54 / 87
遭遇7 〜侑〜
5
しおりを挟む
「…………お前、侑か?」
とにかく驚いて声が出なかった。お互いに数秒間見つめ合ってたと思う。先に口を開いたのは、純だった。
「……うん。」
純の胸の辺りに視線を落として答える。純は真っ黒な革ジャンに中には茶色のニットを着ていた。何故かその色とVネックのデザインが、自分のTシャツと同じに見える。あの日、熱が出た時に着替えさせてもらったやつ。
「おい、こっちを見ろよ。」
顔を上げると真剣な目をした純の視線とぶつかった。純の左耳に銀色のリング……ピアスをしてる。純がゆっくりと口元に手を持ってきた。
「お前、可愛いな。」
胸の奥がズキンと痛む。何故痛むのか言葉にできない。でもここにはいられない、いや、いたくない。
「そう? じゃ。」
素っ気ない返事を返して傍をすり抜けようとした。早く帰りたい。自分のアパートで着替えて、お気に入りの音楽でもかけて本を読みたい。でも、そうはいかなかった。
「待てよ。」
腕を掴まれた。もう何が何だか自分でも分からずに、振り向きざまに自然と大声を上げていた。
「離してよっ! 離せっ!」
涙が出てくる。手を振り解こうとしても、純の力の方が優って思うようにいかなかった。純に腕を引き寄せられる。よろけた拍子に純の胸に飛び込むような形になった。
「何泣いてんだ。ん?」
鎖骨から純の声が聞こえる。右手で頭を抱え込まれた。そして左手で自分の体が引き寄せられていた。純の言葉で、自分が泣いていたことに気づく。
「何でもないから。離して。」
自由になる左手で純を押して剥がそうとするけどうまくいかない。ガッチリと抱え込まれて身動きが取れなかった。
「泣いてる理由を話したらな。何? また元カレにでも会ったのか?」
「違う。」
そんなんじゃない。そうなんじゃなくて。
「じゃあ何?」
「外見で決められたくない。」
自然と言葉が出ていた。そう、自分は可愛く見せたいわけじゃない。普段はジーンズだし。むしろその方が自分らしいとさえ思ってるし。
でも、その気持ちがどこから来ているのかが分からないんだ。男に間違われることが嫌ではないけど、違うと思う。スカートを履いて可愛いと言われても、違うと思う。……自分自身の心がどこにあるのかが分からないの。
「あぁ、何? 今日はスカートだからってか? 可愛いって俺が言ったから?」
純の言葉に首を振る。そうなんだけど、そうじゃない。なんて言ったらいいか分からない。
「何だ? ……少し話してみないか? 聞くだけならできるかもだぞ?」
純の言葉が温かかった。自分でも分からないこの気持ち。純になら話してもいいかな、そんなふうに思った。
とにかく驚いて声が出なかった。お互いに数秒間見つめ合ってたと思う。先に口を開いたのは、純だった。
「……うん。」
純の胸の辺りに視線を落として答える。純は真っ黒な革ジャンに中には茶色のニットを着ていた。何故かその色とVネックのデザインが、自分のTシャツと同じに見える。あの日、熱が出た時に着替えさせてもらったやつ。
「おい、こっちを見ろよ。」
顔を上げると真剣な目をした純の視線とぶつかった。純の左耳に銀色のリング……ピアスをしてる。純がゆっくりと口元に手を持ってきた。
「お前、可愛いな。」
胸の奥がズキンと痛む。何故痛むのか言葉にできない。でもここにはいられない、いや、いたくない。
「そう? じゃ。」
素っ気ない返事を返して傍をすり抜けようとした。早く帰りたい。自分のアパートで着替えて、お気に入りの音楽でもかけて本を読みたい。でも、そうはいかなかった。
「待てよ。」
腕を掴まれた。もう何が何だか自分でも分からずに、振り向きざまに自然と大声を上げていた。
「離してよっ! 離せっ!」
涙が出てくる。手を振り解こうとしても、純の力の方が優って思うようにいかなかった。純に腕を引き寄せられる。よろけた拍子に純の胸に飛び込むような形になった。
「何泣いてんだ。ん?」
鎖骨から純の声が聞こえる。右手で頭を抱え込まれた。そして左手で自分の体が引き寄せられていた。純の言葉で、自分が泣いていたことに気づく。
「何でもないから。離して。」
自由になる左手で純を押して剥がそうとするけどうまくいかない。ガッチリと抱え込まれて身動きが取れなかった。
「泣いてる理由を話したらな。何? また元カレにでも会ったのか?」
「違う。」
そんなんじゃない。そうなんじゃなくて。
「じゃあ何?」
「外見で決められたくない。」
自然と言葉が出ていた。そう、自分は可愛く見せたいわけじゃない。普段はジーンズだし。むしろその方が自分らしいとさえ思ってるし。
でも、その気持ちがどこから来ているのかが分からないんだ。男に間違われることが嫌ではないけど、違うと思う。スカートを履いて可愛いと言われても、違うと思う。……自分自身の心がどこにあるのかが分からないの。
「あぁ、何? 今日はスカートだからってか? 可愛いって俺が言ったから?」
純の言葉に首を振る。そうなんだけど、そうじゃない。なんて言ったらいいか分からない。
「何だ? ……少し話してみないか? 聞くだけならできるかもだぞ?」
純の言葉が温かかった。自分でも分からないこの気持ち。純になら話してもいいかな、そんなふうに思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる