全ルート斬首刑の悪役令嬢に転生して対策練ってたら破滅理由の第二王子(魔王)がグイグイ絡んでくる。

江村朋恵

文字の大きさ
13 / 14
本編 【5歳】

12.俺、蘇った……!

しおりを挟む
 ──ズダァンっ!!
「あっ、あっ! ちょっとぉ~! このちびっこめ!! 扉壊れる~!」
 
 勢いよく両開きの扉を開いたのは身長120cmほどの男の子──つまり、オズワルド・アークライトだ。
 おっぱいココの制止を無視し、オズワルドは花に溢れた広間へズカズカと侵入する。
 しもべのラルバトスの姿はなく、オズワルド一人で自分の城を歩くように数段上の精霊王の玉座の前まで来た。
 毛先にクセのある金髪を揺らし、オズワルドはニヤリと笑う。

「──邪魔するぜ!」

 薄笑いで精霊王ファネットはオズワルドを見下ろす。
「相変わらず無礼なやつだね。ここへ来たってことは記憶も戻ったのかな──面倒……帰ってよ」
 クリスティーナをぐいと引き寄せ、精霊王は剣呑とした空気を隠しもしない。

 対して、オズワルドも5歳児とは思えぬ顔つきをして精霊王を睨みつける。
「おれのものを盗んだヤツが言うんじゃねぇよ、どあほう」
「…………いつお前のものに? これは落とし子だろう? 誰のものでもない」

まよい子とも言うな。人間どもは無色カラーレスとかいいやがる。無色透明クリアのそいつに色をつけるのはおれだ。お前がもっていくな」
 オズワルドはクリスティーナを指差し所有者宣言をかます。が、精霊王ファネットはにんま~と笑ってクリスティーナの頬に自分の頬を寄せ、逆に挑発モードだ。

「残念、もう色はついた。初染めはわたしのものだよ」

 火花を散らして睨み合うというのはこういうことなのかとクリスティーナは精霊王ファネットに抱えられたまま眺めた。

「……あほぅめ、無色透明クリアがただの一色で塗りつぶれるものかよ。ティナ! 来い!!」
 オズワルドの頬が苛立ちにひくひくと揺れている。それを確認して、精霊王は満足そうにほくそ笑むばかり。

「行くといいよ。アレを怒らせると面倒だ。──いつでも会いにおいで? ふふふ」
 言葉の後半はクリスティーナの耳元にだけ囁いた。
「えっと……」

「ティナッ!!」
 オズワルドの額には青筋が浮いている。
(なんで第二王子があんなに怒るの……)

「──は、はいー!」
 精霊王に優しく膝からおろされたクリスティーナが駆けてくる間に、オズワルドは自分の影に声を落とす。
「ラルバトス! 帰るぞ」
『──ははっ』
 即時、返事は影の中からだ。オズワルドがクリスティーナの手を掴んだ瞬間、影がぐいっと伸び、二人の姿を飲み込む。

 いきなり真っ暗になり、驚いたクリスティーナは「──ひぇっ!?」と声をあげていた。
 が、次の瞬間にはもう影は消え、視界も明るく開けた。クリスティーナも叫び損に近いほど、一瞬のことだった。

「色気の無い悲鳴だな」
 現状確認に忙しいクリスティーナはオズワルドの言葉など──聞こえなかったふりの無視である。

 見回せばジメッとした土の匂いの強い外──。どこか深い森の中に放り出されていた。
 光は注いでいるが、背の高い木がたくさん並んでいる。
 ふっと後ろを見れば、前世三十路が『御神木だ』とつぶやいてしまいそうな幹の太い、大きな木があった。樹齢何千年というレベルの巨木だ。
 さらに、巨木には人が雨宿りくらいは出来そうな大きなウロがあいていた。ウロはどこかに続いているということはなく、ただのくぼみだった。
 だが──。
(もしかして、これが入り口だったの?)

 とっさにファンタジー脳を活性化させていくクリスティーナ。
 おっぱい妖精ココはクリスティーナが「ここはどこだ」と聞いた時に「聖樹のウロだ」と答えた。

(なら、これが聖樹……)

 ずっと高いところまで伸びた木。首が痛くなるほど見上げる。これが妖精達の住処なのだとクリスティーナは認識した。

「無事のお戻り、何よりでございます」
 声にクリスティーナは慌てて振り返れば、オズワルド第二王子がかしづかれていた。彼の足元に黒づくめの男が膝をついていたのだ。

「──ど、どなた?」
「部下」
 クリスティーナにさらりと答え、オズワルドは黒づくめのラルバトスに「さっさと帰るぞ」と告げる。

 しかし──。
「魔物本隊と討伐本隊が接触、戦闘が始まっております。今うごけば巻き込まれるかと」
「そうか……今回の魔物の親玉は討ってあるのに頑張るな。──ラルバトス、おれはティナと話をする。お前は先に魔族うちのを率いて魔物の数を減らしておけ」
「──はっ」

 ラルバトスが地面の影にストンと飲み込まれるように消えた。

「な、ななな、なに!? まっていまのなに!?」
「魔法」
 やはり興味が無いとばかりにあっさりと答えるオズワルド。

(ま、まって……待って? いまの、見たことある。てかあの人──黒づくめの青白美人、見たことが……翼……はなかったけど……耳……も長くなかったけど……そうだ──そう! ゲームで見たわ! 確か──……え?……あの、ゲームで……魔宰相ラルバトス……は……部下だよね……魔王の……オズの……部下?)
 回想モードのクリスティーナにオズワルドは一気に近寄ると、そのまま腰をぐいと引き寄せた。突然のことに「え!?」と顔を上げるクリスティーナの顔にオズワルドは急接近した。

「──んんっ!? んんんんんんん! んん!!」

(おい!? 顔、顔近い──てか、えぇ!?!? くっついてない!? あれ!? これキスじゃん!?)

「んんんんー!!」
 どちらも目をかっぴろげている。
 睨みつける目でガッツリ罵倒するクリスティーナに、半笑いで唇を押し付けてくるオズワルド。余裕綽々の笑みで見下ろしてくるのだ。
 右手をギリギリと音がするほど握りしめ、クリスティーナはゲンコツでオズワルドの頬をがっつり殴りつける。
 振動が伝わってくるが、この際、気にしない。クリスティーナはオズワルドの腕を振り払い、見上げた。

「──ぶはっ! なにすんのよ、いきなり!」

(5歳児のやることか!? いや、幼稚園児ってむしろキスしちゃうのか!? ふぁー!? わからんっ! もうっ! 柔らかすぎよ! 可愛いじゃない! 美少年すぎるのよ! 夢のようなチューでしかない!! むしろ口開けちゃうとこだったわよ! 可愛いすぎるのよ! ずるい! もっとしてもいいのに!! ディープ!! ウェルカム!!)
 頭の中もしっちゃかめっちゃかなら、言葉と心も裏腹である。

「いいパンチ、いいパンチ」
 オズワルドは殴られた頬を撫でつつにやにや笑っている。

「ティナ、精霊王と縁を結ぼうが、兄上と婚約してようがどうでもいい。けどな、最後はおれを選べよ? おまえはおれのもんだ」
「は~ん?? 私は私のもんよ、勘違いすんなっ!」

 いい加減、前世三十路覚醒後もごく普通の子どものように流されまくっていたが、さすがに鬱憤も限界に近かったクリスティーナ。キスには切れて令嬢顔ではなく前世三十路全開となった。キスに驚いた5歳までのクリスティーナの意識と言える部分が完全に引っ込んでしまったとも言えるが──。

「ふふん。それが本性か?」
「──あっ」

 しまったと表情を固めたクリスティーナの瞳をじっと覗き込むオズワルド。

「な、なによ?」
「さすがのファネットか、精霊王が相手だと半分しかとれなかったな」
「だから、なにが?」
「おまえの魂の色だよ。今、半分が金色で半分が今おれが染めた黒銀色になってんだよ。じき沈んで馴染むだろうが、一層目は黒銀一色にしたかったのにな」

 クリスティーナも自覚症状が無いので魂の色を染めただの、何色だのと言われてもわけがわからない。

「はぁ?? もぅっ! なんなの、人のこと勝手にさぁ! ファンタジーもいい加減にしてよね! で、何の魔法くれちゃったの?」
「おれのところに転移できる魔法だ」

 ──ぶふぅっー!
 クリスティーナ、思わず吹き出した。

「精霊王様と同じですか!? 同レベル! あんたたち同レベルなの!?」
「ぁあ!? あいつも? ムカつくな……ただでさえ先越されて腹立ってんのに」

 ブツブツ文句を言うオズワルドをクリスティーナはチラリと盗み見る。

「ね、ねぇ……さっきの部下って人なんだけど──」
 ギロリとオズワルドは睨んでくる。
「なんだよ、ティナはあんな弱ぇヤツが気になるのか」

(弱いってあんた……ゲームの魔王ラスボス前のボスじゃないの……。あの魔宰相にガッツリ削られてアイテム消費しまくって結局、魔王とまともに戦えなくて負ける──が、初見プレイの定番。強かったよ……俊敏な上に多彩すぎる状態異常魔法──回復前に連撃モードと数分おきの大技で……ってゲームはともかく──)

「……えぇと……人間の人なの?」
 だらだらだらだら冷や汗を流すクリスティーナ。
(き、聞き方がわからない……魔族、魔宰相ですか、彼は? とか聞けない……)

「…………精霊王に何か聞いたか?」
「え? ううん。とくには何も」

 オズワルドはポリポリと首をかいた後、クリスティーナを見た。

「ティナは気付いてんだな? 魔族だって。だから聞くんだろ」
「あ、ははは、魔族っていうか、魔宰相さん?」
「………………………………おまえ…………」

 魔宰相の上司など、魔王ひとりしかいないのである。
 クリスティーナが確認したいのはオズワルドが何者かという恐ろしい点だ。
 オズワルドもまた、クリスティーナの言葉から彼女の意図を読みとっている。
 二人とも、外見通りの5歳児ではないのだから──。

 長い沈黙の後、オズワルドは「まあ、そうだな……おまえには言っておいてもいいかもな……」と前置きしたあと、クリスティーナの真正面ではっきりと告げた。

「つまり、おれは百年前に死んだ魔王──俺、蘇った……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!

naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。 そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。 シオンの受難は続く。 ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。 あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...