自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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「いただきまーーす!」

 勝手に助手席のドアを開けてヒョイと身軽に飛び乗った侑は、なんの遠慮もせずに買い物袋から弁当を取り出していた。

「ほら、ジュース。冷えてはいないけどな。」
「うわっ! ラ・フランス入りの天然水じゃん! 見たの初めてっ。」
「だから新発売って言ったろ?」

 荷台から持ってきたジュースを渡す。気に入ったようで良かった。ジュースをホルダーに置いて、スプーンを取り出し、麻婆丼らしき弁当を食べ始めた。

「ここ、煙草臭くないね?」

 麻婆豆腐か……久しく食べてないな。俺は激辛がいいんだが、弁当で売っている奴はどれもこれも味気ない。でも車内に広がった胡麻油の香りで、ちょっとだけ味見をしたくなった俺がいる。

 適当に返事をしながら、鞄を隔てて左に座り、美味しそうに弁当を食べる侑を観察する。スプーンに取る量が多い。でかい口を開けて旨そうに食べる。コイツは本当に変な奴だ。

「お前、旨そうに食べるな。」

 思わず声をかけてしまった。それに対する返事も気軽なものだった。オイ、お前……警戒心ゼロだな? 誰にでもそうなのか? そんな事を考えながら、昼飯はもう既に学食で済まけていたことを告げた。

「……そっか。良かった。あそこの鯖の味噌煮が超絶好き。じゅ、あ、あなたは何を食べたの?」

 コイツに「純」と呼ばれようが気にしていない俺がいる。「貴方」なんて畏まって言われる方が気持ち悪い。

「『純』でいいよ。」

 俺の優しい言葉が胸に響いたのか、左側から視線を感じる。横目で見ると、麻婆丼を食べながらこちらを見ているようだった。

「ん? 俺の顔に何かついてるか?」
「なっ、何もついてない。」

 赤信号でブレーキをかけ、止まった拍子に侑に顔を向けないようにして聞いてみる。少しだけ慌てたような侑が俺の方を見るのを止めて、一際多く掬った麻婆丼を口に入れたのが分かった。



 駅のロータリーにトラックを回す。コイツを降ろすだけならばここで充分だ。侑も直ぐに降りられるように、駅が近づくと食べ終わった容器や飲みかけのペットボトルを鞄にしまっていたようだった。

「ありがとね。」
「おい、お前……。」

 車を止めた途端にドアを開いて降りていく侑の後ろ姿に呼びかけている自分がいた。

「何?」
 ドアに手をかけた侑がこちらを見ている。俺は、俺はここで何を言うつもりだった? 何故呼び止めたのだろう? その時にふと頭に浮かんだのは、コイツと手を繋いで歩いていた男の姿だった。

「お前、彼氏と帰らなくて良かったのか? 前にすれ違った奴、あれは彼氏だろ?」

 親しそうだった。あの若さならきっとまだ学生だろ。あの後は、きっと2人で夕飯がてらホテルで……。

「大きなお世話。……もう別れたし。じゃあね? ありがと。」
 
 俺の問いかけが気に入らなかったらしい。大きな音を立てて、ドアが閉められた。ちょっとだけため息を漏らして車を出す。ロータリーから出る時に振り返ると、侑が降りた場所から動かずにこちらを見ているのが分かった。

「またな。」

 窓を開けて侑を見る。自然と紡がれた自分の言葉に驚く。また……俺はまたアイツに会いたいのだろうか? 女なのに? 女の身体なんて何一つ知らん。興味もなかった。けれども、俺の頭のどこかで侑を気にしていると認めざるを得なかった。

『アイツについてるもんがあれば最高だよな。』

 そう思いながら、それからの配達ルートに意識を切り替えることにした。


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