自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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「純!」
「ほら、鞄よこせ。持ってやるから。」

 今日はシュンの働く会社の近くまで迎えにきていた。理由は簡単、俺が休み取ったから。3時半に営業先から会社に戻った俺は、ふと思い立って時間休をもらっていた。

『何だ三田村君、珍しいな。』

 探りを入れられた部長には「少し熱がある。」と嘘をつき、4時には会社を出て家に車を置いてきた。シュンに会うために。

 シュンが嘘を言ってないか確かめたかった、というのもある。けれど、シュンは今までの奴とはちょっとだけ違った。頻繁に連絡をよこさない。

 「会いたい。」「これから来ない?」などと毎日のようにメールが届くのが常だった。……俺は連絡が無いと、こちらから追いかけたくなるらしい。シュンと前回会ったのが4日前。気がつけばシュンから1度聞いた会社の目の前で、煙草を吹かしていた。

「俺が会社までやって来て迷惑だったか?」
 シュンの手提げ鞄を持ってやり、2人で駅に向かって歩き出す。シュンのマンションは2駅向こうにある。1度行ったことがあった。

「迷惑じゃないよ! とっても嬉しい! 僕ね、会社でもカミングアウトしてるんだ。彼氏が出来たことも報告済み!」

 シュンが俺の右手にぶら下がってきた。オイオイ、最初のクールなイメージはどこに行ったんだよ? と思わなくもなかったが、まぁいい。俺に合うのはこういう奴なのかもしれない。

「へぇ、いい会社だな?」
「女ばかりだからさ、可愛がられてるよ。それに、変に言い寄られなくなってスッキリだし。」
「そうか。」
 
 シュンの会社は大手の化粧品メーカー。そこで事務と経理を担当していると聞いた。化粧品メーカーなのだから、女が多いのにも頷ける。

「男もいるんだろ?」
「うん、開発に2人かな? そして営業に3人。でも滅多に会わないんだ。」

 そして、全員が妻子持ちか彼女もちらしい。うん。会社では出会いはないわ。シュンと一緒に駅に向かう近道をしようと細い路地に入っていった。

「飯食おうぜ。メシ。」
 腹が減った。この先に焼き鳥屋があるはず。そこで一杯引っ掛けてから、帰るのもアリだろう。今日も……シュンのマンションか?

「純ーー、先に食べるのぉ?」
「腹減っただろ?」
 シュンがこれからの事に期待をしているのが明らかだ。でも、ここは公道。その声だけは止めて後に取っとけ。

 その時、目の前に手を繋いだカップルが歩いてきたのに気づいた。背が高くヒョロヒョロとした男と……帽子を被った……男? 同類か?
 
「ハハッ! カップルーー! 同じーー!」

 すれ違いざま、シュンがテンション高く叫ぶ。耳障りな声を気にする間もなく、帽子の男に目を遣る自分がいた。どこかで……どこかで会ってる。俯き加減で手を引かれている様は、ネコなのだろう。

『どこだ? どこで会った?』
 すれ違いざまに寄越した視線。あの目はどこかで……見たことがある。


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