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6.誘拐か?!
村の朝はいつも平和だ。
その日、王子ラクスが忽然と姿を消すまでは。
「王子様!? 王子様はどこ!?」
「さっきまで畑で“うさぎ土偶”作ってたのに!!」
「ラクス様が……誘拐された!? えっ、モテすぎて!?」
事態を聞いたカイルは、即座に立ち上がった。
剣を腰に、無言で村の獣人たちに質問し始める。
その表情は一切の感情がない、だが焦りだけが滲んでいた。
「……こっちに妙な足跡がある」
追跡を続けたカイルが辿り着いたのは、森の奥の開けた場所。
そして、その先に見えたのは
「ようこそ、“ラクス人形展示会”へ!」
「……は?」
そこにいたラクスは、ふわふわの毛布に包まれ、花の冠を被せられ、両手にリボン。
周囲には羊族の娘たち(全員もふもふ)が、目をキラキラさせて並んでいた。
「見てください! 王子さまにキラキラの飾りつけを!」
「私、このお耳の位置に飾りを乗せるのが夢だったんです!!」
「ちょっと!? 俺誘拐されてたんじゃなくて“コーディネートされてた”の!?」
「ラクス様の毛並みに似合うのはラベンダーですよね!」
「いや、金のレースのほうが高貴でエモいです!」
……どうやら、“王子の可愛さに耐えられなくなった羊族の女子会”が暴走したらしい。
「ラクス!!!」
木の陰から現れたのは、全速力で駆けてきたカイル。
風を切って剣を抜いたその姿は、完全に「今すぐ戦場」だった。
「無事か!? 傷は!? 拘束は!? 毒は盛られていないか!?」
「えっ、えっ!? ちょ、ちょっと待ってカイル、落ち着いて!!」
ラクスの髪には蝶のクリップ、首にはベルつきリボン、肩には羊のぬいぐるみ。
「……これは、どういう状況だ?」
「わかんない!! 気づいたら“今日の主役”になってたんだよ!!」
「護衛様! 王子様に青い羽根を追加しても?」
「するな」
「えっ、でも似合いますよ? ね?」
「……似合うが、するな」
「え、今“似合う”って言いました!? 言いましたね!? いただきました!!」
*
「は~……ごめん、心配かけたな」
「……心配どころじゃない」
「でもさ、ほら、命の危険とかはなかったし、結果的に“贅沢な誘拐”って感じで?」
「……俺は、本気でお前が死んだと思った」
ふと、カイルの声が低く、震えていた。
「……っ」
「次、こんなことになったら――」
言いかけた言葉を、カイルは飲み込んだ。
けれど、その目は言っていた。本当に怖かったと。
帰りの道、ラクスは少しだけ後ろを歩くカイルを見ながら、ぽつりと呟いた。
「……お前がそんな顔するとはな」
「……」
「そっか。俺、案外……大事にされてたんだな」
カイルは、言葉では答えず。
ただ、ほんの少しだけ歩幅を早め、ラクスの横に並んだ。
*
その夜。
ラクスの部屋の机の上には――
羊柄の手鏡と、“カイル私物”と刺繍された護衛用マントが置かれていた。
「……誰だよ、俺の部屋にサプライズするやつ……」
でも、マントはちゃんと抱いて寝た。
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