29 / 87
ー純ー
3
しおりを挟む
「F棟。」
やっと出てきた言葉はそっけないものだった。こうやって見るとまつ毛が長い。唇の色は相変わらず薄い。コイツ血がたりてないんじゃないか? いや構ったことじゃないけど。
「1人?」
「うん。何か用?」
何か用と聞かれて我に返る。茶色のダウンの中には白のVネックのニット。首元にはネックレスが光り、前回とは違うチャームが付けられていた。真っ黒な小さな丸い石。女なら花柄とか星とか色がついたものをつけるんじゃないか?
俺はコイツに何の用事があるのだろう? 別に昼飯を一緒にと誘うわけじゃない。俺はもう食べたし。何で声をかけた?
「アンタ、タバコ吸ってたでしょ? 大学《ここ》は敷地内全面禁煙のはずだけど。」
もう既に声をかけたことを後悔している俺がいた。若い連中の中に知った顔を見つけて、ただ嬉しくなっただけだ。
「午後は?」
「ご飯食べたら、図書館行って帰る。」
「…………。」
午後にはまた授業があるはず。「じゃあ頑張れよ。」と言って会話を終わらせようとした俺の目算が砕け散る。真っ直ぐに見てくる視線が痛い。その目は嫌いじゃない。そっと侑の瞼が伏せられた瞬間に、言葉が独りでに飛び出ていた。
「じゃ。」
「送る。」
また目が開かれる。もう少し見てほしいような、終わりにしたいような妙な感情が生まれていることに戸惑った。
「何?」
もう一度紡がれた言葉に即座に決心する。もう少しだけコイツと話をしたい。
「送るよ。図書館には必ず行かなくちゃならないのか?」
「必ずってわけじゃないけど……。」
「じゃあ、この前の駅まで送るよ。俺のトラックで食べろ。新商品のジュース奢るから。」
午後の配達はたかが知れてる。ちょっとぐらい回り道をしたところでどうということはない。それよりも、引き止めた理由、話の辻褄を合わせておこうと必死になっている俺がいた。
「襲わない?」
「ば、バカやろっ! お前なんか襲うかっ! 俺は男専門だっ!」
上目遣いに見てきた侑の声に、思わず大声が出た。コイツ生意気だ! 何故だか5歳も年下の、しかも女に翻弄されている俺がいた。
「あはははっ! 声が大きいからっ。じゃお願いしまーーす。車どこ?」
少しだけハスキーな女の声。女の声を聞くと耳障りでしょうがなかったが、何故か侑の声は気にならない。けれども恥ずかしい思いをした事に変わりはない。
恥ずかしさを誤魔化すように踵を返して歩き出すと、侑も後ろからついてきているようだった。カシャカシャとレジ袋の音がする。購買の裏手にある道をカフェとは反対方向に歩きながら、職員や業者用に設けられた駐車場へと歩いていった。
やっと出てきた言葉はそっけないものだった。こうやって見るとまつ毛が長い。唇の色は相変わらず薄い。コイツ血がたりてないんじゃないか? いや構ったことじゃないけど。
「1人?」
「うん。何か用?」
何か用と聞かれて我に返る。茶色のダウンの中には白のVネックのニット。首元にはネックレスが光り、前回とは違うチャームが付けられていた。真っ黒な小さな丸い石。女なら花柄とか星とか色がついたものをつけるんじゃないか?
俺はコイツに何の用事があるのだろう? 別に昼飯を一緒にと誘うわけじゃない。俺はもう食べたし。何で声をかけた?
「アンタ、タバコ吸ってたでしょ? 大学《ここ》は敷地内全面禁煙のはずだけど。」
もう既に声をかけたことを後悔している俺がいた。若い連中の中に知った顔を見つけて、ただ嬉しくなっただけだ。
「午後は?」
「ご飯食べたら、図書館行って帰る。」
「…………。」
午後にはまた授業があるはず。「じゃあ頑張れよ。」と言って会話を終わらせようとした俺の目算が砕け散る。真っ直ぐに見てくる視線が痛い。その目は嫌いじゃない。そっと侑の瞼が伏せられた瞬間に、言葉が独りでに飛び出ていた。
「じゃ。」
「送る。」
また目が開かれる。もう少し見てほしいような、終わりにしたいような妙な感情が生まれていることに戸惑った。
「何?」
もう一度紡がれた言葉に即座に決心する。もう少しだけコイツと話をしたい。
「送るよ。図書館には必ず行かなくちゃならないのか?」
「必ずってわけじゃないけど……。」
「じゃあ、この前の駅まで送るよ。俺のトラックで食べろ。新商品のジュース奢るから。」
午後の配達はたかが知れてる。ちょっとぐらい回り道をしたところでどうということはない。それよりも、引き止めた理由、話の辻褄を合わせておこうと必死になっている俺がいた。
「襲わない?」
「ば、バカやろっ! お前なんか襲うかっ! 俺は男専門だっ!」
上目遣いに見てきた侑の声に、思わず大声が出た。コイツ生意気だ! 何故だか5歳も年下の、しかも女に翻弄されている俺がいた。
「あはははっ! 声が大きいからっ。じゃお願いしまーーす。車どこ?」
少しだけハスキーな女の声。女の声を聞くと耳障りでしょうがなかったが、何故か侑の声は気にならない。けれども恥ずかしい思いをした事に変わりはない。
恥ずかしさを誤魔化すように踵を返して歩き出すと、侑も後ろからついてきているようだった。カシャカシャとレジ袋の音がする。購買の裏手にある道をカフェとは反対方向に歩きながら、職員や業者用に設けられた駐車場へと歩いていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる