自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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「F棟。」
 やっと出てきた言葉はそっけないものだった。こうやって見るとまつ毛が長い。唇の色は相変わらず薄い。コイツ血がたりてないんじゃないか? いや構ったことじゃないけど。

「1人?」
「うん。何か用?」

 何か用と聞かれて我に返る。茶色のダウンの中には白のVネックのニット。首元にはネックレスが光り、前回とは違うチャームが付けられていた。真っ黒な小さな丸い石。女なら花柄とか星とか色がついたものをつけるんじゃないか?

 俺はコイツに何の用事があるのだろう? 別に昼飯を一緒にと誘うわけじゃない。俺はもう食べたし。何で声をかけた?

「アンタ、タバコ吸ってたでしょ? 大学《ここ》は敷地内全面禁煙のはずだけど。」

 もう既に声をかけたことを後悔している俺がいた。若い連中の中に知った顔を見つけて、ただ嬉しくなっただけだ。

「午後は?」
「ご飯食べたら、図書館行って帰る。」
「…………。」

 午後にはまた授業があるはず。「じゃあ頑張れよ。」と言って会話を終わらせようとした俺の目算が砕け散る。真っ直ぐに見てくる視線が痛い。その目は嫌いじゃない。そっと侑の瞼が伏せられた瞬間に、言葉が独りでに飛び出ていた。

「じゃ。」
「送る。」

 また目が開かれる。もう少し見てほしいような、終わりにしたいような妙な感情が生まれていることに戸惑った。

「何?」
 もう一度紡がれた言葉に即座に決心する。もう少しだけコイツと話をしたい。

「送るよ。図書館には必ず行かなくちゃならないのか?」
「必ずってわけじゃないけど……。」
「じゃあ、この前の駅まで送るよ。俺のトラックで食べろ。新商品のジュース奢るから。」

 午後の配達はたかが知れてる。ちょっとぐらい回り道をしたところでどうということはない。それよりも、引き止めた理由、話の辻褄を合わせておこうと必死になっている俺がいた。

「襲わない?」
「ば、バカやろっ! お前なんか襲うかっ! 俺は男専門だっ!」

 上目遣いに見てきた侑の声に、思わず大声が出た。コイツ生意気だ! 何故だか5歳も年下の、しかも女に翻弄されている俺がいた。
 
「あはははっ! 声が大きいからっ。じゃお願いしまーーす。車どこ?」

 少しだけハスキーな女の声。女の声を聞くと耳障りでしょうがなかったが、何故か侑の声は気にならない。けれども恥ずかしい思いをした事に変わりはない。

 恥ずかしさを誤魔化すように踵を返して歩き出すと、侑も後ろからついてきているようだった。カシャカシャとレジ袋の音がする。購買の裏手にある道をカフェとは反対方向に歩きながら、職員や業者用に設けられた駐車場へと歩いていった。

 
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