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第二章
三十五話 触れられたい 後編※
しおりを挟む胸がきゅうぅ……と締め付けられると同時に下腹部が熱くなり、萎えていたものが再び熱を帯びていくのがわかった。その感覚に律樹さんの手のひらから唇を離して視線を落とす。すると案の定、さっきまでしなしなと項垂れていたそれが大きさを増しながら頭を擡げていた。
下穿きすらも身につけていない上に、足を開いた状態で律樹さんの膝の上に座っているため、恥ずかしい部分が丸見えである。固さを取り戻した俺のモノが勃ち上がっていることには、当然目の前の彼も気付いていることだろう。そう思うと少し恥ずかしくなり、咄嗟に手のひらで自分のものを隠すように掴んだ。
「弓月、Present」
「……っ」
発されたコマンドに身体はびくっと反応し、今覆い隠したばかりの手がゆっくりと離れていく。そして律樹さんによく見えるようにとほんの少しだけ背中を反らせた。
ぷるぷると小さく身体が震えている。それが羞恥からくる震えなのか歓喜からくる震えなのかは俺にもわからないけれど、体はずっとふわふわとしたままだった。
「ん、Goodboy」
頭の中で、彼の優しくて低い声が波紋を描いて広がっていく。褒められて嬉しいという気持ちがお腹の奥底から湧き上がり、自然と笑みが浮かんだ。
「……俺ももう、その、限界なんだ……けど」
「……?」
「一緒に……触ってもいい、かな?」
歯切れ悪く告げられた言葉の意味はよくわからなかったが、俺はこくりと頷いた。律樹さんなら怖いことをすることはないだろうし、俺が嫌なことをすることもないだろう。それに『一緒に』という言葉に、二人一緒だったら嬉しいなという気持ちが湧いたのだ。
俺が肯定を示したことに安堵したのか、彼はほっと息を吐いて少し強張っていた表情を緩めてへにゃりと笑った。
「じゃあ……触るね」
「……――ッ!」
そう律樹さんが声に出して触れた瞬間、今までの比じゃないくらい強い電流のようなものが一気に全身を駆け巡った。その刺激に耐えられず、俺はビクビクッと震わせながら背中を弓形に反らす。反射的に開いた口の端から溢れ落ちた唾液が首や胸を軌跡を残しながら伝っていき、そして目の前で星が瞬くよう目の奥がちかちかと光っていた。
あまりにも強い刺激だったためか、この反応が気持ち良いという感覚からきているのかは俺にはわからなかった。
震えはまだ残りつつも全身の強張りが少し落ち着いた頃、俺はそっと視線を自分の股間へと落とした。そこあったのは、上を向いて勃ち上がる自分自身とそれにピッタリとくっついている俺よりも大きな猛り、そしてそれらをまとめるように添えられた大きな手だ。
二本の猛ったモノを掴んでいる彼の手に、俺はそっと自分の手を重ねる。俺の手も仲間に入れてとでもいうように彼の手の甲をするりと指先で撫で、問いかけるように視線を上げた。視界の端で律樹さんの喉がごくりと上下するのが見えた。
「弓月、Kiss」
彼の薄くて綺麗な唇が柔らかなコマンドを紡ぐ。俺はそれに従い、今まさにコマンドを発したその口に自分のそれを押し当てた。
キスの下、律樹さんの手が俺の手を取り、俺たちの勃ち上がったものへと導いていく。触れた手のひらから熱と固さが伝わってきて、心臓がドクンッと大きく跳ね上がった。
陰茎二本に添えられた俺の手ごと包み込むように、上から律樹さんの大きな手が重なり合う。ぎゅっと纏めるように力が入ることで強く重なり合り、ぴったりとくっついた部分からぐちゅりと音が鳴った。
手の方に集中していた意識が、ふと口元に戻る。薄く開いた律樹さんの唇から現れたぬるりとした何かが俺の唇に触れた。火傷しそうなくらいに熱いそれは俺の唇の隙間をこじ開けるように押し進んでいき、口内に侵入してきた。
「……っ、……?」
より一層深く唇が重なり合い、その事実に全身が熱を帯びていく。ぬちゅ、と粘着質な水音が間から聞こえてくるのが少し恥ずかしかった。
不意に俺の手に添えられた律樹さんの手に力が籠ったかと思えば、その手が動き始めた。緩く柔く上下に扱くような動きはさっきと同じなのに、生まれる快感は全く違っていた。合わさった部分からはぐちゅ、ぐちゅという音が絶えず発生し、絶妙に気持ちの良いところを擦っていく。
あまりの快感に腰が浮いて逃げようとしたが、それよりも早く大きな手が俺の腰を掴んで引き寄せた。
「ッ……、っ……!!」
腰を引き寄せられたことで下腹部はもちろん、唇の重なり合いもより深いものになっていく。口内に侵入した熱くてぬるぬるとしたものが俺の舌を捉え、絡みついて離さない。息が出来なくて、苦しくて、目尻に浮かんだ涙が頬を伝って落ちていった。
「……っ、……」
「ん、っ……ごめん、苦しかった?」
涙に滲んだ瞳で見上げながらこくりと小さく頷くと、律樹さんはへにゃりと眉尻を下げて申し訳なさそうに謝った。彼が言葉を紡ぐたびにちらちらと見える赤い舌を見つめながら、さっき口の中に入ってきたのはこの舌だったのかと酸欠でぼんやりとする頭で思う。
上がった息もそのままに、俺の手に重なった律樹さんの手がまた上下の動きを再開した。ぐちゅっ、ぐちゅっと耳を塞ぎたくなるような音と共に生み出されるぞわぞわとした感覚に、きゅっと唇を噛み締めて耐える。
気持ちがいい、さっきよりもずっと気持ちが良くて堪らなかった。
律樹さんの熱い吐息が俯いていた顔にかかり、俺は顔を上げた。どうやら俺と同じように律樹さんの息も上がっているようだ。これは律樹さんも気持ちいいってことなんだろうかと首を傾げると、俺の視線に気付いた彼がふわりと笑った。
「ん、……気持ちいい?」
こくこくと小さく頷くと、俺もという言葉が返ってきてなんだか嬉しくなる。
俺と律樹さんのモノから溢れ出た透明な液体が、ぐちゅぐちゅと混ざり合う音を立てながら互いの性器や手を汚していく。これが潤滑油の役割をしているのか、徐々に滑りが良くなって手の動きが速さを増していく。
同時に、甘い痺れが俺を襲った。
びくっと身体が震え、無意識に腰が揺れる。
勃起した陰茎が今にもはち切れそうだった。
「弓月、Up」
「……ッ」
「……んっ……ふ、……っ」
律樹さんの唇が俺のそれを塞いだ。
呼吸を呑み込むような深い口付けにまた涙が滲む。
絶え間なく鳴る水音がだんだんとその間隔を速めていく。閉じているのに目の奥がちかちかと瞬き、涙が溢れた。
不意に唇が離れ、律樹さんの頭が俺の顔の横にくる。熱い吐息が耳殻にかかり、ぶるりと身体を震わせた。
そんな時耳に届いたのは、荒い呼吸音と共に切羽詰まったような声だった。
「っ、はぁ……っ、Cum」
「――――……ッ!!」
「くっ……は、ぁっ……」
ビクビクッと身体が痙攣すると同時に、手や腹に熱いものがかかった。あまりの気持ちよさと開放感に、頭が真っ白になって何も考えられない。
腰に添えられた律樹さんの腕に力が入り、力の抜けた俺の身体は何の抵抗もないままに律樹さんの体にもたれかかった。くっついた耳から伝わるドッ、ドッという打ち付けるような激しい鼓動に視線を上げると、どうやらこっちを見ていたらしい律樹さんの琥珀色の瞳と目があった。
「……どう、だった?」
「……」
俺はコマンドを浴びた時とはまた違ったふわふわとした感覚に包まれながら、口元を緩めた。
気持ちよかっただとか、今すごく幸せな気持ちなんだよとか言いたいことはいくらでもある。でも声にはならない。こんなに幸せで、好きな人の温かな腕の中にいるというのに、まだ何が足りないっていうんだろうな。
射精後の倦怠感が押し寄せてくる。二度も射精したことなんて今までなかったからか、俺の身体は疲労困憊と言った様子で急速に意識を閉じようとしているのがわかった。
「……眠いの?」
律樹さんの優しい声音が耳に届き、俺は小さく頷く。
「おやすみ」
触れたところが温かい。
俺はその温もりに身を任せるようにそっと目を閉じた。
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