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ー純ー
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侑の看病をした次の日は仕事だった。少しだけ寝不足だったが、セフレと過ごす時とはまた違った充実感で一日をやり過ごした。何故かは分からない。面倒だったはずが、そういった気持ちには一切ならなかった。そして、一日休んでの今日。
『また色々新作が出てんな。つっても悩みはしないけどな。』
今日は大学への納入を済ませて、ここで昼飯を食うことにしていた。全国チェーンのコーヒー店。大学の中にもあるのが驚きだが、いいバイト先になっているようで、店員はみな若かった。
「エスプレッソ。ホットで1番デカいやつ。」
購買で買ってきた3つのおにぎりとともに美味いコーヒーが昼飯。購買のおばちゃんが唐揚げを4つ持たせてくれた。売り物にならなくなった物らしいが。まぁいい。気に入られることは良いことだ。
窓際の4人席に一人で陣取って外を眺める。まだ12時前。学生は2つ目の授業に出ている頃だ。ぽつりぽつりと1人で歩いている奴は見えるが、午後の授業に向けて早めに大学《ここ》にきて昼飯でもとろうという魂胆か。
あっという間におにぎりを平らげ、唐揚げに着手する。まだほんのりと温かい。コーヒーも美味い。唐揚げを入れた口の中にコーヒーを流し込んだ時、自分が見ている窓の傍を3人の男が歩いて行った。
『! あいつ!』
3人の中で1番背が高く痩せている奴。グレーのダウンを着込んで首に黒いマフラー。間違いない。金曜日に侑を襲った元カレだ。歩いてきた方向には図書館がある。友だちと図書館で過ごしてこれから昼飯か。
思わず立ち上がり、コーヒーを全部胃に流し込む。そして無意識に鞄を掴むと、外に出て3人を追いかけた。
「おい。」
ダラダラと歩いている奴らに追いつくのなんか簡単。1番後ろを歩く奴の肩に手をかけて振り向かせると、奴の目が大きく見開き、口を開けるのか分かった。
「ちょいと話をしようか。」
引き返して、コーヒー専門店の裏側に誘う。怪訝な顔をする仲間に「知り合いだ。」とか「先に行ってて。」とかいう言葉が聞こえた。平静を装ってるが、かなり焦っているようだ。ビビリだな。侑はよくこんな奴と付き合ってたもんだ。どこが良いんだか。
「な、な、何ですかっ! も、もう侑のことは諦めました。も、も、もう会いません!」
人目につかない裏側についた途端に、コイツが甲高い声を上げた。大丈夫なのか、人がやってくるぞ? 俺は一向に構わないが。
「諦めたかどうかが重要じゃねえよ。お前、この間やった事反省してんのか。」
「も、も、もちろん。てっ、というか何故あなたがここに?」
俺の声に幾分冷静さを取り戻したらしいヤツの声が幾分か低くなった。でも顔が真っ青だ。そんなにビビらなくても良いだろうに。
「俺? 俺は仕事。毎日来てんだよ。残念なことに。」
「お、俺。ぼ、僕はもう侑には近づかないですから!」
俺なのか僕なのかどっちだ? また甲高い声になった世間知らずのお坊っちゃま。侑と恋愛ごっこでもしてたのか? 背が高いだけで何にもできない。そんな様子が見てとれた。
「おう、そうしろ。何か企んでいたとしたら、噂はすぐに俺の耳に入る。仕事柄、ここで働いている大人とは全員顔見知りだ。少し……話をしておいた方がいいかな?」
全員顔見知りなんて嘘だがな。でもこのお坊っちゃまには通じるだろ。
「ぜ、ぜ、絶対に僕は、もう近づきませんったら!」
「ふ……ん。分かった。じゃあまたな?」
俺の言葉を聞いた途端に脱兎の如く走り出した後ろ姿を見送る。何故かさっき感じたよりグレーのダウンが小さく見えた。
『また色々新作が出てんな。つっても悩みはしないけどな。』
今日は大学への納入を済ませて、ここで昼飯を食うことにしていた。全国チェーンのコーヒー店。大学の中にもあるのが驚きだが、いいバイト先になっているようで、店員はみな若かった。
「エスプレッソ。ホットで1番デカいやつ。」
購買で買ってきた3つのおにぎりとともに美味いコーヒーが昼飯。購買のおばちゃんが唐揚げを4つ持たせてくれた。売り物にならなくなった物らしいが。まぁいい。気に入られることは良いことだ。
窓際の4人席に一人で陣取って外を眺める。まだ12時前。学生は2つ目の授業に出ている頃だ。ぽつりぽつりと1人で歩いている奴は見えるが、午後の授業に向けて早めに大学《ここ》にきて昼飯でもとろうという魂胆か。
あっという間におにぎりを平らげ、唐揚げに着手する。まだほんのりと温かい。コーヒーも美味い。唐揚げを入れた口の中にコーヒーを流し込んだ時、自分が見ている窓の傍を3人の男が歩いて行った。
『! あいつ!』
3人の中で1番背が高く痩せている奴。グレーのダウンを着込んで首に黒いマフラー。間違いない。金曜日に侑を襲った元カレだ。歩いてきた方向には図書館がある。友だちと図書館で過ごしてこれから昼飯か。
思わず立ち上がり、コーヒーを全部胃に流し込む。そして無意識に鞄を掴むと、外に出て3人を追いかけた。
「おい。」
ダラダラと歩いている奴らに追いつくのなんか簡単。1番後ろを歩く奴の肩に手をかけて振り向かせると、奴の目が大きく見開き、口を開けるのか分かった。
「ちょいと話をしようか。」
引き返して、コーヒー専門店の裏側に誘う。怪訝な顔をする仲間に「知り合いだ。」とか「先に行ってて。」とかいう言葉が聞こえた。平静を装ってるが、かなり焦っているようだ。ビビリだな。侑はよくこんな奴と付き合ってたもんだ。どこが良いんだか。
「な、な、何ですかっ! も、もう侑のことは諦めました。も、も、もう会いません!」
人目につかない裏側についた途端に、コイツが甲高い声を上げた。大丈夫なのか、人がやってくるぞ? 俺は一向に構わないが。
「諦めたかどうかが重要じゃねえよ。お前、この間やった事反省してんのか。」
「も、も、もちろん。てっ、というか何故あなたがここに?」
俺の声に幾分冷静さを取り戻したらしいヤツの声が幾分か低くなった。でも顔が真っ青だ。そんなにビビらなくても良いだろうに。
「俺? 俺は仕事。毎日来てんだよ。残念なことに。」
「お、俺。ぼ、僕はもう侑には近づかないですから!」
俺なのか僕なのかどっちだ? また甲高い声になった世間知らずのお坊っちゃま。侑と恋愛ごっこでもしてたのか? 背が高いだけで何にもできない。そんな様子が見てとれた。
「おう、そうしろ。何か企んでいたとしたら、噂はすぐに俺の耳に入る。仕事柄、ここで働いている大人とは全員顔見知りだ。少し……話をしておいた方がいいかな?」
全員顔見知りなんて嘘だがな。でもこのお坊っちゃまには通じるだろ。
「ぜ、ぜ、絶対に僕は、もう近づきませんったら!」
「ふ……ん。分かった。じゃあまたな?」
俺の言葉を聞いた途端に脱兎の如く走り出した後ろ姿を見送る。何故かさっき感じたよりグレーのダウンが小さく見えた。
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