4 / 11
第二章
①傲慢な男
しおりを挟む
だだっ広い敷地の奥にいつ壊れてもおかしくないような古ぼけた塔。
――とても信じたくはないが、これがこの街の、否、世界の中心である――
錬金術の技術を普及させ、文明の発展を支援するために設立された施設で、これは簡単に言ってしまえば学校である。
終業の鐘に追い出された学徒たちが、川に流される様に一様に、無駄に長い道を進む。
その中の一粒に、ただ日々をこなすだけになったスディも存在していた。
(このまま惰性でここに通い続けていて良いのだろうか。学費だって安くない。そもそもこのまま生きてたって……)
明らかに陰鬱な気配を醸していたので、その他の学徒たちから引かれていた。
そんなもんで、見かねた学徒の一人が彼に声をかけた。
「やあ、何シケてんだいスディ!彼女にでもフラれたか?」
彼はスディと同じ授業を受けているこの学校の学徒である。よく目立っているためスディも顔は知っていたが、会話をしたのはこれが初めてだ。
「いえ……彼女はいないので」
「そうか、じゃあ彼女が出来なかったんだな」
スディは無礼で的外れな発言ばかりする、名も知らぬこの男を追い返そうとしたのだが、この男は何も言わせぬまま語り進めた。
「いや、君が女性難かどうかは細事でね、ようは君の事が心配なんだよ。何か嫌なことがあったなら相談にも乗ってやるさ。だからちゃんと授業にも参加してくれよ?」
当然だが、参加したからこの道を歩いているのである。
「俺じゃ話しづらいってんならハニーに話してくれたっていいよ。俺のハニーは聞き上手だからね」
(何故赤の他人の彼女に人生相談などせねばならんのだ……)と思ったことは、口には出さなかった。
「或いはパパに話してもいいよ。パパも君の事気にしてるみたいだよ、よく頑張ってるって。ああ、俺のパパはここの教授なんだ。材質学の授業があっただろう?アレの講義をしてたのがパパなのさ」
ああ、あの人、と薄ら反応した様子をこの傲慢な男は見逃さなかった。
「分かる?良かった良かった。パパに話す時は研究室よりこっちに行った方がいいよ。パパってばパーティーが大好きだからさ。大体ここにいるし、いなくてもそのうち来るから。スタッフに声かけたら大体何とかなるよ」
そんなことを言いながら、名刺のようなものを渡してきた。Brillanteというナイトクラブのカードのようだ。
スディには教授に会うつもりなど更々無いのでそれを受け取らないつもりだったが、お節介な男は無理矢理胸ポケットに捩じ込んできた。抜き出すのも面倒なので、スディはそのままにしておいた。
「何なら俺も一緒に行こうか。一人じゃ店に入りにくかったりするだろ?俺の事は心配しなくていいさ、勝手に踊っておくからね。その間にパパと話したらいい。大丈夫、パパならVIPルームの用意も出来るからね、静かにこっそり話すことも可能だよ」
不躾な男がスディに肩をまわす。どうやら今すぐにでも例の店へ連れ出すつもりのようだ。
それは御免なので取り敢えず手を払ったが、この野郎はめげずに接触を試み続けた。
気付けば人の川は崩れ、皆が思い思いの方角へ足を進めていた。スディらはもう門を越えていたようだ。しかし相変わらずあの男はしつこく絡もうとしてくる。
「クラブは恐い場所じゃないよ。寧ろ入場客を厳選しているから治安は良い方だ。さっき渡したカードを見せれば通してくれる」「ほぉそりゃいいね、楽しめそうじゃん」「もちろんさ……へ?」
二人の前に影が立ち塞がった。
――とても信じたくはないが、これがこの街の、否、世界の中心である――
錬金術の技術を普及させ、文明の発展を支援するために設立された施設で、これは簡単に言ってしまえば学校である。
終業の鐘に追い出された学徒たちが、川に流される様に一様に、無駄に長い道を進む。
その中の一粒に、ただ日々をこなすだけになったスディも存在していた。
(このまま惰性でここに通い続けていて良いのだろうか。学費だって安くない。そもそもこのまま生きてたって……)
明らかに陰鬱な気配を醸していたので、その他の学徒たちから引かれていた。
そんなもんで、見かねた学徒の一人が彼に声をかけた。
「やあ、何シケてんだいスディ!彼女にでもフラれたか?」
彼はスディと同じ授業を受けているこの学校の学徒である。よく目立っているためスディも顔は知っていたが、会話をしたのはこれが初めてだ。
「いえ……彼女はいないので」
「そうか、じゃあ彼女が出来なかったんだな」
スディは無礼で的外れな発言ばかりする、名も知らぬこの男を追い返そうとしたのだが、この男は何も言わせぬまま語り進めた。
「いや、君が女性難かどうかは細事でね、ようは君の事が心配なんだよ。何か嫌なことがあったなら相談にも乗ってやるさ。だからちゃんと授業にも参加してくれよ?」
当然だが、参加したからこの道を歩いているのである。
「俺じゃ話しづらいってんならハニーに話してくれたっていいよ。俺のハニーは聞き上手だからね」
(何故赤の他人の彼女に人生相談などせねばならんのだ……)と思ったことは、口には出さなかった。
「或いはパパに話してもいいよ。パパも君の事気にしてるみたいだよ、よく頑張ってるって。ああ、俺のパパはここの教授なんだ。材質学の授業があっただろう?アレの講義をしてたのがパパなのさ」
ああ、あの人、と薄ら反応した様子をこの傲慢な男は見逃さなかった。
「分かる?良かった良かった。パパに話す時は研究室よりこっちに行った方がいいよ。パパってばパーティーが大好きだからさ。大体ここにいるし、いなくてもそのうち来るから。スタッフに声かけたら大体何とかなるよ」
そんなことを言いながら、名刺のようなものを渡してきた。Brillanteというナイトクラブのカードのようだ。
スディには教授に会うつもりなど更々無いのでそれを受け取らないつもりだったが、お節介な男は無理矢理胸ポケットに捩じ込んできた。抜き出すのも面倒なので、スディはそのままにしておいた。
「何なら俺も一緒に行こうか。一人じゃ店に入りにくかったりするだろ?俺の事は心配しなくていいさ、勝手に踊っておくからね。その間にパパと話したらいい。大丈夫、パパならVIPルームの用意も出来るからね、静かにこっそり話すことも可能だよ」
不躾な男がスディに肩をまわす。どうやら今すぐにでも例の店へ連れ出すつもりのようだ。
それは御免なので取り敢えず手を払ったが、この野郎はめげずに接触を試み続けた。
気付けば人の川は崩れ、皆が思い思いの方角へ足を進めていた。スディらはもう門を越えていたようだ。しかし相変わらずあの男はしつこく絡もうとしてくる。
「クラブは恐い場所じゃないよ。寧ろ入場客を厳選しているから治安は良い方だ。さっき渡したカードを見せれば通してくれる」「ほぉそりゃいいね、楽しめそうじゃん」「もちろんさ……へ?」
二人の前に影が立ち塞がった。
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる