自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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「どこに行くつもりだったんだ?」
「……バス停。」

 涙でぐしゃぐしゃになった顔。それでも侑は侑だった。いつもと違う雰囲気なのは化粧をしているからなのか? 女っていうのは分からん。口紅は塗っていることは一目で分かったが……。

 アパートに帰るつもりなのだろう。バス停に行くという侑に、送ると声をかける。少しだけ躊躇していた様子の侑が、俺の後について歩き出した。それでいい。チラチラと後ろを伺いながら、公園まで誘導してきた。

「で? どうした。」

 公園の遊歩道に入り、人がいなくなったところで口を開く。この先には、あの大きな桜の木がある。侑が男だと思って追いかけた。そうだ、あの時は本気で侑を落としてもいいと感じたんだ。

「自分ね、スカートを履くのって稀なの。」

 隣を歩く侑の足元に目を落とす。ヒラヒラしたラクダ色の布が俺の足にもフワフワと当たっていた。

「そうだろうな。大学じゃいつもジーンズだろ。」

 いつ見ても似たような服装だろ? 色の違いはあるが、ブラックジーンズかまたは深い色のブルー。形も同じか? あれ? 細いジーンズを履いていたこともあったか?

「スカートは誰かに見せたいんじゃなくて、その時の気分で履くの。」
「ほう。今日はそんな気分だったわけだ。」

 侑の横顔を見ると頷きながら前を見るのが分かった。スカートとズボンを、いつどこで履くのかがそんなに重要だとは知らなかった。ま、気分で履くというのは分かるか。俺だってお気に入りの革ジャンは、キメたい時にしか着ないしな。

「ああ、なるほど。それで?」

 侑の話をぼんやりと聞きながら、何故侑が泣いたのか理解しようと脳みそを働かせた。しかし、さっぱり分からない。やはり「女」なのか? 俺には理解できないって?

「杏と別れて少し買い物でもしようかなって思った時に、声をかけられたの。『可愛いね。一緒にコーヒー飲まない?』って。」

「誰に?」
 急に侑の言葉が脳味噌を貫いた。可愛いね……? 一緒に……コーヒー、だと?

「結構頻繁にあるんだ。女の子らしい格好をした時に声をかけられる。そして毎回思う。外見だけで判断するなって。」

「だから、誰に声をかけられたんだ。」

 いかん。自分でも不機嫌丸出しなのが分かる。相手が誰であれ、取って返して殴りに行きたい衝動が湧いてくるのを抑えられなかった。でも何故そんな気持ちになるのかが全く分からずに混乱した。

「どこかの店員さん。」

 店員? 客の若造じゃなくて店員だって? それなら、また侑がモールに来たなら狙われるじゃないか!

「チッ。」

 自然に出た舌打ち。頭の中では、今度侑がモールに行くという時には絶対についていくから教えろよ。俺が殴ってやるからな? そんなふうに侑に話しかけていた。しかし、何かが違うような気がして口からは出てこなかった。


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