不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第三章 風精霊の棲み処へ

皇太子殿下

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『スフェン、神殿がちょっかいかけてきてんぞ。たく、何が不浄だ。てめえらの『祈祷』や『浄化』よりはよっぽど清くて美しいわ。神官どもの汚ねぇ心の浄化なんざ、何の役にも立たん。むしろ大地が穢れる。』


口調が荒いというか、ヤンキー口調で罵っている男性は、皇太子殿下だという。

 
『……ただ、あっちは「神殿、ひいては神への謀反である」とほざいてやがる。しまいには、『異端者』を差し出せば、スフェンへの『異端』認定を取り下げようときたもんだ。……渡す気は微塵もねえだろ?』


「ええ、微塵も。神殿には、私も舐められたものですね。……誰にも渡しません。」

 
スフェンが間髪入れずに即答した。
そのスフェンの言葉が、これほどにも嬉しいと思っていいのだろうか。


『いい返事だ。……ただ、国が表立って『異端』とされた浄化をするのは、いささかリスキーだ。神殿の信仰者が増えてる今、国民の不信感を買う可能性がある。……まあ、落としどころは、分かるな?計画を前倒しだな。』

 
「はい。お願いします。」

 
会話の合間に、魔道具からペンが走る音が聞こえる。紙か何かに記載しながら、皇太子殿下は話をしているようだ。

 
『屋敷はあそこでいいのか?まあ、静かではあるけどな。』

「あそこがいいのです。アレク兄上。」

 
分かった、と皇太子殿下が返事をしたあと、厳かで張りのある声が辺りに響き渡った。

 
『ナイアデス国皇太子、アレクライト・クリソン・グランディアの名において、現時点をもって、スフェレライト・クリソン・グランディアの紅炎騎士団団長の任を解く。現在までの功績を称え、侯爵位を与える。並びに王家の土地を下賜する。家名にグラディウスを授ける。なお、爵位は一代限りとする。以降はスフェレライト・グラディウスと名乗れ。』

 
「爵位と王家の土地を賜り、恐縮至極に存じます。スフェレライト・グラディウスの名に恥じぬよう、己を律し日々精進していくことを、ここに誓います。」
 

目の前でスフェンが誓約の言葉を紡いでしばらくすると、再び部屋に皇太子の声が響いた。

 
『……おし。契約魔法も成立したから大丈夫だ。土地は屋敷だけ、領地経営はなし。いわゆる、名ばかり貴族だ。自由に暴れろ。神殿には「王家は『不浄の浄化』なんて知らねえ」って言っとくわ。あとはこっちで黙らせる。』

 
一代限りの爵位は、勲章のようなものだ。国の政治を担う責任のある、由緒正しい貴族とは違う。
逆に言うと権力がないため、政治には参加できない。武勲を上げた平民上がりの騎士が頂戴することが多いとされている。

 
「はい。ありがとうございます。アレク兄上。」

 
『おう。お前の好きなように、好きなやつを持っていけ。売られた喧嘩はただ買うな。完膚なきまでに叩き潰せ。じゃあな。』

 
そこでプツリっと音がして音声伝達の魔法が途絶える。

 
俺は、一連の出来事が早すぎて頭が追い付いていない。スフェンはあっさりと紅炎騎士団長を辞めてしまった。
窺がうようにスフェンを見ると、すうっと俺の頭に手が伸びてポンポンっと頭を撫でられた。

 
「元々、私は王族を抜ける予定だった。それに、騎士団長という地位にも固執していなかった。ただ、武術が得意なだけだからな。」


そんなにも心配するな、というようにスフェンの手が優しく俺の頭を撫でつけた。

左耳のイヤーカフに手を当てて、スフェンは真向いに座るヒューズに話しかける。


「今後のことについてだが、私は騎士団を去る。あとのことは頼んだぞ。ヒューズ。」

スフェンに視線を向けられたヒューズは、ニコっと音がするくらい、いい笑顔で笑った。

「嫌です。私はスフェレライト様に、一生着いていくと決めているので。高い給料で雇ってください。」


即答でヒューズがスフェンに答えると、続いてヴェスターが告げる。


「私も、軍医はそろそろ飽きてきましたから。治癒魔法ができる魔導士、なんて優秀な人材でしょう。私も高い給料で雇ってください。」

 
自分で優秀な人材というくらい、ヴェスターは自身の腕に確かな自身があるようだ。

 
「俺はもともと、宗教とか関係のない冒険者だしな。給料に色つけてくれよ。」

特別手当が必要だろうと、フレイが真面目な顔で言っている。

 
「今後もオレは必要っしょ。というか、ミカちゃんと離れたくなーい。もちろん、給料弾ませてね?」

ツェルはニヤニヤと笑いながら、右手平を上に向け、親指と人差し指で丸を作ってピンっと指を弾いた。

 
「……お前たちは守銭奴か。」

ふうっとため息をついて呟いたが、スフェンはどこか嬉しそうだ。

 
「そもそも、私たちが抜けたとしても、紅炎騎士団の連中に心配はいりません。そんなやわに育てた覚えはありませんから。……そして、我々も殿下に守られるほど弱くはない。」

 
ほんの少し目元を緩ませて、ヒューズがしっかりと明言した。
紅炎騎士団の皆のことを、心から誇り、信じているのであろう。

 
「……この地において、我々6人は騎士団から離脱。次の精霊の棲み処に向かう。騎士団の皆には、明日、このことを伝えよう。……フレイ、冒険者ギルド長のガウロに連絡を頼めるか。俺たちの手続き諸々を頼みたいと。」


「おう、すぐに連絡する。」

小気味よくフレイが了承する。

 

「この街で物資を整える。皆も、急ぎ装備やら何やらを調達しよう。それでは、解散。」

 

それぞれが頷いたのを確認して、スフェンは砂時計を横に傾けた。

 

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