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第三章 風精霊の棲み処へ
鉱山の街エーデルベルク
しおりを挟む王都に着いてから1週間後、俺たちは風の精霊の棲み処へと出立した。
そして、スフェンたちと話し合った結果、この旅には一人の冒険者が同行することになった。
名前はフレイ。
なんと副団長ヒューズのお兄さんだった。
炎のように見事な赤い髪に、琥珀色の瞳。肌の身体は、鍛え抜かれて所々に古傷が見える。
ヒューズも身長が高いが、フレイは身長が2メートル半はあるだろうか。そして、ガタイがしっかりと大きい。
全身によく手入れされたアーマーを着た姿は、いかにも冒険者のそれだ。背中には俺ぐらいの横幅のある、大剣を背負っていた。
この世界で世間知らずな俺でも知っている、名の知れた冒険者だ。冒険者レベルはS。魔物討伐を主な活動としていて、酒豪としても有名だった。
「お前が『氷花の青魔導士』のミカゲか。俺はフレイ。ヒューズの兄だ。よろしくな。」
そう言って握手をしたフレイの手はとても大きく、鍛え上げられた筋肉と実力が伺える。
『氷花の青魔導士』とは何のことか知らないが、俺も微笑んで挨拶をした。
俺の様子を上から下まで、まじまじと見たフレイは、「冒険者たちに、顔を見せないで正解だな。」と呟いていた。やはり、この白色の髪の事だろう。
雰囲気はヒューズが猛禽類の鷲だとすると、フレイは獰猛な熊と言った感じだ。
顔立ちも兄弟だから似ているが、フレイのほうがよりワイルドな感じがする。
魔物討伐の専門家という体で、フレイも冒険者として同行することになった。
そして、俺たちは東に向かって、隊列を作り馬で駆けた。
東は鉱山の街エーデルベルクが栄えている。俺の地図は、その街から少し離れた山付近を次の目的地としていた。
エーデルベルクに緑炎騎士団の支部があるため、そこを拠点として風精霊の棲み処に向かう算段だ。
道中で魔物を討伐して浄化もしつつ、順調に旅は進んだ。途中で野営もして騎士団の皆ともだいぶ仲良くなった。
食事は干し肉とか味気ないものが多かった。一度、道中で討伐した魔物肉で、肉の香草焼きを作ったときは皆に拝まれた。
騎士団の皆には、「……うまっ!…嫁にしてぇ。」「女王様からの配給、ありがとうございます!」と、変なことを言われた。
女王様って誰?
そして、王都を出て5日後、俺たちは鉱山の街エーデルベルクに到着したのだった。
崖の中にある街は、全体的に石造りの建物が多く、直接崖に穴を掘って家にしている場所もあった。
崖についた窓から、ひょっこりと人が顔を出しているのを見ると、何とも面白い。
そして、高低差を利用して空中に紐を渡し、電球のようなランプを所々に飾っていた。
夜になると明かりが灯って、色とりどりに光り輝き美しいのだと、スフェンが教えてくれる。
宝石商と職人が活躍する街。歩いている男たちも筋骨隆々で鉱夫や職人と思われるものも多い。
表通りは煌びやかな格式の高い商店が並ぶ。観光地としても有名で豪華な宿屋もあり華やかだ。客を招こうとする声も聞こえた。
一歩裏手に入ると、職人たちの石を削る音や板金の音が聞こえてくる。無骨さと豪華さが入り混じった、まさに鉱山都市。
所々には、ドラゴンのマークを描いた旗が飾られ、家の屋根にはドラゴンの形をした風見鶏がある。
馬の手綱を引いて歩いていた俺たちは、表通りの一つ裏側の道を進んで、領主の館を目指していた。
街道を歩いてしばらくすると、大きな広場が目に入ってくる。
「……あれは…。」
広場には昼間でも屋台がたくさん並んでいた。
赤と白の縦縞の布地を屋根にして、外国のマーケットのような装いだ。
俺は馴染みのあるものを見て驚いてしまった。
広場の屋台の大半が、棒に刺した綿菓子を売っている。定番の白色や、淡い緑、可愛らしいピンク色など、色も様々だ。中には紙袋に入れて売っているものもあった。
「ああ、雲菓子のことか?この街の名物なんだ。……ミカゲは雲菓子が好きなのか?」
どうやら、この国では綿菓子のことを『雲菓子』と言うらしい。雲を食べるとは、何ともロマンチックだ。
「いや、俺の国でも同じようなお菓子があったから、つい。子供のころよく買ってもらったなと。」
父がいたときは、うちの神社も小さい規模で縁日を行っていた。
綿菓子の屋台は必ずあって、俺はよく両親に強請って買ってもらっていた。一人だと食べきれなくて、両親と一緒に頬張ったんだよな。
「そうか。あとで買いにいこう。色々な味があって美味しいぞ。」
騎士たちには、仕事の合間に休憩時間が設けられている。その時間帯は、街に出ても良いとされていた。
ずっと働きづめなのは酷だし、知らない街に来たら少しは散策したいよな。
「なーに?ミカちゃん、雲菓子好きなの?かーわいい。オレが買ってきてあげるよ!」
「ツェルベルトさん!」
いきなり音もなく現れたツェルベルトに、驚きの声を上げてしまった。
ツェルベルトは、この討伐部隊には昨日までいなかった。いつ、この街に来たのだろうか?
「いやーん。ミカちゃんのいけず。ツェルって呼んで?」
女の子がお願いするように両拳を口元に当てて、身体をくねらせて言ってくるツェルベルト。
思わず声を出して笑ってしまう。
ツェルベルトは俺のことを『ミカちゃん』と呼ぶことにしているようだ。
「ふははっ!……ツェル。ありがとう。」
「うわー。フード被ってなければ、ミカちゃんの全開笑顔拝めたのになー。」
勿体ない、と言いながら、ツェルベルトはまたどこかに音もなく消えてしまった。
ツェルの性格は、どことなく掴みどころがないんだよな。あんまり音もなく現れないでほしい。
領主の館は、街を見下ろす少し高台にあった。そして、領主の館の隣に緑炎騎士団詰所がある。
飾りもない石造りの質素な騎士団詰所の門に、門番が立っていて、俺たちのことを迎え入れてくれた。
門を入ってすぐに、二人の男性が俺たちを歓迎してくれた。
「紅炎騎士団の皆さん、よくぞ来てくださいました。私はエーデルベルク領主、ノトス・エーデルベルクと申します。魔物討伐のために、我が領に来てくださったこと、心から感謝申し上げます。さあ、長旅でお疲れでしょう。今夜はゆっくりとお休みください。」
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