拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

文字の大きさ
28 / 34

26「第一のカップリング6」

しおりを挟む
BLゲーム『運命のあなたと…』の舞台であるここ──セントカーニア学園の敷地はとにかく広い。
どれくらいかというと、端から端まで移動するのに徒歩だと軽く一時間半はかかるくらいには広い。 

とは言え、基本的には校舎の教室で、たまに移動教室のため隣接している別棟で授業を受けるだけなので、そこまで普段の学園生活で困る事はない。 

だが、月に一度、第二月曜日だけは例外だ。
理由は、この日に学園の東端にある大聖堂で『集会ミサ』が行われるから。 

前にも言った通り、この世界のほとんどの国で『精霊王』が信仰されている。 

そのため、前世でいうところのカトリック系ならぬ精霊スピリット系の学校であるセントカーニア学園もご多分に漏れず、この日に精霊王へ祈りを捧げる場が設けられているのだ。 

さて、そんな大聖堂だが、それ以外の日には個人での利用が自由にできるように開放されている。

大抵は個人的に『精霊王』へ祈りを捧げに来る人間がほとんどだが、稀に『告解こっかい部屋』に訪れる人間もいる。

告解こっかい部屋』とは、大聖堂内にある小部屋で、信者が聖職者に罪を告白して精霊王の『許し』を得る場所だ。

と言っても、本当に精霊王にお伺いを立てて許しを得る訳ではないので、まあ言い方は悪いが『聖職者に話を聞いて貰った』という事実が欲しい者にとっての自己満足のための利用がほとんどだ。

しかも、話す内容も、本当に『罪を告白する』ために訪れる者の方が少ないときている。

え? では、一体何のために皆ここを訪れているのかって?

それは『お悩み相談』をするため、だ。

よって、ここで言う『許し』とは『聖職者に悩みを聞いてもらい、アドバイスを貰う事』を指しているのだ。

───チリン…

おや?そんな『お悩み相談室』にやって来た一人の悩める仔羊が、告解部屋に備え付けられているベルを小さく鳴らしたようだ。

告解部屋は、木の壁(不思議な事に声は聞こえる)で二分されているため、聖職者側からも訪れた信者側からもお互いに姿が見えないようになっている。

「…この場での秘密は守られます。精霊王様を信じて告解を」

その言葉に、告解部屋の信者側に置かれた椅子に座っている男子生徒がゆっくりと口を開く。

「…告解します。私は…かつて友人の心を傷付けました。けれど、その事実を知ったのは最近でした。私は誤解だと気付かぬまま友人をこれまで傷付け続けてきた事を謝罪しました。ですが…許しては貰えませんでした」
「………」
「その時、私は許して貰えなかったショックと、その…友人が取った態度に腹に据えかねて殴ってその場から逃げてしまいました。…けれど、後で冷静になって彼の立場になって考えてみれば、今更謝られても、過去の傷もそれまで私が取ってきた態度で傷付き続けてきた気持ちを直ぐには無かった事になど出来はしないと気が付きました」
「………」
「でも、気が付いたところでもう手遅れでした。私は絶好の機会を逃してしまった。それどころか、短絡的な行動で取り返しのつかない事をしてしまった。彼はもう私の言葉など聞いてはくれないでしょう…」

泣いているのだろう。男子生徒の声が震えている。

「…犯してしまった罪を悔いる事は悪い事ではありません。ですが、過ぎる後悔はあなたの歩みを止めてしまいます」

静かに、壁の向こう側から紡がれる穏やかな男性の声に、男子生徒は啓示を聞くように耳を傾ける。

「あなたにとって、そのご友人はかけがえのない存在なのでしょう」
「…そう、なのでしょうか?」
「人生で、人が気に掛ける物事は多くあります。しかし、残念ながらその全てを気にかけ続けている訳ではありません」
「………」
「あなたはご友人に対して深く後悔の念を抱いている。そして、あなたの言葉を聞いて欲しいと思われている」
「………」
「謝罪という行為は、とても勇気を要するものです。…大丈夫。あなたはもう既にそれを持っています」

後は行動するだけだ、と。

「…そう、か。私は、また失敗するのを恐れていただけだったんですね」

腑に落ちたのか、男子生徒の声はもう震えていない。

「ありがとうございます。お陰で目が覚めました。私は、許して貰えるまで謝罪し続けます。…例え、彼が一生許してくれなくとも、私は償い続けます」

覚悟を決めたように力強くそう宣言した男子生徒に「あなたに精霊王様のご加護があらんことを」と優しい声音の言葉が届けられたのだった。


*****


緑色の髪を靡かせ、来た時とは打って変わって憑き物が落ちたかのようにスッキリとした表情で告解部屋から男子生徒が去っていく。

その足取りにもう迷いは見受けられない。

彼はきっとその足で、真っ直ぐにくだんの『ご友人』の下へ行くのだろう。

その様子を見ていた俺は小さくガッツポーズをした。

よしよし、上手くいったな。

バレやしないかと緊張したが、先輩のあの様子ならばその心配はしなくて良さそうだ。

後は野分のわき先輩次第だが、今日までに俺の方で打てる手は打っておいた。

という訳で、これより作戦を第二段階へ移行します。

「…あ」

そういえば。

「あ、あー、あーー」

先に言っておくが、これは突然歌い出した訳でも頭がおかしくなった訳でもないので、そこのところ誤解しないように。

え?じゃあ、一体何をしているんだって?

別に深い意味はない。単に、そろそろなのを思い出したというだけの話だ。

ん?どういう意味かって?

それを説明するには、まず必要があるので、ちょっとお待ちを。

「あ、あー」

ん。よし、戻ったな。

さて、お待たせ致しました。では、さっきまで俺が何をやっていたのか。どうして声が変わっていたのか。順を追って説明しよう。

まず、お気付きかと思うが、先程『告解部屋』にお悩み相談しにやって来ていたのは野分のわき先輩である。
そして、その野分先輩の『お悩み』に対して受け答えしていた『聖職者』は『俺』である。

…ん?聞こえなかった?もう一度言ってくれって?

だから、先ほど野分先輩と告解部屋で話していた『聖職者』は声を変えた『石留椿』だったんだってば。

何でそんな事をやっていたのか?ていうか、どうやって声を変えていたのか?

ふっふっふっ、それはだね。中庭で野分先輩と話をしていた時に閃いたのだよ。

あの時、目下の問題は『どうやって惚れられないように野分先輩の悩みを聞きだし、前向きにさせるか』だった。

俺は考えた。考えて考えて考えて。そして閃いた。そうだ、モブと壁だと。

どういう事かというと、つまり『石留椿』が悩みを聞けばフラグが立ちかねない。であれば、相手が『俺』ではない『誰かモブ』であれば良いのだと気が付いたのだ。

題して『告解部屋の壁の向こうでモブにふんして野分先輩の悩みを聞きつつ仲直りするように誘導しよう作戦』が爆誕した瞬間である。

ちなみに、告解部屋の存在を知っていたのは、入学したばかりの頃に『大聖堂』を見学していた時に案内をしていた先生から説明もとい実情を交えた小話があったからだ。

と、まあ、そういう訳でこの作戦を思い付いた俺は早速準備に取り掛かった。

大聖堂の告解部屋の存在は知ってはいたが利用した事はないという野分先輩に三日後の放課後に予約(※実際にはしていない)を入れておくので来て欲しいとお願いし、その間に俺は本物の聖職者がどんな風に話すのかを知っておくために実際に告解部屋に訪れておいた。

そして、その翌日の放課後、こっそり街に出て『声変えの飴』を買いに行った。
この飴は舐めている間『声を変える』事ができるという、子ども向けのお菓子で。
別に魔法で変えても良かったのだが、それだと魔法の痕跡が残ってしまいバレる心配があったので、魔法の痕跡が残りにくいこの『声変えの飴』を使用する事にした。

その結果、出来上がったのが、俺の声に似ているが少し違う『低い穏やかな大人の男性の声の聖職者』という架空の人物なのである!

あとは、残った一日で出来る限りの手を打ち、迎えた今日、モブもとい聖職者を装って野分先輩を誘導……ゲフンゲフン、助言をして燈堂先輩と仲直りする決心をさせるという第一段階の作戦を決行し、今から行う第二段階へと移行した作戦が上手く機能すれば、きっと…いや恐らく…いや多分………ま、まあそんな感じで燈堂々先輩と野分先輩は無事に仲直り(あわよくばカップリングも成立)してくれるだろう!という寸法だ。

え? 第二段階の作戦で一体何をするんだって?


それはキミ、見てからのお楽しみという奴ですよ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない

いいはな
BL
 田舎にある小さな町で魔術を教えている平民のサン。  ひょんなことから貴族の子供に魔術を教えることとなったサンは魔術の天才でありながらも人間味の薄い生徒であるルナに嫌われながらも少しづつ信頼を築いていた。  そんなある日、ルナを狙った暗殺者から身を挺して庇ったサンはそのまま死んでしまうが、目を覚ますと全く違う人物へと生まれ変わっていた。  月日は流れ、15歳となったサンは前世からの夢であった魔術学園へと入学を果たし、そこで国でも随一の魔術師となった元生徒であるルナと再会する。  ルナとは関わらないことを選び、学園生活を謳歌していたサンだったが、次第に人嫌いだと言われていたルナが何故かサンにだけ構ってくるようになりーーー? 魔術の天才だが、受け以外に興味がない攻めと魔術の才能は無いが、人たらしな受けのお話。 ※お話の展開上、一度人が死ぬ描写が含まれます。 ※ハッピーエンドです。 ※基本的に2日に一回のペースで更新予定です。 今連載中の作品が完結したら更新ペースを見直す予定ではありますが、気長に付き合っていただけますと嬉しいです。

処理中です...