シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
51 / 62

51 side雨月

しおりを挟む
まだ肌寒さが残る春先、雨月は冷泉院本家を訪れていた。

「雨月といいます」

祖父の左隣りに座り、深々と頭を下げる。すると、分家の人間たちが揃って口にする。

「おお、君が理一郎さんの息子か」
「という事は、次の当主は決まりましたな」

雨月は自分に注がれる視線に辟易していた。

表面はやれこれで安泰だと笑っているが、その視線には好奇と嫌悪が入り混じっている。

雨月は一つ、息を吐き出し、口を開いた。

「おれは、この家を継ぐ気はありません」

雨月のその言葉に、どよめきが走る。そして、これは一体どういう事だと、全ての視線が宗一郎へと一斉に向けられる。

「…聞いた通りだ。確かに、雨月は理一郎の息子だ。だが、わしは雨月の意思を尊重する」
「そんな、それでは次の当主は誰にするのですか!」
「そうですよ!いい加減決めて頂かないと!」

口々に不平不満を叫ぶ分家の人間たちを宗一郎は一瞥すると、一言

「黙れ」

あっという間に広間は水を打ったように静まり返った。

「次の当主はもう決めてある」

その言葉に、分家の人間たちの表情が期待のそれへと変化する。だが、宗一郎はそんな変化など気にも留めずに「入れ」と襖の向こうに待機してさせていた人物に声を掛けた。

「失礼します」

すらりと襖が開けられる。現れたのは、理一郎。

「死んだはずじゃ…」

スーツ姿の理一郎の登場に再び分家の人間たちの間にどよめきが走る。

理一郎は分家の人間たちの顔を見渡すと、空いていた宗一郎の右隣りに着座した。

「みな、聞け。ここにいる理一郎を次の当主とする」
「なっ!?」

ざわりと、分家の人間たちは耳を疑った。

「いくら宗一郎様のご子息とはいえ、ねえ?」
「だいたい、今までどちらにいらしたんです?」

口さがない言葉の数々に、雨月は膝の上で拳を握りしめた。

何も知らないくせに。そう叫んでしまいそうになるのをぐっと堪える。
落ち着け。事前に話し合った通りに振る舞うんだ。そう自分に言い聞かせる。

「…皆様の言い分は最もです。確かに私はこれまで周りを顧みる事なく好き勝手に生きてきました。ですが、罰が下ったのでしょう。私は一時己の名以外の全ての記憶を失いました」

理一郎は自分に起きた事を包み隠さず話した。

「…親として、この家の者として、どうか私に責務を果たさせて下さいませんか」

深々と頭を垂れる理一郎に、もう誰も異を唱える者はいなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...