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遭遇7 〜侑〜
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「どこに行くつもりだったんだ?」
「……バス停。」
体が離れて純の手が両肩に添えられ、顔を覗き込まれた。ハンカチを出して顔を拭いながら返事をした。
「ほら、鼻をすすり上げてばかりいないで。」
「持ってる。」
差し出されたポケットティッシュを無視して、さっき貰ったばかりのティッシュを取り出し、自分で鼻水の処理をした。
「送る。俺の車で送るよ。俺の家はここの近くだ。話を聞かせろ。」
送ってもらっていいの? それともバスで1人で帰るべき? 頭の整理はできなかったけれど、何故か1人になるより誰かと一緒にいたい。そんな気持ちになって、体の向きを変えて歩き出した純の後を素直に追い始めた。
「こっち。」
モールの裏側は表と比べて、駐車スペースが少なく道路が近い。植え込みの隙間から道路に出て、こちら側のバス停を過ぎたところにある横断歩道を渡り、向かい側にあるバス停へと歩いていった。
『ここは……。』
そうだ。和樹と別れた後に杏と過ごした公園。そしてここで、また純と会ったんだ。
あの時たくさん落ちていた枯れ葉は綺麗に掃き清められていて、深紅の遊歩道がしっかりと見えていた。木々は丸裸になって、緑といえば低木のビャクシンだけ。純が歩を緩めて自分に並ぶ。
「で? どうした。」
純の声が優しく響く。何となく安心できるようになった純の声。今日のことを、さっきモールでナンパされたことから話してみることにする。でも、うまく伝えるには……。
「自分ね、スカートを履くのって稀なの。」
「そうだろうな。大学じゃいつもジーンズだろ。」
大学であったのは、2回? そうだね、どちらもブラックジーンズだったような気がする。
「スカートは誰かに見せたいんじゃなくて、その時の気分で履くの。」
「ほう。今日はそんな気分だったわけだ。」
頷きながら前を見る。杏と2人で座って話し込んだ噴水前のベンチが見えてきた。そしてここで逃げようとした純に腕を掴まれて……。急に一昨日のキスを思い出す。そしてさっきのハグ。急激に顔が熱くなるのを感じて、気を紛らわすように言葉を紡いだ。
「杏と会っていたんだけど。」
「杏って誰?」
杏を知らないのはしょうがない。初めて会った時、台車にぶつかった時に一緒にいた子だと話をすると、すぐに純は納得した。
「ああ、なるほど。それで?」
「杏と別れて少し買い物でもしようかなって思った時に、声をかけられたの。『可愛いね。一緒にコーヒー飲まない?』って。」
「誰に?」
純の声が急に低くなった。噴水を回り込みながら隣を見ると、純が真っ直ぐ前を向きながら難しそうな顔をしていた。
「結構頻繁にあるんだ。女の子らしい格好をした時に声をかけられる。そして毎回思う。外見だけで判断するなって。」
横顔を見ながら話を続ける。純が顰めっ面のまま、こちらを見てきた。
「だから、誰に声をかけられたんだ。」
「……バス停。」
体が離れて純の手が両肩に添えられ、顔を覗き込まれた。ハンカチを出して顔を拭いながら返事をした。
「ほら、鼻をすすり上げてばかりいないで。」
「持ってる。」
差し出されたポケットティッシュを無視して、さっき貰ったばかりのティッシュを取り出し、自分で鼻水の処理をした。
「送る。俺の車で送るよ。俺の家はここの近くだ。話を聞かせろ。」
送ってもらっていいの? それともバスで1人で帰るべき? 頭の整理はできなかったけれど、何故か1人になるより誰かと一緒にいたい。そんな気持ちになって、体の向きを変えて歩き出した純の後を素直に追い始めた。
「こっち。」
モールの裏側は表と比べて、駐車スペースが少なく道路が近い。植え込みの隙間から道路に出て、こちら側のバス停を過ぎたところにある横断歩道を渡り、向かい側にあるバス停へと歩いていった。
『ここは……。』
そうだ。和樹と別れた後に杏と過ごした公園。そしてここで、また純と会ったんだ。
あの時たくさん落ちていた枯れ葉は綺麗に掃き清められていて、深紅の遊歩道がしっかりと見えていた。木々は丸裸になって、緑といえば低木のビャクシンだけ。純が歩を緩めて自分に並ぶ。
「で? どうした。」
純の声が優しく響く。何となく安心できるようになった純の声。今日のことを、さっきモールでナンパされたことから話してみることにする。でも、うまく伝えるには……。
「自分ね、スカートを履くのって稀なの。」
「そうだろうな。大学じゃいつもジーンズだろ。」
大学であったのは、2回? そうだね、どちらもブラックジーンズだったような気がする。
「スカートは誰かに見せたいんじゃなくて、その時の気分で履くの。」
「ほう。今日はそんな気分だったわけだ。」
頷きながら前を見る。杏と2人で座って話し込んだ噴水前のベンチが見えてきた。そしてここで逃げようとした純に腕を掴まれて……。急に一昨日のキスを思い出す。そしてさっきのハグ。急激に顔が熱くなるのを感じて、気を紛らわすように言葉を紡いだ。
「杏と会っていたんだけど。」
「杏って誰?」
杏を知らないのはしょうがない。初めて会った時、台車にぶつかった時に一緒にいた子だと話をすると、すぐに純は納得した。
「ああ、なるほど。それで?」
「杏と別れて少し買い物でもしようかなって思った時に、声をかけられたの。『可愛いね。一緒にコーヒー飲まない?』って。」
「誰に?」
純の声が急に低くなった。噴水を回り込みながら隣を見ると、純が真っ直ぐ前を向きながら難しそうな顔をしていた。
「結構頻繁にあるんだ。女の子らしい格好をした時に声をかけられる。そして毎回思う。外見だけで判断するなって。」
横顔を見ながら話を続ける。純が顰めっ面のまま、こちらを見てきた。
「だから、誰に声をかけられたんだ。」
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