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第三章
①クラブには似つかわしくない
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大勢の人たちが、良くわからない音楽に踊り狂っている。まだ昼だと言うのに酒に潰れたような客もちらほらと。よくもまあこのような場所で相談事をしようなどと思ったものだ――
クラブには似つかわしくない大型の通学鞄を背負った男、つまりスディは、フロアをフラフラと渡り歩いていた。
ダンサーたちの間を縫い歩き、時にぶつかりながら、見知った顔がないか探し続けた。どう考えても周りから浮いた行動だったが、気にする物は誰もいなかった。
(あの声は、聞き覚えがあるな)
声のする方角へ歩みを進めてみると、確かに学校でもよく騒いでいた面々がいた。
「あの、すみません、ちょっと話したい事があるんですが」
幾らか声をかけてみても、彼らはスディに見向きもしなかった。音楽よりも大きな声を張り上げてみたが駄目だった。
次は引っ張ってみるか、それとも偶然を装ってぶつかってみるか、音楽を止めるのは他の客に迷惑だろうか……
などと考えていた時、ふと下を見ると自身の靴紐がほどけているのに気が付いた。
かがんで紐を結び直そうとして、置いてある音楽機材の裏に探していた顔を見つけた。
「スディ、こっち」
彼が手招きをしたので、ばれないように積荷を崩さないように、隙間を縫ってそこに向かった。
「どうしたんだ、ずっと学校に来ていないだろう」
声をかけられた男は、はにかんで少し嬉しそうにしていた。
「いやあ、心配かけてごめんね。わざわざここまで来てくれたんだ」
一呼吸おいて、彼は続けた。
「どうも店がおかしくなったみたいでね、出ようにも他の客が邪魔をして出られないんだよ。だから、本当はこんなとこ来ちゃダメなんだけど……でも最初に誘ってるのは俺だからな。申し訳ない」
「おかしくなったって、どういうことなんだ?」
「見ればわかるだろう?皆踊ったまま他のことを何もしなくなっちゃったんだよ。もう何日もこうだ」
「それは辛かったろう。こうなった原因に心当りはあるのか?」
「原因はよくわからないけれど、パパが大きい袋を持って地下のVIPルームに入っていったから、そこで何かやってるんじゃないかな?」
「わかった。地下へ行く階段は何処に?」
「え、行くのか?絶対逃げた方がいいよ」
「でもこれをどうにかしないと出られないんだろう?」
「いや、そんなことは言ってないよ。他の客に見つからないように出ればいいじゃないか」
スディは早とちりしてしまった事を一瞬恥じたが、もう覚悟を決めた彼を止める理由にはなり得なかった。
「客が邪魔になるんだったら、やっぱり根本から何とかした方がいい。それに、」
「それに?」
「……いや、これは関係ないな。とにかく原因があるなら叩くまでだ。店の外まで追いかけられても困るだろう?」
ここに隠れていた男は、確かにそうだと言うように頷いた。
「よし、じゃあVIPルームまで案内してくれるね?」「ええっ、俺も行くの?」「当たり前だろ、あんたが誘ったから僕が巻き込まれてるんだ」「スディって見かけによらず豪胆なんだね」「御託はいい、早く行こう、ええっと……」「ヴィータ」「ありがとう。行こう、ヴィータ」
クラブには似つかわしくない大型の通学鞄を背負った男、つまりスディは、フロアをフラフラと渡り歩いていた。
ダンサーたちの間を縫い歩き、時にぶつかりながら、見知った顔がないか探し続けた。どう考えても周りから浮いた行動だったが、気にする物は誰もいなかった。
(あの声は、聞き覚えがあるな)
声のする方角へ歩みを進めてみると、確かに学校でもよく騒いでいた面々がいた。
「あの、すみません、ちょっと話したい事があるんですが」
幾らか声をかけてみても、彼らはスディに見向きもしなかった。音楽よりも大きな声を張り上げてみたが駄目だった。
次は引っ張ってみるか、それとも偶然を装ってぶつかってみるか、音楽を止めるのは他の客に迷惑だろうか……
などと考えていた時、ふと下を見ると自身の靴紐がほどけているのに気が付いた。
かがんで紐を結び直そうとして、置いてある音楽機材の裏に探していた顔を見つけた。
「スディ、こっち」
彼が手招きをしたので、ばれないように積荷を崩さないように、隙間を縫ってそこに向かった。
「どうしたんだ、ずっと学校に来ていないだろう」
声をかけられた男は、はにかんで少し嬉しそうにしていた。
「いやあ、心配かけてごめんね。わざわざここまで来てくれたんだ」
一呼吸おいて、彼は続けた。
「どうも店がおかしくなったみたいでね、出ようにも他の客が邪魔をして出られないんだよ。だから、本当はこんなとこ来ちゃダメなんだけど……でも最初に誘ってるのは俺だからな。申し訳ない」
「おかしくなったって、どういうことなんだ?」
「見ればわかるだろう?皆踊ったまま他のことを何もしなくなっちゃったんだよ。もう何日もこうだ」
「それは辛かったろう。こうなった原因に心当りはあるのか?」
「原因はよくわからないけれど、パパが大きい袋を持って地下のVIPルームに入っていったから、そこで何かやってるんじゃないかな?」
「わかった。地下へ行く階段は何処に?」
「え、行くのか?絶対逃げた方がいいよ」
「でもこれをどうにかしないと出られないんだろう?」
「いや、そんなことは言ってないよ。他の客に見つからないように出ればいいじゃないか」
スディは早とちりしてしまった事を一瞬恥じたが、もう覚悟を決めた彼を止める理由にはなり得なかった。
「客が邪魔になるんだったら、やっぱり根本から何とかした方がいい。それに、」
「それに?」
「……いや、これは関係ないな。とにかく原因があるなら叩くまでだ。店の外まで追いかけられても困るだろう?」
ここに隠れていた男は、確かにそうだと言うように頷いた。
「よし、じゃあVIPルームまで案内してくれるね?」「ええっ、俺も行くの?」「当たり前だろ、あんたが誘ったから僕が巻き込まれてるんだ」「スディって見かけによらず豪胆なんだね」「御託はいい、早く行こう、ええっと……」「ヴィータ」「ありがとう。行こう、ヴィータ」
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