ある時、ある場所で

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5回目〜20年前〜(悠)

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「『trois』で新しくコーヒーのメニュー増やしたんだ。多分、『ミノ・カフェ』にも負けない自信がある。」
真人の明るい声が聞こえた。俺も瞬きをして出てこようとした涙を抑えると、努めて明るい声を出した。
「へー、楽しみ。今度ご馳走してよ。」
「うん。『minori's  coffee』での修行の成果見せるよ。」

それから、なるべく4月の話題に触れないように気をつけながら、話を続けた。真人は一人っ子。俺は2人姉弟だ。聞きづらいことも敢えて聞いてみる。
「真人は…お父さんは?」
20年前に飛んだ時、母親が父親がいないって言ってた。だからか、男の人に甘えるって…。

「ずっといなかったんだけど、最近できた。」
えっ?お母さんが結婚したってこと?」
「うん、そんなとこ。今度会った時に話すよ。結構劇的な話だから…。」

「苗字は…?変わるの?」
「…う…ん、どうかな…。まだ分からない。実は昨日結婚が決まって、今日届出を出しに2人で行ってた。俺は…どうなるのかな?」
俺の家は両親が健在で、4つ離れた姉も嫁に行ってない。つか、あいつが誰かと付き合ってるなんて聞いたことない。真人にアドバイスできるような知識は皆無だった。

それから、友だちの話をしたり、好きな音楽の話を聞いたりしながら楽しい時間を過ごした。
「来週、また出来るだけ同じ時間に電話するよ。」
「うん。…待ってる。その日はずっと待ってるから、大丈夫。店を優先させて。」
よく話を聞くと、「trois」の閉店は8時だが、もちろん客が帰らなければ店を閉めるわけにはいかない。閉店が10時近くになってしまうことも珍しくないんだそうだ。

「お休み…。」
「お休みなさい。」
耳に心地よい真人の声をインプットする…。この声を今直接聞きたい。俺の腕の中で…。もうすぐそうなる日も近い。そう思いながら、電話を切った。

その晩は真人との会話を思い出しながら、幸せな気持ちで眠りについた。



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