声を失ったSubはDomの名を呼びたい

白井由貴

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第四章

八十八話 でちゃった※

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 濡れた素肌同士がぴたりと重なり合う。背中から伝わる振動は彼のものか、それとも俺のものか。濡れているせいでぴったりと肌が張り付き、いつもよりも密着度が高い。

「っ……」
 
 お腹に回った手が水面を揺らしながら俺の薄い腹部を撫でる。触れるか触れないかの微妙なラインで行き来する指先に、身体がぴくぴくと小さく反応した。
 温かいお湯で熱を帯びた身体がさらに熱を上げていく。それに伴ってか、俺のモノも同じように熱を持ち始めた。

「……!」

 手がお腹から上へと上がっていく。胸の突起を掠めるように指先が動き、思わず吐息が溢れた。男の胸なんて触ったところでなんの面白みもないはずなのに、律樹さんの指は胸の突起の周りをくるくると縁を描くように滑っていく。
 男でも胸で感じることがあるのか、それともただ俺の身体がおかしいだけなのかはわからない。けれど触れられる毎に身体の熱は増していき、頭をもたげ始めていた陰茎が固さを持ち始めていった。

 お腹を撫でていた手が止まった。そしておへその辺りで止まった指先がすうっと下へとまっすぐに下がっていく。下腹部をぐるりと一周するように滑った指先がさらに下へと向かっていく動きに、俺の喉はごくりと音を立てた。
 このまま下に進めば俺のモノに辿り着く。律樹さんの大きくて温かい手に包まれて扱かれる感覚を思い出し、下腹部が疼いた。

 しかし指先がそこに辿り着くことはなかった。透明なお湯の中で完全に勃ち上がった俺のモノがゆらゆらと揺れている。触って欲しいと言えないのがもどかしい。けれど言えないからといって、動きを止めている律樹さんの手を無理矢理そこに持っていくのは恥ずかしくて躊躇してしまう。
 暫くそのままで待っていたのだが、どうしても耐えられなくてほんの少しだけ腰を引いた。相変わらず胸に触れている指先は動いているのに、薄い下生えのところで止まった指は動かない。もう少しだけと腰を動かした瞬間、俺は目を見開いた。

(っ、これって……律樹さんの……?)

 大きくて固くて熱いモノがお尻から背中に掛けて当たっている。もしかして俺に触れることで律樹さんも興奮してくれているんだろうか。もしそうなら、すごく嬉しいなと思った。

 そういえば男同士の行為にはお尻の穴を使うと書いていたが、果たしてこの大きさのものが本当に入るのだろうか。
 きっと少し前の俺だったら怖いと思っただろうし、無理だと諦めていただろう。けれど今は入ったらいいなと思っている。もし俺の中に律樹さんの全てが入ったのなら、それは一つになれたということだ。大好きな人と一つになれるのはきっと幸せなことだろう。

 そんなことを考えていたからか、俺の身体は無意識のうちに動いていたらしい。お尻に律樹さんの猛りを擦り付けるように腰が動いていた。閉じられた穴の縁に先端や亀頭が引っかかる。しかし一度も受け入れたことがないそこは固く窄まっているため、中に入ることはない。それがひどくもどかしく感じた。

「ふふっ……腰が動いてる」

 熱の籠った吐息が耳殻にかかる。ふるりと体を震わせると、臀部に当たる律樹さんのそれがさらに固くなったような気がした。
 耳のすぐ近くで息を吐く音が聞こえた気がして横目でちらりと見てみれば、さっきよりもずっと近くに律樹さんの姿が確認できて心臓がどくんと跳ねた。俺が立てた音だったのか、それとも二人同時だったのか、ごくりと音が鳴った。
 熱くて滑りを帯びた舌がゆっくりと耳殻をなぞっていく。ぴちゃ、ぴちゃと水音が鼓膜を揺らし、その度に身体の奥底がぞくぞくと震えた。

「……触るね?」
「――ッ!」

 囁かれた言葉は疑問系だったが、俺に拒否権はなかった。まあ多分拒否権があったとしても拒否はしなかっただろうが。ゆっくりと水中を移動する律樹さんの手が、反り立った俺のモノに軽く触れる。たったそれだけの刺激だったにも関わらず、待ちに待ったそれに身体は歓喜するようにびくんっと大きく跳ねた。

 耳の形をなぞるようにねっとりと舌が這っていく。左手は相変わらず何が楽しいのか俺の乳首を掠めるように動き、右手は俺の固くなった陰茎を軽く握り、上下に動き始めた。

「……っ」
「ふふっ、ここも勃ってきたね」

 そう言った律樹さんの手が俺の乳首を柔く摘んだ。瞬間、頭が真っ白になり、背筋に電気のようなびりびりとした感覚が走った。衝撃に背中を反らし、びくびくと小刻みに身体が震える。
 
 はっ、と詰めていた息を吐き出すと同時に、俺の体から力が抜けた。くたりと背後の律樹さんの逞しい胸板に身体を預け、はふはふと浅く呼吸を繰り返す。

「……イっちゃったね?」
「っ……」

 そう言われたが、俺は今自分のことなのに頭が混乱していた。陰茎を優しく上下に扱かれていたとはいえ、今の俺は恐らく胸でイってしまったように思う。ほんの僅かに力を入れた指先が胸の突起を摘んだ瞬間、俺の中で何かが弾けたような感覚が襲ったのだ。
 さっきまで胸を弄っていた左手が、俺を落ち着かせるように髪を撫で始めた。その優しい手つきになんだか泣きたくなる。

 俺はくたりと沈み込んだ体をなんとか起こし、向きを変えて律樹さんの顔を見上げた。ごめんなさい――そう口を動かした口が彼によって塞がれる。ちゅ、と軽い音を立てて離れていく唇をぼんやりと見つめていると、眉尻を下げながら律樹さんが笑った。

「軽く洗って、出ようか」

 
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