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それからの遭遇 また! 〜侑〜
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「いや、いい買い物したわ。」
3月の初め、自分は杏と待ち合わせて平日にショッピングモールに来ていた。杏はつわりが酷かった一時期を除いて頑張って学校に来ていた。そして4年になると同時に1年間の休学。残りは卒論だけなんだけど、指導してもらう教授にも了承を取ってきたらしい。
「まだ、男の子か女の子か分からないんだよね?」
1階にあるコーヒーのチェーン店に入り、注文したチョコレートドリンクを前にして杏に話しかけた。山盛りのホイップクリームを掬って口に入れる杏を見ながら、隣に置いた買い物袋に目をやる。中にはクリーム色で、白いレースがヒラヒラついた赤ちゃんの洋服が入っていた。
「そう。だからこの色にしたんだし。でもめっちゃ可愛くない?」
つわりが嘘のように無くなったという杏が笑顔を見せた。今日はちょっとだけ買い物にお付き合い。彼氏が今度就職する会社に1週間の事前プログラムに参加することで、寂しくなったらしい。
買い物袋の中のロンパース。白い花が一面に散りばめられている。絶対に女の子を意識して作られたと思うんだけど。
「可愛い。」
可愛いことには間違いはない。それに杏の好みそうな柄だし。杏は1月に入籍して小田原から飯塚に苗字が変わった。小田原さんなんて呼んでいたのは1年の頃だけだから、不便ではないんだけどちょっとだけ違和感。
『苗字といえば……。』
「よう侑。そして杏さん、こんにちは。」
斜め後ろから声がして振り向くと、そこに普段着を着た純が立っていて自分の頭にキスしてきた。
「純! どうしてここにいるの?」
「きゃあ、三田村さん!」
驚く自分とは裏腹に杏が満面の笑顔になった。結局、杏に相談することなく付き合うことになった自分たちだけど、杏にはあの後すぐに報告していた。
『えっ? あのイケメンさんと? えっ? 和樹君が……どうして?』
案の定、杏のいない間のエピソードの数々を話すととても驚いていたけど、いつまでも隠せるもんでもないしね。何せ。
「どうしてって、隔週の水曜日は休みだって話しただろ? 侑が聞いちゃいないんだ。今日は杏ちゃんと会うんだって浮かれてて、俺の話きいちゃくれねぇ。」
そう。水曜日は杏と授業が被らないこともあって、いつも純とお昼を食べてた。たまに学食で。たまに大学近くのレストランに連れて行ってもらって。そういえば、スーツの時もあったし、普段着の時も……。聞いていたのに忘れてた。
「杏ちゃん、知ってた? コイツの名前、侑香っていうんだぜ?」
「知ってたーー!」
夕べのことを思い出して顔が熱くなる。ぽろっと口にした自分の名前。何気なく話した言葉に純が過剰反応してた。
「付き合ってクリスマスもバレンタインも一緒に過ごしたのに、本名を隠してたってどうよ?」
「か、隠してたわけじゃないし。」
「侑香」という名前が嫌いなわけじゃない。ただ「侑」と呼んでもらえた方がしっくりくるってだけで。
「ま、お仕置きしといたけどな。」
「いいから、もうあっちに行って!」
純のお腹にグーパンを入れる。杏の前で恥ずかしすぎる。「きゃははっ。」と笑う杏と「あははっ。」と笑う純の声が重なった。
「じゃあ買い物してから帰るわ。ゆっくりしてて? 杏ちゃん、車で送るよ。俺の家近いから。侑? 連絡よこせよ?」
また頭にキスをしてきた純のおかげで、顔が沸騰しそうだった。店の中はほぼ満席。お客さんが全員こちらを見ているような気がする。
でも、あからさまな純の愛情表現は嫌いじゃない。黙って頷くと、満足したようににっこり笑った純が、ポケットに手を突っ込んで店を出て行った。
3月の初め、自分は杏と待ち合わせて平日にショッピングモールに来ていた。杏はつわりが酷かった一時期を除いて頑張って学校に来ていた。そして4年になると同時に1年間の休学。残りは卒論だけなんだけど、指導してもらう教授にも了承を取ってきたらしい。
「まだ、男の子か女の子か分からないんだよね?」
1階にあるコーヒーのチェーン店に入り、注文したチョコレートドリンクを前にして杏に話しかけた。山盛りのホイップクリームを掬って口に入れる杏を見ながら、隣に置いた買い物袋に目をやる。中にはクリーム色で、白いレースがヒラヒラついた赤ちゃんの洋服が入っていた。
「そう。だからこの色にしたんだし。でもめっちゃ可愛くない?」
つわりが嘘のように無くなったという杏が笑顔を見せた。今日はちょっとだけ買い物にお付き合い。彼氏が今度就職する会社に1週間の事前プログラムに参加することで、寂しくなったらしい。
買い物袋の中のロンパース。白い花が一面に散りばめられている。絶対に女の子を意識して作られたと思うんだけど。
「可愛い。」
可愛いことには間違いはない。それに杏の好みそうな柄だし。杏は1月に入籍して小田原から飯塚に苗字が変わった。小田原さんなんて呼んでいたのは1年の頃だけだから、不便ではないんだけどちょっとだけ違和感。
『苗字といえば……。』
「よう侑。そして杏さん、こんにちは。」
斜め後ろから声がして振り向くと、そこに普段着を着た純が立っていて自分の頭にキスしてきた。
「純! どうしてここにいるの?」
「きゃあ、三田村さん!」
驚く自分とは裏腹に杏が満面の笑顔になった。結局、杏に相談することなく付き合うことになった自分たちだけど、杏にはあの後すぐに報告していた。
『えっ? あのイケメンさんと? えっ? 和樹君が……どうして?』
案の定、杏のいない間のエピソードの数々を話すととても驚いていたけど、いつまでも隠せるもんでもないしね。何せ。
「どうしてって、隔週の水曜日は休みだって話しただろ? 侑が聞いちゃいないんだ。今日は杏ちゃんと会うんだって浮かれてて、俺の話きいちゃくれねぇ。」
そう。水曜日は杏と授業が被らないこともあって、いつも純とお昼を食べてた。たまに学食で。たまに大学近くのレストランに連れて行ってもらって。そういえば、スーツの時もあったし、普段着の時も……。聞いていたのに忘れてた。
「杏ちゃん、知ってた? コイツの名前、侑香っていうんだぜ?」
「知ってたーー!」
夕べのことを思い出して顔が熱くなる。ぽろっと口にした自分の名前。何気なく話した言葉に純が過剰反応してた。
「付き合ってクリスマスもバレンタインも一緒に過ごしたのに、本名を隠してたってどうよ?」
「か、隠してたわけじゃないし。」
「侑香」という名前が嫌いなわけじゃない。ただ「侑」と呼んでもらえた方がしっくりくるってだけで。
「ま、お仕置きしといたけどな。」
「いいから、もうあっちに行って!」
純のお腹にグーパンを入れる。杏の前で恥ずかしすぎる。「きゃははっ。」と笑う杏と「あははっ。」と笑う純の声が重なった。
「じゃあ買い物してから帰るわ。ゆっくりしてて? 杏ちゃん、車で送るよ。俺の家近いから。侑? 連絡よこせよ?」
また頭にキスをしてきた純のおかげで、顔が沸騰しそうだった。店の中はほぼ満席。お客さんが全員こちらを見ているような気がする。
でも、あからさまな純の愛情表現は嫌いじゃない。黙って頷くと、満足したようににっこり笑った純が、ポケットに手を突っ込んで店を出て行った。
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