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第一章 始まりと出会い
伯父の暴挙
しおりを挟むその日の夕食を終えて、俺が部屋に居たときだった。
遠慮なくガチャリとドアノブが回り、突然伯父が部屋に押し入ってきた。
「っ!……なんの用ですか…?」
部屋に鍵はなく、それこそいつでも部屋に侵入可能だ。
めったに俺の部屋を訪ねてこない伯父の突然の訪問に、俺はイヤな予感がした。
今日は、叔母は友人と一緒に旅行に行っていない。
この家には俺と伯父の二人だけだ。
俺は椅子から立ち上がり、ドア付近で伯父を留まらせようと試みたが、下卑た笑みを顔に貼り付けながら、伯父は俺に遠慮なく近づいてくる。
その勢いに思わず後ずさりをした。
「この日を待っていたぞ。」
そう言うと、思い切り俺の肩を押して、ベッドに俺を倒れさせた。
咄嗟のことで身体が反応できないでいると、俺の身体に伯父のだらしなく太った身体がのし掛かってくる。
驚いて固まっている俺を、はぁ、はあと息を興奮した様子で見下ろしている。
「……やっとお前を抱ける。」
その言葉で、俺は全身の血がさぁと引いていくのが分かった。伯父が何をしようとしているのか理解したとき、身体全体に悪寒が走って震えが止まらない。
この、俺を見ている目は、伯父が母を見ていた時とよく似ている。
粘っこくて纏わりつくような、下卑た視線。
幼心にも、気持ちが悪い、何かおかしいと感じていた。
一緒に暮らしていた時も、俺に向ける視線が下卑た視線になっていたことが度々あった。
だから、伯父のことは苦手だったのだ。
母は美しく、たおやかな女性だった。
そして、俺はその母親に似た顔をしている。
俺を引き取ったのは、つまり、そういうことだったのだろう。
同じ男同士で、そんなことありえないと思っていた。
ましてや、母に面影だけが似ているだけで、俺は母のようにものすごく綺麗と言うわけではない。
でも、伯父は母の面影があるものであれば、
なんでも良かったのだろう。
最初から、俺を母の身代わりにするつもりだったのだ。
「くっ…!離せ!やめろ!」
身を捩って掴まれていた腕を何とか振り払う。
伯父の顎を右手で強打し、伯父の身体がぐらついた隙を突いて床に落とした。そのまま部屋を飛び出し、玄関から境内に向かって走り出す。
後ろからは伯父の叫ぶ声が聞こえてきたが、それでも必死に逃げた。足先は自然と宝物庫に向かっていた。
薄暗い境内を夢中になって逃げ、宝物庫が目の前に見えてくる。
不思議なことに、宝物庫の扉が片側だけ開いていた。
俺は無我夢中で中に入ると、鍵を内側から施した。念のため扉に棒を挟んで開けられない様にする。
「おい!開けろ!逃げても無駄だ!」
伯父が叫びながら激しく扉を叩く。伯父の声も一文字も聞きたくない。耳を塞いで聞こえないようにした。
力が抜けて、壁を背中につけたあとに、ズルズルと床に尻餅をつく。俺は、隅の暗がりで小さくなった。
逃げるのに必死だったためか、恐怖と嫌悪が一気に身体を支配した。ブルブルと小刻みに震えて、上手く力が入らない。
気持ち悪い。汚い。
ぶるりっと悪寒がして、自分の身体を両手で抱き締める。
はぁ、はぁ、と息苦しい呼吸をしながら、ただ時間が過ぎるのをじっと待った。
気がつくと、外から聞こえていたはずの声は静かになっていた。
伯父が諦めたのか、それとも倉の前で待ち伏せをしているのか……。
高い位置にある窓から、僅かな月の光が差し込み、宝物庫内を照らしている。
ここで、俺は父の膝の上で書物を読み聞かせてもらったり、母には内緒の男同士の話をしたものだ。
宝物庫の中は、売り払われてほとんど残っていないが、父との思いでは詰まっている。
今の俺が唯一、逃げれる場所。
俺は光の当たっている場所まで移動すると、身体を横にして丸まった。瞼の裏が熱を持ち始めて、視界が滲んでいく。
もう、何もかも疲れてしまった。
両親に会いたい。
優しかった両親。父は稽古の時は厳しかったが、その分たくさん甘やかしてくれた。
母は穏やかで、温かな無償の愛で包み込んでくれた。
家族であった祖父母たちも、いつも俺を見守ってくれた。ささやかな暮らしの中で、とても温かくて幸せな家庭だった。
「…父さん、母さん……。会いたい…。」
瞼を閉じて、父と母の面影を思い出す。このまま、会えないだろうか。
ポロポロと溢れる涙が止まらない。
泣き疲れた俺は、そのまま眠ってしまったようだ。そのあとのことはもう覚えていなかった。
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