30 / 87
ー純ー
4
しおりを挟む
「いただきまーーす!」
勝手に助手席のドアを開けてヒョイと身軽に飛び乗った侑は、なんの遠慮もせずに買い物袋から弁当を取り出していた。
「ほら、ジュース。冷えてはいないけどな。」
「うわっ! ラ・フランス入りの天然水じゃん! 見たの初めてっ。」
「だから新発売って言ったろ?」
荷台から持ってきたジュースを渡す。気に入ったようで良かった。ジュースをホルダーに置いて、スプーンを取り出し、麻婆丼らしき弁当を食べ始めた。
「ここ、煙草臭くないね?」
麻婆豆腐か……久しく食べてないな。俺は激辛がいいんだが、弁当で売っている奴はどれもこれも味気ない。でも車内に広がった胡麻油の香りで、ちょっとだけ味見をしたくなった俺がいる。
適当に返事をしながら、鞄を隔てて左に座り、美味しそうに弁当を食べる侑を観察する。スプーンに取る量が多い。でかい口を開けて旨そうに食べる。コイツは本当に変な奴だ。
「お前、旨そうに食べるな。」
思わず声をかけてしまった。それに対する返事も気軽なものだった。オイ、お前……警戒心ゼロだな? 誰にでもそうなのか? そんな事を考えながら、昼飯はもう既に学食で済まけていたことを告げた。
「……そっか。良かった。あそこの鯖の味噌煮が超絶好き。じゅ、あ、あなたは何を食べたの?」
コイツに「純」と呼ばれようが気にしていない俺がいる。「貴方」なんて畏まって言われる方が気持ち悪い。
「『純』でいいよ。」
俺の優しい言葉が胸に響いたのか、左側から視線を感じる。横目で見ると、麻婆丼を食べながらこちらを見ているようだった。
「ん? 俺の顔に何かついてるか?」
「なっ、何もついてない。」
赤信号でブレーキをかけ、止まった拍子に侑に顔を向けないようにして聞いてみる。少しだけ慌てたような侑が俺の方を見るのを止めて、一際多く掬った麻婆丼を口に入れたのが分かった。
駅のロータリーにトラックを回す。コイツを降ろすだけならばここで充分だ。侑も直ぐに降りられるように、駅が近づくと食べ終わった容器や飲みかけのペットボトルを鞄にしまっていたようだった。
「ありがとね。」
「おい、お前……。」
車を止めた途端にドアを開いて降りていく侑の後ろ姿に呼びかけている自分がいた。
「何?」
ドアに手をかけた侑がこちらを見ている。俺は、俺はここで何を言うつもりだった? 何故呼び止めたのだろう? その時にふと頭に浮かんだのは、コイツと手を繋いで歩いていた男の姿だった。
「お前、彼氏と帰らなくて良かったのか? 前にすれ違った奴、あれは彼氏だろ?」
親しそうだった。あの若さならきっとまだ学生だろ。あの後は、きっと2人で夕飯がてらホテルで……。
「大きなお世話。……もう別れたし。じゃあね? ありがと。」
俺の問いかけが気に入らなかったらしい。大きな音を立てて、ドアが閉められた。ちょっとだけため息を漏らして車を出す。ロータリーから出る時に振り返ると、侑が降りた場所から動かずにこちらを見ているのが分かった。
「またな。」
窓を開けて侑を見る。自然と紡がれた自分の言葉に驚く。また……俺はまたアイツに会いたいのだろうか? 女なのに? 女の身体なんて何一つ知らん。興味もなかった。けれども、俺の頭のどこかで侑を気にしていると認めざるを得なかった。
『アイツについてるもんがあれば最高だよな。』
そう思いながら、それからの配達ルートに意識を切り替えることにした。
勝手に助手席のドアを開けてヒョイと身軽に飛び乗った侑は、なんの遠慮もせずに買い物袋から弁当を取り出していた。
「ほら、ジュース。冷えてはいないけどな。」
「うわっ! ラ・フランス入りの天然水じゃん! 見たの初めてっ。」
「だから新発売って言ったろ?」
荷台から持ってきたジュースを渡す。気に入ったようで良かった。ジュースをホルダーに置いて、スプーンを取り出し、麻婆丼らしき弁当を食べ始めた。
「ここ、煙草臭くないね?」
麻婆豆腐か……久しく食べてないな。俺は激辛がいいんだが、弁当で売っている奴はどれもこれも味気ない。でも車内に広がった胡麻油の香りで、ちょっとだけ味見をしたくなった俺がいる。
適当に返事をしながら、鞄を隔てて左に座り、美味しそうに弁当を食べる侑を観察する。スプーンに取る量が多い。でかい口を開けて旨そうに食べる。コイツは本当に変な奴だ。
「お前、旨そうに食べるな。」
思わず声をかけてしまった。それに対する返事も気軽なものだった。オイ、お前……警戒心ゼロだな? 誰にでもそうなのか? そんな事を考えながら、昼飯はもう既に学食で済まけていたことを告げた。
「……そっか。良かった。あそこの鯖の味噌煮が超絶好き。じゅ、あ、あなたは何を食べたの?」
コイツに「純」と呼ばれようが気にしていない俺がいる。「貴方」なんて畏まって言われる方が気持ち悪い。
「『純』でいいよ。」
俺の優しい言葉が胸に響いたのか、左側から視線を感じる。横目で見ると、麻婆丼を食べながらこちらを見ているようだった。
「ん? 俺の顔に何かついてるか?」
「なっ、何もついてない。」
赤信号でブレーキをかけ、止まった拍子に侑に顔を向けないようにして聞いてみる。少しだけ慌てたような侑が俺の方を見るのを止めて、一際多く掬った麻婆丼を口に入れたのが分かった。
駅のロータリーにトラックを回す。コイツを降ろすだけならばここで充分だ。侑も直ぐに降りられるように、駅が近づくと食べ終わった容器や飲みかけのペットボトルを鞄にしまっていたようだった。
「ありがとね。」
「おい、お前……。」
車を止めた途端にドアを開いて降りていく侑の後ろ姿に呼びかけている自分がいた。
「何?」
ドアに手をかけた侑がこちらを見ている。俺は、俺はここで何を言うつもりだった? 何故呼び止めたのだろう? その時にふと頭に浮かんだのは、コイツと手を繋いで歩いていた男の姿だった。
「お前、彼氏と帰らなくて良かったのか? 前にすれ違った奴、あれは彼氏だろ?」
親しそうだった。あの若さならきっとまだ学生だろ。あの後は、きっと2人で夕飯がてらホテルで……。
「大きなお世話。……もう別れたし。じゃあね? ありがと。」
俺の問いかけが気に入らなかったらしい。大きな音を立てて、ドアが閉められた。ちょっとだけため息を漏らして車を出す。ロータリーから出る時に振り返ると、侑が降りた場所から動かずにこちらを見ているのが分かった。
「またな。」
窓を開けて侑を見る。自然と紡がれた自分の言葉に驚く。また……俺はまたアイツに会いたいのだろうか? 女なのに? 女の身体なんて何一つ知らん。興味もなかった。けれども、俺の頭のどこかで侑を気にしていると認めざるを得なかった。
『アイツについてるもんがあれば最高だよな。』
そう思いながら、それからの配達ルートに意識を切り替えることにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる