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遭遇6 〜侑〜
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カレーの香りが漂ってきた頃に、ソファから立ち上がってキッチンへと回った。一人暮らし用に買った鍋の中で、1番大きな直径21㎝の鍋いっぱいにカレーが出来つつあった。
「美味しそう!」
「メシ。」
「いくつ食べる?」
せっかく褒めてあげたのに素っ気ない。そこから、4つの冷凍ご飯を食べるという純のために、自分の分の1つを加えて冷凍庫から取り出して、レンジのスイッチを押した。
「はい、これデザート。」
「ああ、サンキュ。」
ソファに座った純にお茶の入ったコップとみかんを1個差し出す。ソファは2人掛けだけど、隣になんて座るつもりはなかった。隣の部屋から持ってきた机の椅子を使って、自分はカウンターで食べることにしていた。
家で1番大きな皿に山盛りに盛ったカレーを食べ始める純を見て、自分も食べることにする。カレーをスプーンで1口食べる。いつもと同じ固形ルーを使っているはずなのに、違う味がした。
「美味しいっ!」
もうその一言。自分で作るカレーよりも数段コクが深くてほんのりと甘い。大きな口を開けてどんどん食べた。
「お前……彼氏できたのか?」
「えっ? 何?」
食べることに夢中になっていたから、何を訊かれたのか分からずに後ろを振り返った。純がこちらを見ている。顔を動かした視線の先には、さっき取り入れたばかりの洗濯物があった。
「これ、男物だろ? お前が着るにしてはデカ過ぎるし。」
「ああ。それ、友だちのアドバイスで始めたの。防犯用。父さんのシャツと下着と靴下。一緒に外に干してる。」
「そうか。」
またカレーに戻った純の頭越しに洗濯物を眺める。そういえば、父さんも純くらい身長があるかもしれない。
「ね、身長は何センチ?」
「俺? 俺は182かな。3には届かなかったはずだ。」
やっぱり。父さんは180㎝ちょっと。同じくらいだ。うちは母さんが1番小さいけど、それでも160はある。高校3年の弟も170を超えた。たぶんよその家と比べたら背が高い家族だと思う。
それからは特に話をするでもなく、黙々とカレーを食べ続けた。
「ご馳走さん。このみかん、美味いな?」
「でしょう? みかん好きなんだ。これは当たり。すごく安かったけど美味しい。」
自慢のみかんを褒められて嬉しくなる。ま、自分で育てたわけじゃないんだけど。自分もカレーを食べ終わり、みかんの皮を剥き始めた。産地と値段にはこだわる方。安くて甘いのに当たるととてもいい気分。酸っぱいのも好きなんだけどね?
「じゃあ、俺、帰るわ。」
グッとお茶を飲み干した純が席を立つ。慌てて1口食べたばかりのみかんを置いて自分も立ち上がった。見送らなくちゃ。
「ありがとね? 本当に美味しかった。」
「ああ。」
靴を履いた純が振り返る。何か言いたそうにしているんだけど……なに?
『!』
防ぐひまも何もなかった。頭を抱え込まれてキスされた。触れるだけにしては激しくて、こんな、こんなキスは……経験がない。
「お礼は貰った。じゃあな。」
自分の呼吸が整わないうちに、何を考えたらいいか分からないうちに、踵を返した純がドアを開けて家を出て行った。
「美味しそう!」
「メシ。」
「いくつ食べる?」
せっかく褒めてあげたのに素っ気ない。そこから、4つの冷凍ご飯を食べるという純のために、自分の分の1つを加えて冷凍庫から取り出して、レンジのスイッチを押した。
「はい、これデザート。」
「ああ、サンキュ。」
ソファに座った純にお茶の入ったコップとみかんを1個差し出す。ソファは2人掛けだけど、隣になんて座るつもりはなかった。隣の部屋から持ってきた机の椅子を使って、自分はカウンターで食べることにしていた。
家で1番大きな皿に山盛りに盛ったカレーを食べ始める純を見て、自分も食べることにする。カレーをスプーンで1口食べる。いつもと同じ固形ルーを使っているはずなのに、違う味がした。
「美味しいっ!」
もうその一言。自分で作るカレーよりも数段コクが深くてほんのりと甘い。大きな口を開けてどんどん食べた。
「お前……彼氏できたのか?」
「えっ? 何?」
食べることに夢中になっていたから、何を訊かれたのか分からずに後ろを振り返った。純がこちらを見ている。顔を動かした視線の先には、さっき取り入れたばかりの洗濯物があった。
「これ、男物だろ? お前が着るにしてはデカ過ぎるし。」
「ああ。それ、友だちのアドバイスで始めたの。防犯用。父さんのシャツと下着と靴下。一緒に外に干してる。」
「そうか。」
またカレーに戻った純の頭越しに洗濯物を眺める。そういえば、父さんも純くらい身長があるかもしれない。
「ね、身長は何センチ?」
「俺? 俺は182かな。3には届かなかったはずだ。」
やっぱり。父さんは180㎝ちょっと。同じくらいだ。うちは母さんが1番小さいけど、それでも160はある。高校3年の弟も170を超えた。たぶんよその家と比べたら背が高い家族だと思う。
それからは特に話をするでもなく、黙々とカレーを食べ続けた。
「ご馳走さん。このみかん、美味いな?」
「でしょう? みかん好きなんだ。これは当たり。すごく安かったけど美味しい。」
自慢のみかんを褒められて嬉しくなる。ま、自分で育てたわけじゃないんだけど。自分もカレーを食べ終わり、みかんの皮を剥き始めた。産地と値段にはこだわる方。安くて甘いのに当たるととてもいい気分。酸っぱいのも好きなんだけどね?
「じゃあ、俺、帰るわ。」
グッとお茶を飲み干した純が席を立つ。慌てて1口食べたばかりのみかんを置いて自分も立ち上がった。見送らなくちゃ。
「ありがとね? 本当に美味しかった。」
「ああ。」
靴を履いた純が振り返る。何か言いたそうにしているんだけど……なに?
『!』
防ぐひまも何もなかった。頭を抱え込まれてキスされた。触れるだけにしては激しくて、こんな、こんなキスは……経験がない。
「お礼は貰った。じゃあな。」
自分の呼吸が整わないうちに、何を考えたらいいか分からないうちに、踵を返した純がドアを開けて家を出て行った。
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