を忘れるなという事。

遠ざかっていくパトカーを、雨月は見えなくなるまで見ていた。


******


後日、冷泉院の社長と副社長が捕まった事は大々的に世間に報じられた。オレが撮った映像と毒酒、一部始終を録音していた音声、ゆりえさんの証言が決定的な証拠となった。
そして、それと同時に18年前の事件の真相も明るみになった。

「そうか…」

経緯を全て伝えると、その人──裕太郎さんはそう言ってベッドの上で遠い目をした。


実は、ゆりえさん達が連行されていったあの後、雨月に一本の電話が入った。それは雨月の伯父・裕太郎が入院している病院からのもので、目が覚めたという吉報だった。

そうして、漸く面会許可が下りた今日、こうして会いに来て事の経緯を全て話したのだ。


「本当に、これで全部終わったんだな…」
「裕太郎さん…」
「…三門くん、だったかな」
「はい」
「今回の事、巻き込んでしまって本当に済まなかった。でも…ありがとう。この子に協力してくれて、止めてくれて」

裕太郎がペコリと頭を下げる。

「いえ、自分のためにやった事ですから」

だから気にしなくていいと言外に伝えると、裕太郎は再び頭を下げた。

「そうだ。雨月、来月には退院できるそうだから、そろそろ戻る準備をしておきなさい」
「……そう、ですね」

…え?戻る?

思わず雨月を見る。目が合う。だが、それはふいっと逸らされてしまって

「…元々日本には長期休暇で来ていたんです。だから、そろそろ戻らないといけません」

それに、裕太郎に至っては日本での仕事が終わり次第フランスに戻るつもりだったが、予定外の入院で予想以上に滞在が長引いてしまったため、仕事が山ほど溜まっているという。

「何で言わなかった」
「…言おうとは思っていたんですが、タイミングを逃してしまって…すみません」

相変わらず目を逸らしたままこちらを向こうとしない雨月に、オレは心の中で舌打ちをした。

「…お前、戻って来ねぇつもりだろ」

僅かに雨月の肩が揺れたのを、オレは見逃さなかった。

「てめえの復讐が終わったらそれでもうオレはお払い箱ってか?」
「…っ、そんな訳──!」
「二人とも、落ち着きなさい」

静かな、けれど鋭い声。その声の主は、オレを見るとにこりと笑みを向けた。

「三門くん、少しこの子に考える時間を与えてやってはくれないか」
「………」
「君も、これから身の回りが騒がしくなるだろう。それが落ち着くまでの間だと思って。ね?」

優しい諭すような声。でも、そこには有無を言わさぬ圧力があった。

「…分かりました」

けど、言われた事は事実で。オレは承諾するしかなかった。

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