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第三章 美少女学園一年目 芽吹き根付く乙女心

【第20話】 再教育(20)つばさ

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■末舛つばさサイド(7)(過去)

 ぼくは、翔。
 大きくなったら、サッカー選手になるの。
 バルセロナの10番になるの。
 毎日、休まず練習しているから、絶対なれると思う。
 僕が幼稚園で一番うまいんだよ。
 年長のお兄さんたちは、体は大きいけど、僕のボールを取れないし。
 ちょっとボールをリフティングしたら、抜かせるんだ。
 へへへっ。

 今日もね、リフティング五十回落とさずにできたんだよ。
 いや、こんなの簡単だよ。
 調子がいい時は、九十九回はできるもん。
 本当は、もっとできるけどね。九十九より大きい数、分からないし。
 まっ、多ければ多いほどいいよね。

 だってパパがね、リフティングが沢山出来れば、必ずプロになれるって言ってるんだもん。
 ずっとボールと一緒にいれば、誰よりも上手になるって。
 だから僕、寝るときもずっとボールと一緒なの。
 ボールは友達って、つばさくんが言ってるし、ぼくもそう思う。
 つばさくんってね、ゴールを沢山とるんだよ。
 僕も、つばさくんみたいになるんだ。絶対に。

 今日はね、新しいボールをもらったの。
 とってもピカピカでかっこいいんだよ。
 何せ、夢のワールドカップモデルだから。
 いつもの古いボールもいいんだけど、こっちボールは本物の皮でできているんだって。
 家に帰ったら、古いボールと、新しいボール。どっちも大切にするんだ。
 一緒に寝るんだ。
  
 今どうしているかって?
 実はね、もっとサッカーが上手になるように治療ちりょう? を受けてるの。
 僕はぜったいサッカーは上手いんだけど、おじさんからはなかなかボールを奪えなくて。
 悔しくて、「もっと上手くなりたい」って言ったら、すぐに上手になるいい方法があるって。
 夢みたいな話でしょ。
 でも、ボールをくれたおじさんの言うことだから間違いないよね。

 それで今、この帽子を被っているんだ。
 ヘッドギアっておじさんは言っていたかな。
 まぁいいや。いずれにせよ、この帽子を被っていれば、もっとサッカーが上手くなるんだって。
 つばさくんになれちゃうんだって。

 僕も最初は信じられなかったんだけどね。
 本当にすごい帽子なんだよ。
 被っていると、不思議な音が聞こえてきて、頭がふわふわして、とっても気持ちよくなるんだよ。
 心の中がどんどんきれいになっていく気がするの。
 なんだか、雲の中を飛んでいるみたい。
 体がポカポカしてくるの。
 なんだかうとうとしちゃう。
 このまま寝ちゃうかも。

 でも、僕が寝そうになるとね、おじさんが、耳元で囁いてくるんだ。

「翔くん。これからおじさんの言うことは、みんな正しいんだよ。おじさんの言葉を聞いていれば、もっと気持ちよくなれるからね」

 エコーって言うんだっけ。おじさんの言葉が耳の奥まで響いてくるの。
 
「……うん」

 大人の人が言うことだもん。
 ボールをくれる、優しいおじさんの言うことだもん。
 とってもサッカーの上手い、おじさんの言うことだもん。
 だからね、おじさんが言うことは、きっと正しいんだ。

「とっても気持ちがいいだろ? おじさんの言う通りにしていれば、もっと気持ちよくなれるからね」

「……うん……」

 なんだか頭がぼーっとしてくるの。おじさんの言葉がここちいいの。

「そうだよ。いい娘だね」

 そう。ぼくは、いい子なの。

 おじさんが僕の肩をなでてくれる。
 なぜかわからないけど、とても……うれしい……の。

「とってもいい娘には、いいものをあげよう」

「あ……れ? これは……なに?」

「これはね、魔法少女のお人形さんだよ」

「まほう……しょうじょ?」

「そうだよ。ピンクの華やかな着物を着た女の子のお人形さんさ。可愛いだろう?」

(あれ……これって、女の子のおもちゃ?)

「とっても可愛いだろう。ほら、触ってごらん。もっと幸せな気分になれるよ」

 でも、僕、サッカーの方が……。女の子の……おもちゃなんて。おもちゃなんて……。

「おじさんの言うことは、みんな正しいんだ。いいから、触ってごらん」

「う……うん」

「いい娘だ」

 そう、ぼくはいい子だから、おじさんの言う通りにするの。

「そうだよ。痛くないように、優しく持ってあげてね」

「うん」

「偉いね。よく見てごらん。女の子のお人形さん……。お目目がキラキラしているね。きれいだろ」

「うん、きれい」

「うーん。三歳だから刺激はこれくらいかな。快楽物質の量を10%増やして」

 おじさんが、何か……言ってる。
 女の子の……お人形さん……見ていると、頭がもっとふわふわしてきて。

「君は、女の子のお人形さんが大好きなんだよ。おじさんが言うんだからそうなんだよ」

 あれっ。そうだっけ。でもなんだかとっても気持ちいいし、おじさんの言うことだから……。

「ほら、目元が涼しげで、可愛らしいだろ。とっても美人さんだね。翔君にそっくりだ」

「美人さん? ぼく……そっくり……な……の?」

 あれ? おかしい? お人形さんは、女の子で、僕は男の子だから。
 なんだろう。だんだん何も考えられなく……。
 でも、おじさんの言うことは正しいから……。

「そうだよ。君にそっくりで可愛いよ。このお人形さんはね、つばさちゃんっていうんだよ」

「……」

「うーん。まだ、効果が薄いかな。もう少し、ポカポカした気分にしてあげるね」

「……」

 おじさんは、よく分からない機械をいじってる。
 なんだろう、何をやっているんだろう。

 分からない。

 あれ、でも。

 さっきより。なんだか。

 頭がぼーっとしてくる……の。
 満たされてるの。
 お人形さん……つばさ……?
 なんだっけ。

「そうだよ。うっとりした、いい顔になってきたね」

「……うん?……いい顔?」

「そうだ、可愛らしい顔になってきた。もう一度、お人形のつばさちゃんを見てごらん。なんか感じないかい?」

「あたまが……ふわふわ?」

「そうだよ。触っていると気持ちが良くなってくるだろ?」

「……うん」

「ピンクの着物。とってもオシャレで、つばさちゃんに似合ってるだろ?」

「……うん」

「もっと、色々着せてみたいよね。つばさちゃんは可愛らしいから、きっとお洋服も似合うよね」

「……うん。似合う……と思う」

 おじさんの声……響き……きもち……いいの。
 どんどんポカポカしてくるの。

「お人形遊び、楽しいよね」

「……うん。楽しい」

「好きだよね」

「……うん。好き……なの……かな」

「いいかい、。おじさんの言うことは、みーんな正しいんだ」

「うん」

 おじさん……言うこと……正しい。
 あれ? つばさって? だれの……こと? ぼく?

「いい娘だね。可愛いお人形さんを触っていると、気持ちがぽかぽかしてくるだろ」

「うん、ポカポカ」

「ほらね、つばさちゃんは、お人形さん遊びが好きなんだよ」

「そう……なの?」

「そうだよ。もっとよく見てみなよ。触っているだけで、幸せな気分になるだろ」

「……うん、しあわせ」

「そうだよね。つばさちゃんは、自分にそっくりな女の子のお人形さんが大好きなんだよ」

「……そうかも」

「つばさちゃんは、お人形さんが好きなんだよ。おじさんが言うことだから、間違いないんだよ」

 頭……ぼーっと……もう、何も……考えられ……。

「うん。ぼく……お人形……好き」 
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