自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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 ダークブラウンの重厚なドアには、俺の目線のちょうど下のところに「J」の文字が浮き上がっている。5㎝ほどの小さな印を照らすように、淡い照明が当てられていた。重いドアを引くと、チリンと微かなベルの音。静かにジャズが流れ、少しだけ賑やかな声が聞こえる。

「いらっしゃいませ。」
 穏やかなマスターの声が聞こえる。その声に引き寄せられるようにカウンターへ向かっていった。

「純さん、珍しいですね? お一人ですか? 哉太さんは?」
「別れた。」
「そうですか。」

 マスターにバーボンステアを頼み、腰を下ろす。マスターは無表情。哉太とはここで出会ったのだから、当然、それまでの哉太の様子を知っているわけだが、それをペラペラと喋る者ではない。ま、俺も結構ここに来て出会いを求めているから、他の奴らに吹聴されては敵わない。

「いつ?」
 マスターがコースターとともに酒を置いて口を開いてきた。

「2週間前。」
「あぁ……。」

 その表情で、あれから哉太がここに来たことが分かる。でも、詳細は語らなかったのだろう、ということも読み取れた。じゃあ、俺からももう何も言うことはない。

「誰かいい奴いない?」
「純さんは一途だし、男らしいのにどうして長続きしないんでしょう?」
「見る目がないんだろうな。」

 分かってんだろ? マスターは今までの哉太の様子を見てきたはずだ。俺よりも先に通っていたのだから。2歳年上。でも気持ちが幼くて、快楽に弱い……哉太。

「俺がもう少し、構ってやれば良かったのかな。」
 誰にも言えない弱音を、このマスターになら零すことができる。もう50代だろうか。髪は黒々としていてオールバックにし、前髪を一筋垂らしているが、俺よりはかなり上に見える。

 以前パートナーがいるのかと尋ねたら、「さて。どうでしょう?」とはぐらかされた。ほとんど毎日店を開けているのだから、独り身か? 謎だらけの人。でも、穏やかで、ここの空間は落ち着く。

 チリン

「いらっしゃいませ。」
 ドアが開き、少しだけ冷たい風が顔を撫でた。誰かが入ってきて……俺の右、1つ空けた席に座った。

「何か甘くないものを。」
 ハスキーな声。酒に口をつけながら横目で見ると、革ジャンに身を包み頭の後ろを刈り上げた小柄な男が座っていた。

「……革ジャン暑くないのか?」
 俺から話かけた。10月になって、夜は涼しくなってきたが、それでも革ジャンは暑すぎるだろ。

「……悪いか?」
 低くてハスキーな声が俺の中の何かに響いてくる。コイツはたぶんタチ。でも、気の強そうなこの目つきは唆る。

「名前は?」
 マスターが黙ったまま、ウィスキーの水割りを置くと同時に、俺からソイツに話しかけてた。

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