不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

文字の大きさ
7 / 136
第一章 始まりと出会い

水月の泉と舞

しおりを挟む



俺たちは、次の目的地である水の精霊アイルの棲み処を目指していた。木の精霊ポムフルールに貰った地図では、もうそろそろ棲み処に到着するはず……。

 
棲み処に近づくにつれて、邪気は一層濃くなってどんよりとした重いものになっていく。時々立ち止まって浄化の呪文を唱えながら進んでいた時だ。

ふよふよと水色の光が目の前を通り過ぎたかと思うと、また戻ってきて今度は俺の目の前でピタリと止まった。
 
それは、小さな精霊たちだった。子供のような見た目で、服の星型の襟部分に水色で雫型の飾りがついている。水色の光の色から考えて、水精霊たちだろう。

相変わらず楽しそうに『まいひめー』『くろわんこもいるー』とはしゃいでいる。


『くろわんこじゃないし!狼だし!』

俺の左肩に乗っていたコマは、キャンっと鳴きながら精霊たちに反論する。
一人の精霊がコマの頭の上に寝そべって『もっふもふー!きもちよいー。』と頬ずりしていた。もうやりたい放題だ。


というか、俺の肩で休んで楽してるんじゃない。
黒狼、自分で歩きなさい。


俺は小さな水精霊たちに『こっちにきてー』『アイルのおうちは、こっちだよー』と言われ、手で招かれる。精霊たちの後を追いながら、俺たちは森を進んだ。

 
突然、鬱蒼とした森が無くなり視界が広がった。

そこには、月明かりを反射し揺らめき、静かに佇んでいる泉が姿を現した。


静寂な森の中に、清らかで凛とした空気が漂う。

泉の周りには乳白色の、風船に似た膨らんだ小花を、たくさんつけた植物が咲いていた。
日本でいうところの、スズランみたいな可愛らしい花だ。ゆったりと風に靡いて、鈴のように揺れている。

水の色は美しく澄んだ水色で、泉の底が見えるほどだ。泉の中心からはコポコポと水が湧き出ていた。


幻想的な風景に思わず見惚れて、立ち尽くす。


「……綺麗だ。」

『ふふっ。ありがとう。』

ふと、頭上からクスクスと笑い声が聞こえて、驚いて声が聞こえたほうを仰ぎ見る。

光を靡かせて、泉の色と同じ水色の髪、瞳と目が合った。柔らかい布を幾重にも重ねた、長い裾は足先までも隠していた。


男がいる場所は、自分の上空。
つまり空に浮いていた。


そのまま、男は泉の水面の上にふっと降り立つ。水面に沈むことはなく立っている。男が足先で触れた水面には波紋が広がり、小さく揺らしていた。
それはとても神秘的で美しい、清らかな存在だった。

 
『初めまして、ミカゲ。私は水精霊アイル。君の踊りはとても綺麗だと聞いているよ。ねえ、ぜひ踊っていってよ。』

アイルはそう言うと、ふふっとまた微笑んだ。

先ほど俺たちを案内した水精霊たちが、わらわらとアイルの側に寄って行き、『まいひめ、つれてきたー。』『ワンコもつれてきたー』と口々に報告している。

アイルは精霊たちを褒めながら、楽しそうに微笑み俺の両手を握った。

 
『他の精霊たちが自慢してくるから、つい見たくなっちゃったんだ。だから、いいでしょ?』

見かけによらず、アイルは少し強引でマイペースな性格のようだ。口をほんの少し尖らせて、子供のように舞をせがんでくる。

 
浄化の仕方は、舞でも可能であることは実証済みだ。自分自身も、こんなに綺麗な場所で舞うことができるなんて光栄だった。

 
「分かった。」

俺は一つ頷いて、アイルに了承の意を伝える。


『やった!じゃあ、せっかくだから舞台を用意しようね。』

そういうと、アイルは俺の両手を引いて泉の中心に向かって歩き出した。俺は手を引っ張られて、片足を泉に向けて踏み出す。

俺の片足が泉の水面に触れたとき、足先から波紋が広がっていく。泉に浸ることがなかった片足は、床に足を着いたように水面に着地した。

俺が驚いて目を丸くしていると、アイルは悪戯が成功したかのように、楽しそうな笑い声をあげた。


すごい。俺たちは水面を歩いている。
俺の後ろからは、てちてちとコマがついてきていた。


月の光に照らされて静かに輝く水面を、水精霊と俺と、黒色の精獣が波紋を作りながら歩いていた。

 
『ここで踊ってほしいな。ちょうど月明かりが綺麗でしょ?』

スポットライトのように、満月の青白い光が水面に映っている。その中心に立たされ、波紋で水月が僅かに歪んだ。

コマはアイルに抱き上げられて、大人しくしている。


水の精霊にちなんで、水流の舞をしよう。
マジックバックから舞用の道具一式と取り出した。
羽織と扇子、腕輪だ。


羽織は俺専用に誂えられたもので、白地が裾に広がるにつれて、夜空を思わせる暗い紺色へ変わっていく。見事なグラデーションの染め物だ。

所々に雪や氷をを思わせる結晶が、銀糸であしらわれている。動くと光を反射して、時折キラリと輝くのが美しい。

 
扇は羽織にあわせた紺色に、雪の花と蔦模様が銀色で細やかに描かれている。

金の腕輪は小さな楕円形の薄い金属が数枚ついていて、舞で動くとシャランっと涼やかな音が鳴った。

 
舞の準備ができたところで、俺は一度深く息を吸い込んで深呼吸をした。

そして、両方の羽織の袖口を持ち上げて口元に持っていった。

これが、水流の舞を踊るときの始まりの姿勢。


水は静と動。

滝のような壮大な水流を思わせる大胆な動きと、静かな水面を思わせる滑らかな動き。

水面を蹴り上げると、水しぶきが遊び、扇からも水が弧を描くように放たれる。舞で水面に足が触れる度に、波紋状に浄化の風も広がっていった。

 
水精霊たちが舞に合わせて、淡い水色の光で、俺の周りをふわりっと飛んでいる。
その光が鏡のように水面に映って、綺麗だった。


両手を広げて、一度片足で踏み鳴らす。
舞を踊り終えて、森の静寂が戻った。

泉の水が透明な水が僅かに光っている。泉周辺の森も黒い靄が晴れている様子が分かった。今回もちゃんと浄化出来たことに安堵した。

 
そして、やはり淀んだ泥のような邪悪な魔石の気配を感知する。
肌が粟立つような、全身に悪寒が走る感覚は何時まで経っても慣れそうになかった。


「……??」


前と同じように、確かに魔石の反応がある。だけど、以前と様子が明らかに違っていた。


ドクンっ、ドクンっ。


一定箇所に留まっているが、強弱をつけながら反応しているのだ。まるで、心臓の鼓動のように脈打っていた。

何よりも、ポムフルールの時より、強く邪悪な感じがする。


俺は衣装を脱ぎながら水面から地面に降り立つと、コマとアイルと一緒に足早にその場所まで向かった。


魔石を浄化することにしか頭になかった俺は、背後を追いかけて来る一人の人間の気配に気が付かなかった。

 

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

召喚失敗、成れの果て【完結】

米派
BL
勇者召喚に失敗され敵地に飛ばされた少年が、多腕の人外に保護される話。 ※異種間での交友なので、会話は一切不可能です。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

処理中です...