不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第三章 風精霊の棲み処へ

別れと出立準備

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皇太子殿下から音声伝達を受けた次の日、騎士団の皆に6人がここで別れること、スフェンが神殿から『異端』とされたため、騎士団長を辞することを伝えた。


騎士団の皆はあまりの急な出来事に、ショックで言葉が出ないようだった。それもそうだろう。
突然、騎士団長と騎士団の主力メンバーが抜けるのだから。

「神殿め……。」と恨み事を言う者や、言葉に詰まったり、中には涙を堪える者もした。それぐらい、スフェンは紅炎騎士団員の皆に好かれていたのだろう。

 
「皆、突然のことで混乱させてすまない。……ただ、現状ではこれが最善の選択だった。皆には、本当に世話になった。私の指揮にも文句を言わず、よく従ってくれた。」

そこで一度言葉を区切り、スフェンは皆を見渡しながら、力強く言葉を放った。


「常に強く、勇ましく、魔物と対峙していた皆を誇らしく思う。皆に心から感謝する。本当にありがとう。」

スフェンは深々と皆にお辞儀をした。
王族が自ら頭を下げることなど、本来ならばあり得ない。王族とは、別格に尊い存在で安易に頭を下げてはいけないからだ。
スフェンは、それほどまでに皆に感謝をしているのだろう。

スフェンのその真摯な姿勢に、堪えていた涙を皆が静かに流した。

 
「……今生の別れではない。この戦いが終わったときに、誰一人として欠けることなく、再び会い見えることを願う。」


そう言ったスフェンに、皆が「はっ!」と敬礼をして一斉に答えた。

紅炎騎士団の皆と別れるのは4日後。それまでに、それぞれが旅立ちに向かって準備を進めるのだった。

 


「……なんと美しく、穏やかな姿でしょうか。生きているうちに、お会いしたかった……。」

今、俺たちはエーデルベルク領主のノトス様と一緒にアウラドラゴンの眠る洞窟に来ていた。
魔石を浄化した翌日に、スフェンがノトス様にアウラドラゴンが永眠したことを伝えたのだ。

 
ノトス様は、アウラドラゴンが実在していたことに驚くとともに、人間のために犠牲になったアウラドラゴンの死を嘆いた。
そして、『街を守ってくださったアウラドラゴンに、お礼を言いたい。』と、俺たちと一緒に宝石の洞窟に赴いたのである。


「……アウラドラゴンが残した羽根です。どうぞ、お受け取りください。」

俺はアウラドラゴンが残したのは羽根を、ノトス様に手渡した。
アウラドラゴンが残した羽は3枚だった。
1枚はノトス様へ、1枚は風精霊アニマに渡し、最後の1枚はヒスイの傍らに置こうと考えている。

 
そっと、大切なものを包み込むように、両手を差し出してノトス様は羽根を受け取った。

 
「……こんなにも綺麗で、柔らかいのですね……。ありがとうございます。街の守り神の偉業を、私たちは決して忘れません。この羽根とともに、後世に語り継がれることでしょう。」

 
静かに、確かな意思を持った言葉を発したノトス様。ノトス様ならきっと、羽根も大切にしてくれるだろう。


『ぷにゃ。』

俺の肩にとまっていたヒスイが、小さな翼をパタパタと動かして宙を飛んだ。
ノトス様の右頬に近づくと、すりっと頬づりをしてノトス様の両手にポスっと座り込んだ。

 
驚きで目を見開いたノトス様は、優し気な目元にわずかな光を零して、もっと柔らかく微笑んだ。

 
「……貴方様が成長するまで、この棲み処と街は我ら一族が守ります。成長した貴方様が、再びこの地に戻りたいと思えるように……。」


『ふにゃあ。』

誓いを立てるノトス様の親指に、すりっとヒスイが頬づりをした。



騎士団との別れが2日後に迫った日。

ノトス様のご厚意により、その日の夕食時に、緑炎騎士団寮内の食堂で宴会が催された。

鉱山内にいた魔物も、俺が寝ている間に騎士団の皆で討伐していた。今回の魔物討伐任務が無事に終わったことのお祝いと、戦友たちと別れを惜しむ。

 
寮内には大きな食堂があり、木製のテーブルとイスが縦に設置されていて、日本でいう学食のファンタジーバージョン。テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいた。

緑炎騎士団と紅炎騎士団の騎士団員が席を共にする。

 
スフェンによる宴の始まりの挨拶が行われる。

「皆、今回の討伐任務も怪我人なく、無事に果たすことができた。皆の尽力に感謝する。今夜は無礼講だ!好きなだけ飲め!」

スフェンの言葉で、食堂には大勢の男たちの雄叫びが鳴り響く。

そこからはもう、どんちゃん騒ぎだ。騎士団の人の食べっぷりは快活で、見ているこちらも気分が良くなる。
お酒もがんがん飲み干して、さすがは肉体労働者。
飲みっぷりも桁違いだった。


俺はスフェンのちょうど真向いに座っていると、「ご一緒して、いいですか?」と30代くらいの男性が隣にすっと腰を下ろした。

緑炎騎士団エーデルベルク支部のラフィーガ支部長。


必要物資の調達や、寮での生活、この街の地理状況まで、今回の討伐でとてもお世話になった。
影の功労者はラフィーガ支部長である。この宴会にも快く参加してくれた。

 
「ラフィーガ支部長、今回は本当に世話になった。あなたの功績が一番大きい。」

向かいに座っているスフェンが、彼の功績を称える。


「……いいえ。私は、この街で生まれ育ちました。……今回、魔物が鉱山に出たと聞いても、根本的に解決できず歯痒かった。魔物討伐の協力依頼を受けたときには、街を守る手助けができると感謝したくらいです。皆さんと任務を遂行できたこと、とても誇らしく思います。」


木製コップに入った酒をラフィーガ支部長が一口飲んだ。そして、真剣な表情で言葉を続ける。緑炎騎士団エーデルベルク支部の団員は、この街出身の者が多いそうだ。

 
「……あのアウラドラゴンの棲み処は、ノトス様と相談して我々も守ることとなりました。幼きアウラドラゴンが戻ってくるまで、この街も、棲み処も、しっかりと守り抜きます。」

 
アウラドラゴンの死は、街に不安と混乱を招くことを避けるため、限られた人間にしか知らされなかった。アウラドラゴンの棲み処を守る緑炎騎士団の皆には、地元の守り神が永眠したことを知らされていた。

アウラドラゴンが自分たちのために犠牲になったことに、緑炎騎士団員はとても心を痛めていた。

 
「……私たちも、貴方たちと任務を遂行できたことを誇りに思う。この街は、人々の愛に満ちているのだな。とても、いい街だ。」


スフェンにそう言われたラフィーガ支部長は、胸を張って誇らしげに笑った。


「ええ。私もそう思います。」
 

では、と言ってラフィーガ支部長が席を立つと、ツェルが交代で俺の隣にストンっと座った。


「なになにー?真面目な話?……ていうか、ミカちゃんのそれ、ジュースじゃん。」

俺の左隣に座ったツェルが、横から俺のコップの中を覗き込んでくる。

ちなみに俺のグラスはレモンジュースだ。見た目がブドウ、味がレモンの果物でできたジュース。
この世界の果物は、日本の感覚からするとちょっと不思議なものが多い。

レモンの酸味と仄かな蜂蜜の甘味が爽やかなジュースが、俺は好きだった。


「こういう会は慣れないか?」

いつの間にか、スフェンの左隣に座っていたヒューズが、気遣わし気にレモンジュースを注ぎ足してくれる。
 

「いや、楽しいよ。皆すごい飲みっぷりだ。……とくに、フレイはすごいな。」

先ほども騎士団の皆と、飲み比べをしていたフレイ。酒豪として有名なだけあって、全く酔っていない。


「おー。俺を呼んだか―。」

そう陽気な声のほうに顔を向けると、フレイがドカッとスフェンの右隣に座った。
コップの大きさは、俺の2倍以上はあるのではないだろうか?並々と泡立つエールが注がれている。


「……兄貴は昔から酒の強さが異常なんだ。俺は何度潰されたことか……。あまり気にするな。」

ヒューズは向かいから、俺に食べ物を乗せた皿を渡してくれる。
ヒューズは本当に、こういう気遣いがさりげないところが大人だと思う。


「ねえー。ミカちゃん。このお酒飲みやすいよ?ほら、飲んで飲んで?」

ツェルが差し出していたコップには、何やらオレンジ色のお酒が入っている。匂いも甘い果実の匂いがして、確かに美味しそうだ。

 
「こらこら。まだ成人したばかりの子に、そんなの飲ませてはいけません。……まったく、飲み口の良い酒は度数が高いんですからね。ミカゲも覚えておきなさい。」

俺の右隣に座ったヴェスターが、ツェルの差し出したコップをグイっと押し返していた。


へえ。そうなんだな。
俺は酒を飲んだことがないから、知らなかった。

でも、ヴェスターはなんか勘違いしてなかったか?

 
「ヴェスター、俺はもう、とっくの昔に成人になっているぞ?まあ、酒は飲んだことはないが……。」

この世界の成人年齢は日本よりだいぶ早くて、15歳から。

俺はもう18歳だから、この世界では一応酒は飲めるのだ。ただ、酔うと自分がどうなるか分からず、人様に迷惑をかけないように飲んでいなかっただけだ。

 
俺のその言葉に、途端に、テーブルにいた全員の動きがピタリと止まった。

皆が示し合わせた様に固まっている。
どうしたのだろうか?


スフェンが、恐る恐ると言った感じで聞いてきた。


「………ミカゲ、今何歳だ?」

「…18歳だが?」


「「「「「えっ」」」」」

 
全員仲良く、声をそろえて驚いた顔をしている。


あとから聞いたら、俺のことを皆15歳くらいだと思っていたらしい。
中学生に思われてたってことか。
まだ、成長期だよな?身長伸ばそうと思う。



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